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第四十七話 1914.9.15-1914.9.25 テスト飛行

いよいよテスト飛行です





1914年9月上旬。カム設計局の開局から一週間後、テスト飛行の立ち合いに英国や皇国の関係者が居並ぶ中、うちの会社の私設飛行場に併設された大型格納庫に、三つの設計局のプロトタイプ機が一堂に会した。


デハビラントの偵察機、フェアリーの爆撃機、そしてブロッホの戦闘機の三機だ。


大きさはフェアリーの爆撃機が一番大きく、その次がデハビラントの偵察機で、それらの二機に比べればブロッホの戦闘機は大分小ぶりに見える。


デハビラントの偵察機はローレッジのV型8気筒液冷エンジンを搭載していて、ブロッホの戦闘機にはローレンスの9気筒の星形空冷エンジンが搭載されていた。そしてフェアリーの爆撃機はエンジンの出力不足を解消するために機体を再設計して、結局ローレンスの星形空冷エンジンを搭載する単発機となっていた。


期待しているローレッジ渾身のV型12気筒液冷エンジンはまだ量産には至っていないが、その後の改良で既に出力が350馬力を超えており、年内には量産に入れるだろう、との見通しだ。


V8は元々、車両用のエンジンだからな。



ローレンスの星型空冷エンジンも、その後の改良で更に出力を高めて200馬力から220馬力へと向上していたが、更に信頼性と生産性を高める為に再設計に入るとの事だ。




今回のテスト飛行でテストパイロットを務めるのは、うちの会社が雇っている二人の民間パイロットの他、英軍から派遣されて来たテストパイロットの計三人。


デハビラントの機体に搭乗するのは、デハビラントの以前の職場から付き合いのあるベテランパイロット。

フェアリーの機体に搭乗するのも、フェアリーの紹介でウチに来たベテランパイロットだ。

そして、ブロッホの戦闘機に搭乗するのは英軍から派遣されて来たパイロットで、勿論この人もベテランだろうな。



プロトタイプ機なので飛行中にトラブルなどが無いように、テスト当日まで地上でのエンジンの耐久テストや機体の強度チェックを慎重に何度も繰り返し、入念に何重にもチェックを入れてして信頼性を高めて来た。


だから、初飛行で無様に空中分解、というのは無いと信じている。



現在うちの被服部門で作らせているパラシュートが出来上がれば、多少はパイロットの生存性を高められるとは思うんだが、残念ながら今回のテスト飛行には間に合わなかった。




テスト飛行は、まずはデハビラントの機体から。


デハビラントの機体のテスト飛行が終われば、次はフェアリーの機体、そして最後はブロッホの機体と、一機ずつ順番にテストメニューをこなす予定だ。


勿論、試験にはトラブルが付き物の筈で、本来はこんなにまとめて、しかも順番に飛ばすなんて事はありえず、もし途中で深刻なトラブルに見舞われた機体があれば、その時点で全てのテストが中止になってしまう可能性もある。しかし今回は、三つの設計局の強烈な意気込みを感じたので何も言わずに三機まとめてのテスト飛行を行う事にしたが、こんなイレギュラーな事は今回が最初で最後になるだろう。


まあ、三機とも一度にテスト飛行を成功して見せれば、この分野でのうちに対する世界からの認知度は確実に高まるだろう。


何しろエンジンから機体迄全て自前で開発しているのは、今の時点ではうちの会社だけだからな。

この時代、イギリスと言えども自国の航空機に採用されているエンジンの多くは、フランスのノーム社製エンジンなのだ。





そんな事を考えていると、我々の前を、今や聞きなれた出力150馬力のローレッジのV型8気筒液冷エンジンのエンジン音を響かせてデハビラントの機体が滑走路へと危なげなく移動して行き、合図と共に滑走路を滑り出すとその持ち味そのままに、ふわりと離陸に成功した。


離陸距離は俺が前世で見慣れた飛行機に比べてかなり短く、離陸速度も前世のスポーツカーなら楽に出せそうな速度だ。


デハビラント機のテスト飛行は危なげなく安定性の良さを発揮し、テストの全メニューを済ませると滑走路へと舞い戻って来た。


地上から見る限り、何の問題も無いな。



今はまだ飛行機に無線機は搭載しておらず、テスト結果はテストパイロットが地上に戻ってからの報告を聞く形になる。


テストパイロットの報告によれば、デハビラント機の機体や運動性能には特に問題はなく、最高速度は159km/hを記録したとのことで、安定性に優れているこの機体は、この時代の偵察機として十分な性能の様だな。





デハビラント機の次は、単発機に再設計されたフェアリーの爆撃機だ。


当初の双発機の時より機体は小型化したが、それでも同じ複座機のデハビラントの偵察機と比較すると、やや大きい機体だ。


武装も、機首に二挺の同調機銃と後部座席に二挺の機銃を装備する重装備で、まだ運動性能はわからないが、この機体は重戦闘機としても運用可能なのだろうか?



こちらの方の機体はV型8気筒液冷エンジンとはまた違った、星形9気筒空冷エンジンの排気音を響かせながら、空へと舞い上がる。


繊細なイメージを纏うデハビラントの機体とは異なり、このフェアリーの機体は武骨な印象を受けるな。


正直、まともな爆撃照準器も無いこの時代の爆撃精度がどの程度の物なのか想像もつかないが、それでも〝空から爆弾が降ってくる〟という脅威を示すには、爆撃機は必要だろう。


個人的には塹壕などの陣地の類への攻撃は、空からの焼夷弾の大量投下が一番有効だと思うんだが、落とされる方はたまったもんでは無いだろうな。



フェアリー機のテスト飛行を眺めながら爆撃機の色々を考えていると、テストメニューを終えたのか降りて来た。


着陸も特に問題なく、テストパイロットが報告に戻って来た。


こちらもデハビラント機と同じく飛行特性に問題は無く、しかも驚いた事に最高速度は162km/hを記録したそうだ。


偵察機よりも重い機体ではあるが、馬力のあるエンジンを搭載した結果、その重量差を相殺した上にさらに優速になって、今の時点で存在する爆撃機の中でも一番優れた性能を有する機体だと思うぞ。


ちなみに爆弾懸架装置は、この機体を英軍が採用した場合は、英国製の物を英軍が取り付けるそうだ。

我が皇国が使用する爆撃機には、俺が図面を引いた爆弾懸架装置が取り付けられる。





最後はブロッホの戦闘機のテストだ。


実のところ、本日のテスト飛行ではこの機体が真打と言える。今の時点で存在する戦闘機の中では最も強力なエンジンを搭載しているのに機体は小さくて軽く、更には機首に同調機銃を二挺搭載しているので、攻撃力においても他の全ての戦闘機を圧倒する。


ブロッホの戦闘機と同程度の性能の戦闘機が出てくるのは、前世の歴史では大戦の末期なので、この世界で恐らくこの戦闘機は、暫くの間ドイツの航空戦力を圧倒するだろう。


全長6mの機体はアルミニウム合金を採用した金属モノコック構造となって居て、パイロットの全周視界を確保するための配慮がなされている。


8mm機銃はエンジンカウルに半埋め込み式に搭載されて居るので、これは空力性能を改善し、更には前方視界の改善にも寄与しているのだろう。


空冷エンジンは完全にエンジンカウルの中に収められている。そしてプロペラにもスピナーキャップが取り付けられているので、非常に洗練された機体に見えるな。



この機体が格納庫から現れた時、初めてこの機体を見た関係者は思わず声を上げてしまったほどで、これが戦場の空を飛んだら、かなりのインパクトを敵味方に与えるだろうな。


まさに、うちの会社が世に送り出す最初の戦闘機に相応しい機体であり、ブロッホをわざわざフランスからスカウトしてきた甲斐があったという物だ。



実は、この機体の整備チームには本人の希望でエンジン設計者のローレンス自身も加わっており、最初にローレンスのエンジンの採用を決めた設計局がブロッホの設計局だっただけに、思い入れも大きい様だな。



関係者が固唾を飲んで見詰める中、爆音を轟かせ滑走路へと進入したブロッホの戦闘機は、合図と同時に滑走路を滑り出す。

これ迄の二機と比べると明らかに離陸速度が速く、直ぐにふわりと空に舞い上がる。


予定高度に上がると英軍のテストパイロットは、ベテランらしくテストメニューを手際良くクリアしていく。


最高速度の測定、そして上昇性能、下降性能、旋回性能等のチェックなど、戦闘機に必要とされる性能を次々にテストしていく。


それらを地上から見上げる関係者は正に〝手に汗握る〟という言葉がぴったりの様子で、真剣な表情で大空で展開されている航空ショウを眺めていた。



やがて、すべてのテストメニューを終えたブロッホの戦闘機が、滑走路へと舞い戻って来た。


無事に着陸すると、テストパイロットが我々の元に戻って来た。


彼の第一声は「素晴らしい」だった。





後日、それぞれの機体のテストパイロットや現場の整備スタッフなどから、テスト当日の詳細なレポートが上がってきた。


それを元に、さらに量産化へ向けてブラッシュアップするのだ。



英国政府からは、〝今回テストした三機種すべて採用する〟との連絡があり、納品計画書の提出を求められた。


勿論、既に大量生産に向けて準備は進んでいる。


飛行機においても他社に負けない生産力を発揮することが出来るだろう。



テスト飛行に立ち会っていた、実際にこれらの機体を皇軍で運用する予定の永田ら皇国関係者の様子も〝狂喜乱舞〟という言葉がぴったりで、テストが終わった後も、機体を整備点検している風景を飽きることなく何時までも眺めていた。




テストを終えて一週間ほどした頃、フランスに航空機の調査買い付けに来ていたらしい中島大尉らがイギリスへと渡って来た。


航空部隊の司令官を務める徳川中佐がフランス贔屓なところが有るから、中島大尉らはまずフランスへと送られた様だな。



中島大尉らに早速うちの飛行機を見せてやったら全員がアングリしていたが、まさか航空先進国と信じて疑わないフランス以上のレベルの飛行機が英国で見られるとは思わなかったか。


うちの飛行機を見た中島大尉は、『我が皇国も国内でこの位の飛行機を作れるようにならなければならない』と、皇軍関係者を前に力説していたが、それについては全く同感だ。


その為にわざわざ皇国から英国へ有望な若手を呼び寄せては勉強させ、実地で経験を積ませているんだからな。



中島大尉一行は更に英国を視察して、来月には帰国するとの事だ。








これで一先ず飛行機が出来上がりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ブロッホは全金属製複葉機ですかね? これってドイツも戦争中期辺りにユンカース の全金属製単葉機(史実では戦争に間に合わ なかった)が出てくる可能性がありそう。 でも多分英軍機には勝てなさそう…
[一言] これ、中島さんイギリスに戻って来んな、若手や有望株引き連れて(確信) そういえば、二宮忠八氏はどうすんの?
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