第四十六話 1914.9.2-1914.9.15 海上輸送
テムズ造船所再登場
1914年9月上旬、俺はうちの会社が所有するテムズ造船所へと出向いた。
テムズ造船所は、工場再開後の一号船となった一万トン級タンカーが無事に竣工し、既に発注者である大日本帝国石油公社へと納品されている。
このタンカーはバルバスバウを採用するなど、この時期の民需用船舶としては先進的な船になったと思う。
二号船もつい先ごろ納品され、大日本帝国石油公社は暫く二隻を使ってみて運用結果が良ければ追加で発注するとの事だ。
タンカー建造は取り合えずここで一段落で、次の仕事はRORO船の建造を始めた。
既に鉄道フェリーという、後のカーフェリーの先駆けの様な船はあるのだが、この船は鉄道に特化している為、岸壁への横付けに対応していないなど、車両輸送という意味では色々不便な所がある。
そこで前世の次代の民間RORO船をモデルに、1万トン級の横付け式の2ランプ型RORO船を建造することにしたのだ。
全長は170m、積載能力は積載時の余裕も見て1台13mとして160台。船首、船尾ともにランプ強度は60tを想定している。
将来の民間転用を可能にするという条件で、一隻目の発注者は我が皇国政府だが、英国政府の役人も視察に来ていたから、英国からも発注があるかもしれない。
他にも、ブロック工法開発も兼ねて生産性の高い貨物船の建造を始めている。
勿論リバティ船の失敗を知って居る俺は、先回りして脆性破壊対策を徹底している。
それと並行してSM490材の様な溶接性の高い素材の開発も必要だろうな。
ブレアリーの研究室は今後も大忙しだ。
そう言えば、金属疲労などの研究というとアラン・グリフィスが有名だが、そのグリフィスがうちの会社の航空機部門にインターンで入って来た。
とりあえず、ランチェスターの下に付けて色々勉強させようと思う。
さて、今日俺がテムズ造船所まで出向いた理由は、前から新たなプロジェクトを英国政府に売り込んでいたのだが、それが更なる輸送能力の増大を求める軍の要望と合致して遂に採用になったのだ。その絡みで、英国政府の役人の案内をする為だ。
去年の11月にテムズ造船所を買収してから開戦を見越して設備拡張に努めてきたが、ここに来てそれが報われた感じだな。
今回俺が提案していた新たなプロジェクトとは、メガフロートの建造とそれを利用した海上物資集積拠点の建設だ。
つまりは、第二次世界大戦の時のマルベリー的な物だ。
異なる点は、メガフロート式にすることで時間は掛かるが、必要があれば別の条件を満たす海岸に移動させることが出来る。
そして、海上物資集積拠点から陸地迄はマルベリーで使用した桟橋に類似したポントゥーン橋を使用する事になる。
メガフロートは複数建造する必要があるため、テムズ造船所以外にも幾つかの造船所で建造される事になっており、それらをタグボートで曳航してフランスの海岸まで持っていく事になる。
これで、戦車などの重量物も円滑に運ぶことが出来る様になるだろう。
9月中旬、ビッカース造船所で建造中だった強襲揚陸艦が無事進水した。
進水式には皇国の関係者の他に、英国側からもそれなりの地位の人物の参加があった。
俺はビッカースに出向中の藤本の案内で、進水したばかりの強襲揚陸艦の内外を色々と見学したが、俺の書いたポンチ絵から良くこれだけの物が完成したな、と俺自身が感心するくらいよく出来ていた。
艤装はこれからだが、良い艦に仕上がるのではないだろうか。流石ビッカースというべきか。
英国もこの艦には興味がある様で、皇国での運用の結果次第では英国も同種の艦を導入するかもしれないな。
一先ずビッカースで完成させて我が軍に引き渡された後、俺の所のテムズ造船所で更に装備を追加する予定だ。
航空機を船で運用するには着艦ワイヤとか着陸誘導装置とか、必要な装備が色々あるからな。
強襲揚陸艦、進水。本稼働は年明けになる予定。