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第五十一話 1914.10.27-1914.10.30 光学照準器

第一次イーペル会戦が始まります。主人公の開発の日々も続きます。





1914年10月下旬、大陸派兵を前に行われている、新装備での皇国欧州派遣軍の訓練を視察した。


広大な英軍の演習場を贅沢に使った戦車部隊の演習をまずは視察させてもらったのだが、全車両に無線機を装備した戦車部隊は、統率の取れたキビキビとした動きをしていて、正に前世の演習を彷彿とさせ、胸が熱くなるものがあった。


ちなみに、戦車の塗装は戦地がフランスというのもあり、俺のスケッチがベースになっているが、フランス軍の濃緑、薄緑、焦げ茶の三色迷彩に塗装してある。


既に吹き付け塗装技術は存在するので、ハケやローラーで整備部員総出で塗った訳では無くて、金属製パターンの型越しに塗料を吹きつければ簡単に仕上がるようにした。


それは兎も角、視察に来ている英軍の将校も我が皇国戦車隊の動きに感心した様子でしきりと褒めている言葉が聞こえてきた。


旗信号だけでこんな動きは無理だと思うが、結局英軍は、現時点でも指揮車両にしか無線機を装備しておらず、全戦車に搭載する迄には至ってない。

理由としては、今の時点での無線機の信頼性を疑っている事と、英軍が採用している無線機は大型で車載を前提としていない事、更には現在英軍で使用中の野戦無線機自体が導入して日が浅く、良い無線機が出たからと言ってすぐに飛びつくわけにもいかない、というところが有るのかもしれないな。


そもそも我が皇国の派遣軍は、規模が小さく色々と融通が利きやすい。だから新装備は、まずは我が軍が使って見せ、そしてその有用性が発揮されれば、自然と英軍側から導入の打診をしてくるだろう。



戦車部隊の演習を視察して感じたのが、戦車その物の性能に関しても、将兵の練度に関しても申し分がない。しかし、不安が無いのかと言えば、実はある。


この時代の一般的な火砲には精密射撃をする為の光学照準器が無いのだ。


小銃用の光学サイトはあるのだが、火砲用の物が無い。


この時代の戦車で最も採用されている6Pdr砲、ドイツでいう57mmノルドフェルト速射砲だが、そもそも直接の目視が困難になるような遠距離への精密射撃は考慮されておらず、ルノーFTに搭載されたプトー砲にしても同じだ。


結局、英軍に納品した6Pdr砲搭載型の戦車に関しては、従来と同様の目視による照準仕様となっているが、それについては実際に訓練や演習などで運用してみた英軍から、照準器について何か要望が出た、という事も無かった。

むしろ、既に英軍で装備品となっている火砲が主砲というのは歓迎されたくらいだ。


そこで、無いならば作ってしまえという事で、この時代では光学照準器の第一人者だろう人物を、ビッカースに入社する前にウチの会社で確保させてもらった。


その人物はハワード・グラップ。日本だとあまり馴染みのある名前では無いが、天体望遠鏡設計者としてその筋では知られた人物で、電影照準器の発明者でもある。


結局、今迄も電影照準器に興味を持つ人はいたものの、本格的に開発したり採用されたりする事はなく、後に彼はビッカース社に入社するが、ビッカース社が彼を採用したのは潜望鏡を作らせるためで、実際に彼が作製を望んだ電影照準器を開発するのは更に後で、そして完成させた照準器を対空用装備として軍に売り込んだが、結局不採用だったそうな。

英軍がその手の装備を採用するのはさらに十年後、別の人物が別の会社で開発したものだった。


だが、彼の発明品は火砲や銃器の為の照準器として有用なだけでなく、航空機の為の光学照準器にだって応用できる優れものだ。


つまり、誰よりも一足先に光学照準器を、うちの会社の戦闘機に装備できる可能性があるって事だな。


それは兎も角、流石にグラップは望遠鏡で既に実績を積んでいる人物だけに、俺がドイツ軍の戦車用光学照準器を元に書いた仕様書から光学照準器の試作品を比較的短期間で作り上げ、そしてその先行量産品を皇軍向けの戦車砲に装備するに至ったのだが、難点があった。


当たり前だが、光学照準器はガラス製品であり精密機器、つまり衝撃に弱いのだ。


戦車が不整地を全速で走ると酷く振動するし、戦車砲は一発撃つごとに衝撃が走るし、被弾すればもっと衝撃がある。


直ぐに補修の効く今なら良いが、前線に出ればその限りではないだろう。

勿論、目視での照準も可能にはしてあるし、同軸機銃もあるから最悪何とでもなるんだろうけど、折角の光学照準器が使えなくなるのは避けたいところだ。


既に傘下のガラスメーカーや開発者であるグラップに信頼性の向上を頼んでいるし、彼等はそれに意欲的に取り組んでいるからいずれ解決するとは思うが、当面は今のまま行くしかなさそうだな…。




欧州戦線は後に第一次イーペル会戦と呼ばれることになる、大規模な戦闘が始まっている。


ランゲマルクの戦いとも呼ばれて居る、志願兵からなる新兵主体の新設の予備師団を含むドイツ第四軍、第六軍による大規模な攻勢は、一度はイペールの街を占領するが、結局守備を担当する英軍の陣地から降り注ぐ迫撃砲弾と濃密な銃火を突破することが出来ず、夥しい屍を戦場に残し頓挫した。

史実では会戦緒戦のドイツ軍勝利としてプロパガンダにも利用された程だが、この世界での史実ではどう語られるんだろうな。


英国では、クリスマスまでに戦争は終わる、と未だ楽観ムードに包まれているが、戦争を早期に終わらせる為にも、我が皇国軍は十一月にもフランスへと渡ることになる。



光学照準器は初期の耐久性の問題を未だクリア出来て居ません。


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 今迄もそうでしょうが、今後も前世知識&アイデアと現実の冶金技術や耐久性&信頼性との鬩ぎあいのジレンマで悩ましそうですね(><) 果たして欧州派遣部隊の欧州戦場デビュー…
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