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閑話四 1914.8.22-1914.8.23 モンスの戦い

英軍中尉視点のモンスの戦いです





1914年8月22日 モンス郊外ニミー鉄道橋 スティール中尉



我々ロイヤルフュージリアーズ第四大隊は、ベルギーモンス郊外にあるミニーという村落の側を流れる運河に架かるニミー鉄道橋の守備を命じられた。


ベルギーはドイツ軍の大攻勢に晒されており、我々BEFはベルギーを奪還すべくこの地域に展開するフランス軍のランレサック将軍麾下の第五軍を支援する為、モンスの北を流れる運河に沿って防御陣地を構築し、第一軍が右翼、第二軍が左翼の守備を担当する事になった。


司令部で聞かされた、仏軍から我が軍に求められた任務は、仏軍の側面支援であり、正面のドイツ軍部隊がモンスから突出して仏軍の側面に出ることを阻止して欲しい、との事だ。



戦争は既に始まっているのに我々遠征軍はまだ戦闘を経験していないが、ドイツ軍やフランス軍の様な徴募兵からなる軍隊とは異なり、我々は全員が志願兵、つまり高度に訓練されたプロの軍人なので、楽観ムードが漂っていた。


いざ戦闘が始まれば、直ちにその本領を発揮する事だろう。


装備されている武器にしてもドイツのモーゼル小銃は優秀だが、我軍のエンフィールド小銃の性能も負けてはいない。しかも我々の高度に訓練された兵士が操作すれば、千ヤード先の敵部隊に兵士一人で一分間に三十発もの弾丸を撃ち込むことが出来るのだ。


その全力射撃は、さながらビッカース機関銃の様だと言われる。


とはいえ我が軍の主力機関銃であるビッカース機関銃は、最大で毎分六百発もの弾丸を安定してばらまき続けることが出来る。


如何にエンフィールド小銃が優れていて、良く訓練された兵士がそれを用いたとしても、全力射撃を延々と続けることは難しい。


少なくともエンフィールド小銃の最大装填数である十発を撃ち尽くせば、弾丸を再装填しなければならないし、兵士の集中力、体力も無限に続く訳では無い。


その点、ビッカース機関銃は操作する三人の兵士が健在である限りいつ迄も射撃を続けることが出来るのだ。



そんな頼もしいビッカース機関銃を装備したディーズ中尉が指揮する機関銃分隊が、ニミー鉄橋の袂でサンドバックに土を詰めて陣地を設営しているのが見える。


私が指揮するB中隊百二十名は鉄橋左翼に展開しており、中尉の機関銃分隊と協力してドイツ軍の進軍を阻止しなければならない。


ディーズ中尉の機関銃分隊より一足先に到着していた我々は、既に運河の土手に沿ってサンドバックを並べた陣地の設営を終えている。


機関銃分隊の射撃継続能力は拠点防衛に欠かすことが出来ないが、我らが歩兵部隊にもビッカース機関銃と同時期に我が軍に採用された、エンフィールド軽機関銃Mk1という優れた相棒が存在する。


この軽機関銃は重さが8キロとエンフィールド小銃二挺分の重さがあるが、ビッカース機関銃より遙かに軽便で扱いやすく、しかもベルト給弾式で、75発の弾帯が入るドラム型弾倉か、250発の弾帯が入る大型の箱型弾倉を装備することが出来る。


つまり、50キロ近い重さがあり、一度据え付けると簡単に動かすことが出来ないビッカース機関銃と異なり、部隊の移動に合わせて随伴しながら支援射撃が可能なのだ。


しかも、指揮官込みでわずか三人で充分に運用が可能であり、言い換えれば分隊レベルに配備が可能な機関銃だった。


このエンフィールド軽機関銃Mk1を装備した歩兵分隊は、飛躍的に火力が向上した。何しろ十名で構成される歩兵分隊のうち三名を機銃班にするだけで、毎分六百五十発もの弾をそれなりの精度で撃ち込むことが出来る。つまりは、エンフィールド小銃を持つ歩兵二十名以上の弾丸を三人で無理なく撃ち込めるのだ。


言い換えれば、この軽機関銃を配備した分隊は、従来の小銃のみの歩兵分隊の火力の三倍以上の火力を持つことになる。


この火力向上に惚れこんだ上層部は、この軽機関銃がビッカース機関銃より遥かに生産性が高くしかも調達価格が安かった為、歩兵分隊の標準装備にすることに決定し、それに合わせて歩兵分隊の編成も変更になった。


発射速度が速いので連続射撃時には頻繁に銃身の交換が必要であるなど、ビッカース機関銃に比べれば連続射撃能力が劣るが、その火力は勝るとも劣らない。


その軽機関銃が、我が中隊だけで十二挺も配備されており、これ程の火力を持つ歩兵中隊があるのは、私の知る限り我が軍だけだ。


今回の任務は防御任務である為、全ての機銃班には行き渡らないが三脚も用意してあり、また防御戦闘には威力を発揮する250発入り箱型弾倉と交換用の銃身も多めに持ち込んである。


これで憂いなく任務を遂行することが出来るはずだ。




機関銃分隊の陣地設営が一段落したところで、機関銃分隊と合同で射撃訓練を行った。


敵の侵入方向である運河の向こうの側の土手にどの程度の火力を投射できるか、という事を予め見ておく意味もある。


運河の対岸の土手に空き缶を幾つも並べ、先ずは機関銃分隊の射撃訓練を行った。


運河の向こう側の空き缶に向けて、ビッカース機関銃が軽快な発射音を響かせて弾丸を撃ち込んだ。

ひとしきり撃ち終わったので空き缶を確認してみると、ビッカース機関銃は弾が散るのか、標的の空き缶の周囲に散らばる弾痕に比して思ったほど缶への命中弾は多くなかった。


次に我が歩兵中隊が射撃訓練を行い、エンフィールド小銃で空き缶を射撃したが、ほぼ缶に命中しており、ビッカース機関銃は命中精度という意味ではエンフィールド小銃の精度は期待できない事が解った。


そして最後に、機銃班がエンフィールド軽機関銃Mk1での射撃訓練を行った。


ビッカース機関銃より発射速度が速い事もあり、バイポッドのみでの射撃の場合連射を行えば銃身が跳ねてしまう為に途端に命中精度が落ちるのだが、熟練の射手は心得たもので、ある程度連射を切りながら射撃を行う事で高い命中率を保つ事が出来るので、標的である空き缶を穴だらけにした。


三脚に固定した場合はバイポッドを装着した射撃よりも更に集弾率が高いのだが逆にそれが仇となり、一挺での面制圧力という意味ではビッカース機関銃にはまるで敵わないようだ。


しかし配備数が多い為、その分射点を増やすことが出来る。そう考えれば、機関銃分隊と協力すればお互いを補い合って、高い阻止力を発揮することが出来るだろう。




8月23日午前8時



朝の静けさの中、鉄橋の向こうに続く道から遂にドイツ軍が行進してきた。


そう、正にパレードで行進するかのように隊列を組み、整然と行進して来たのだ。


その隊列が橋に差し掛かったところで、ディーズ中尉指揮の機関銃分隊のビッカース機関銃が火を噴く。


まるで草を薙ぐように、ドイツ兵が刈り取られバタバタと倒れていくのが見えた。

ドイツ兵達は僅かに後列の兵士達が撃ち返して来ただけで、殆どの兵士達は為す術もなく撃ち殺されてしまったのだ。


わずか数分で数百名ものドイツ兵が死体となって道に倒れ伏したのを見て、些か罪悪感を感じる程だった。




しかしそれから十分も経たず、今度は道の両サイドに広がる林から散開したドイツ兵が攻撃を仕掛けて来た。数に物を言わせ、木陰に隠れながら巧みに射撃を加えてくる。


我が軍も直ちに撃ち返し、数に勝る敵に数倍する火力をもって敵を制圧していく。


エンフィールド軽機関銃Mk1のもたらす火力は期待以上の物で、その命中精度の高さもあって敵兵の隠れている木ごと薙ぎ倒していくのだ。


勿論、機関銃分隊のビッカース機関銃も弾を吐き続け、鉄橋を確保せんとする敵部隊を圧倒して釘付けにしていた。


しかし敵もさる者、散々に撃ち込まれて来る弾丸に少しもひるまず、次々と林から現れてはこちらを銃撃してくる。


だから我が方も無傷では居られず、勇敢な兵士達が幾人も倒れていった。


特に機関銃分隊の射手はどうしても狙われやすく、次々と射手が被弾して倒れてしまい、その度に新たな射手へと交代していく。


やはり、ビッカース機関銃は特にそうだが、機関銃を三脚に据えて陣地で構えると射手はどうしても身体を曝してしまうので、これでは当ててくれと言っているようなものだ。


その点、バイポッドのみで歩兵と並んで射撃をしているエンフィールド軽機関銃Mk1の射手は、被弾する者が少ないように見えた。


しかし、苦戦する自分の部隊と機関銃分隊を見て私は、〝増援と砲兵による支援射撃を頼む〟とのメッセージを伝令に託すと大隊司令部へと送り出した。



それからもドイツ軍の波状攻撃は止む事が無く、戦闘開始から二時間を過ぎても我々は攻撃に晒されていた。


運河の向こう側には、我々の部隊の数倍にはなろう夥しい数のドイツ兵の死体が横たわっているのにこの攻撃は止まず、我々が相手をしているドイツ軍の規模がどれ程のものなのか、想像するのもうんざりだ。


そして、漸く戻って来た伝令が伝える司令部の返答は苦渋に満ちたもので、〝現在ドイツ軍による大規模で多方面への同時攻勢を受けており、既に予備兵力は無く増援は出せない〟という物だった。



更に二時間後の正午になる頃には、土手の上に敵の火砲が姿を現した。また、敵の機関銃部隊も進出してきて、我々が激しい砲火を浴びせる中、土手の上に機関銃陣地を築いてしまった。


如何に我が方の火力が同兵力の敵の数倍であろうと、敵その物が我が方の数倍いれば抗し続けられるものではない。

兵士は撃たれれば傷つき、最悪死んでしまうのだから…。



激しい砲火に晒される中、これ以上の陣地保持は無理だと司令部に伝えに行かせた伝令が戻って来た。


伝令が持ち帰った回答は、既にドイツ軍に運河の守備の薄い隙間を抜けられてしまっていて、前線は崩壊。

貴隊は第一軍のラインまで撤退せよ、との命令だった。


橋梁の破壊準備を進めていた工兵隊はニミー鉄橋の隣の橋を爆破し、すでに撤退を開始しているらしい。


我々が一番最後の部隊で、半ば孤立しつつあるという状況だった。


司令部からは撤退に際し、機関銃を敵中に可能な限り残さない事、もし持ち帰れない場合は必ず破壊する事を厳命されている。


撤退をディース中尉に知らせると、既に分隊員を大きく減らしていた機関銃分隊はビッカース機関銃を持って後退する事は困難との事で、機関銃の機関部を破壊して運河に投棄した。


幸運にも我が中隊は軽機関銃を全数保持出来たので、連れていける負傷者を収容しながら撤退を開始した。


撤退中もエンフィールド軽機関銃Mk1は大いに役に立ち、複数のチームで交互に援護しながら敵を制圧射撃で足止めしつつ撤退する、という手を使って無事に撤退ラインまで戻ることが出来た。



しかし損害は大きく、機関銃分隊は半数が戦死、私の中隊も二割の兵士を失い、生きていても殆どが何らかの負傷をしており、無傷な者が珍しかった。



後で知った事だが、我々の右側に居たはずのフランス第五軍は早い段階で攻勢に失敗してしまい、しかもその後我々に通告する事なく早々に撤退していて、我が第二軍はもう少しで無防備な右側面をドイツ軍に食い破られるところだったのだ。


恐らく連絡の不備から起こった不幸な出来事だと思いたいが、こういう事が続くようだとこの戦争の先が思いやられる。




イギリス遠征軍の初戦です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新した装備がわかりやすく強くて良いですね [気になる点] フランス陸軍で検索かけると、サジェストに「フランス陸軍 弱い」が出てくるのが本当に草。ご飯が美味しいのと、装備がいいくらいしか強…
[一言] フランスはやはり頼りにならなかったか。せめて連絡ぐらいはしっかりしてくれないと英国も安心して戦えないですね。 更新お疲れ様です。
[良い点] 順調に主人公の成果が世界に影響を与えてるようで何よりです。 [一言] フランスが相変わらず過ぎて呆れる他ない。
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