第四十九話 1914.10.15-1914.10.20 欧州派遣軍到着
漸く皇国の欧州派遣軍が到着しました。
1914年10月中旬、遂に我が皇国の欧州派遣軍が、英国のポーツマスへと到着した。
極東から遥々長い航海の末に英国へ辿り着いた皇国の艦隊は、大歓迎をもって迎えられた。
因みに、日本人にとって〝ポーツマス〟という名は先の日露戦争の折に結ばれたポーツマス条約が調印された地として知名度が高いが、実は条約が結ばれたポーツマスは米国の同名の都市であって英国のポーツマスとは全く別の都市だ。
皇国は太平洋側でも前世の史実通りにドイツとの戦線を持っており、第一艦隊、第二艦隊といった皇国の主力は太平洋側で活動している。その為、欧州へ派遣された艦隊は臨時編成された特務艦隊である。
その編制内容は、英国からの要請通り最新鋭艦である金剛、比叡の二隻の巡洋戦艦を中心に、防護巡洋艦二隻、駆逐艦八隻からなる戦闘艦から構成されていて、旗艦は金剛、欧州派遣艦隊の艦隊司令は加藤大将が務めている。
それらの戦闘艦が、皇国軍の将兵を運ぶ為に日本郵船などから戦時徴用された貨客船を護衛する形で英国までやって来たという訳だ。
ポーツマスに到着した皇国軍将兵は、休む間もなく上陸した埠頭に整列すると、英国の騎馬警察の先導で、白馬に騎乗した親父殿を先頭に黒い制服にシャコー帽という礼服を着た我が皇国軍の将兵が一糸乱れぬ堂々たる行進で目抜き通りを抜け、専用列車の待つ駅へと到着した。
そこから専用列車に乗り込むと、駐屯地として提供された英軍の演習場に進駐した。
既に演習場には、簡易ではあるが駐屯地として必要な施設を用意してあり、遥々日本からやって来た将兵達にテント暮らしをさせるつもりは勿論ない。
皇国軍はこの駐屯地で準備を整え、新装備の習熟訓練を終えた後に大陸へ渡る予定だ。
親父殿ら欧州派遣軍首脳は、到着したその日から英国王室への表敬訪問に向かったり、英国高官らと諸々の折衝をしたりと多忙な日が始まった。
俺の方も皇国軍将兵の受け入れを行ったその日から、食料日用品医療物資といった補給物資の搬入やまだ運び込みが済んでいない装備の搬入、諸々の便宜を図ったり手配をしたりと、兎に角やる事は多岐雑多で多忙なこともあり、一段落する迄俺と親父殿が顔を合わせる時間は取れそうになさそうだ。
自ら買って出た事とはいえ、中々にハードな日々だ。
今回英国に到着した皇国軍は地上部隊の将兵ばかりではなく、航空機のパイロットや航空要員、他に強襲揚陸艦に乗り込む要員まで一緒に来ている。
ちなみに、強襲揚陸艦は既にビッカースの造船所からテムズ造船所へと移されて艤装作業が進んでおり、艤装が済み次第偵察機の発着艦試験をやる予定だ。
欧州派遣軍の陸上部隊の主戦力は独立混成第一旅団、第二旅団の二個混成旅団であるが、第一旅団を騎兵出身の長沼少将、第二旅団を同じく騎兵出身の鈴木少将がそれぞれ旅団長を務めている。
どちらの旅団長も日露戦争の従軍経験者であり、騎兵出身者ながら日露戦争での実戦経験から、機関銃の登場で騎兵の限界を理解しており、騎兵部隊の機械化に関しても推進派であったので、この度の遠征軍の旅団長任命はその辺りが理由の様だ。
長沼鈴木両旅団長以下混成旅団幕僚らとは駐屯地で話す機会があったが、俺が皇国に残した機甲戦に関する資料なども既に読み込んでおり、皇国で戦術に関しても更に研究し、机上演習なども重ねて来たらしい。
俺の元に先にやって来た山下、石原、牟田口ら若手将校の先発組は当面は教導団を編制し、欧州派遣軍の将校や下士官に対しての新装備の教育を行うことになるらしいが、本人らの強い希望もあり、いずれは実戦部隊の前線指揮官として配属されることになるのだろう。
俺は、特に山下には、皇国における機甲戦の大家として活躍してほしい、と期待している。
欧州派遣軍が駐屯地へと進駐し、フランス上陸に向けて準備の為に動き出した頃、俺は久しぶりに宮嶋警部補、いや今は大尉か。つまり、特殊部隊の指揮官と会った。
「大尉、暫らくぶりです」
「大佐殿、漸く到着いたしました」
「本国から報告は受けています。
精鋭部隊を連れて来たようですね」
「はい、考え得る限りで最良の人員で来ました」
「大尉の部隊の働き次第で、戦局を遥かに有利に進めることが出来るでしょう。
そしてそれが、我が皇軍将兵だけでなく同盟国の兵士達の命を守る事に繋がる」
「ご期待に沿えるよう微力を尽くします」
「そんな大尉の部隊が存分の活躍が出来るよう、実は特別な装備を用意してあります」
「特別な装備ですか?」
「別室へ移動しましょうか」
そういうと、大尉を装備を展示している部屋へと案内した。
「これが特殊部隊向けに新たに用意した装備です」
「こ、これは…」
大尉は唖然とした表情で新しい装備に見入っていた。そんな大尉に俺は、武器や装備品の説明を順に行った。
特殊部隊の為に俺が用意した武器は、アタッチメントが任務に応じて取り付けられるアサルトライフルを更にカスタマイズしたアサルトカービンやマークスマンライフル、12.7mmの弾丸を発射できる対物ライフルといった銃器の他、煙幕弾や催涙弾、擲弾を発射できるグレネードランチャーを用意した。煙幕弾、催涙弾、擲弾は手で投げる事も可能だ。
更には高性能爆薬や、使うかどうかわからないがコンパウンドボウなんかも用意してある。
装備品としては新型ヘルメットや迷彩服に防寒具、セルロイドのゴーグルにガスマスク、煙の出にくい固形燃料等の野営道具といった新型装備などを用意した。
これらの装備を存分に使いこなすことが出来れば、敵地に潜入して行うどんな作戦にも対応できるだろう。
「これだけの素晴らしい武器や装備があれば…。
それに見合うだけの働きをお見せできるでしょう」
「期待しています。
新しい武器や装備品に関しては、実際に使ってみて不具合や使用感などの報告書を必ず上げてください。
これらの特殊部隊向けの武器や装備はコストが決して安くない為、一般将兵にまで行き渡らせるのは難しいかもしれないですが、特に有用なものは、生産性を高めてコストを下げる努力は必要としても、配備を進めたいと考えています」
「承知いたしました」
宮嶋大尉率いる特殊部隊は混成旅団の出撃に先駆けてフランスに渡り、戦況の把握など情報収集に努めてもらう事になっていると聞いた。
現代の忍者部隊の活躍に期待したい。
日本の欧州派遣軍はBEFと同じ感じでJEFと呼ばれそうです。