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第四十一話 1914.6-1914.7 七月危機

いよいよオーストリアハンガリー帝国とセルビア王国との関係は抜き差しならぬところまで行き、益々きな臭くなっていきます。






1914年6月28日、ボスニア・ヘルツェゴヴィナのサラエボで、中欧の大国オーストリアハンガリー帝国の皇位継承者であるフェルディナント大公夫妻が暗殺されるという事件が発生したと大々的に報じられた。世に言う〝サラエボ事件〟である。


前世でも学校で必ず習うレベルの、この時代の大事件だ。

何しろこの事件を契機に、実質的に史上初めて世界規模の大戦にまで発展したのだから。

規模も大きければ、死傷者数もそれまでの常識を遥かに超える程の大惨事となった。

一方で戦争科学は、この世界規模の大戦の過程で大きく進化革新することになった。


最早勇壮な騎兵による突撃は過去の物となり、戦争は兵士同士の物から民間人を大きく巻き込む総力戦へと変化した。


結果、戦後に戦時条約という物が出来た程だ。




1914年7月、サラエボ事件から開戦まではほぼ前世で学んだとおりに推移する様だ。今月は後世〝七月危機〟と呼ばれた危機的な外交交渉が行われる筈だ。




以前皇国陸軍に送ってくれるように頼んでいた荷物が、今月に入って英国に到着した。

頼んだのは去年だったんだが、送る上で色々と問題があったのかもしれん。


送って貰ったのはロシア製の口径76.2mmのM1902野砲だ。

この野砲は日露戦争でロシア側が多用していた主力野砲の一つで駐退復座機を搭載しており、残念ながら現在皇軍が使っているドイツのクルップ社が開発した三八式野砲より性能が良い。


ちなみに、日露戦争で日本側が使っていた野砲は三十一年式速射砲で、この砲には駐退復座機は搭載されて居ない。


この届いたM1902は、日露戦争でロシア陣地に配備されて居たものを鹵獲して再整備し、三吋野砲として国内に配備していたものだ。



俺は、機械化した部隊に随伴可能な支援火力として、機動野砲の準備をする事にした。


しかし、いずれ皇国が欧州大戦に参加するとして、わざわざ皇国の火砲を欧州迄長距離船で運ぶより、欧州で調達した物を装備した方が補給の面を考えても現実的だ。


現在皇国陸軍が採用している三八式野砲を開発したクルップ社からの調達は、ドイツが敵国になってしまうため論外であり、その次となると多くの装備を採用し参考にしているフランス製の火砲となるが、肝心のフランスが戦場になってしまう事を考えると色々と不安になる。


ならば同盟国として行動を共にすることが多いだろうと予測され、欧州での物資集積拠点を置く事を考えれば、結局は前世の史実でも陸上戦の戦場にはならず、同盟国である英軍の装備を使うのが現実的だろうという判断だ。


英軍の装備で三八式野砲の同等砲というと18ポンドQF砲だな。


だが、この18ポンドQF砲は現時点では旧態依然とした野砲であり、当然ながら機械化部隊がそれなりの速度で牽引して運用するという事は考えられていない。


勿論、この18ポンドQF砲は大戦を通じて様々な欠陥解消や時代に適合する為の改良が続けられ、最終型ともなるとまるで別の野砲のような印象を持つほどに進化した。


しかしながら、その最終型に至ったのは今から実に二十年後の事であり、そんなに悠長に待って居られるわけもない。



そこで新たな野砲の参考にする事にしたのだが、この時代の火砲として一番性能的にバランスが取れ優れていると俺が考えている、このロシア製の野砲M1902という訳だ。


一から開発するよりも、この砲をベースに俺の知る未来知識、例えば九〇式野砲やM1902の近代改修型であるM1902/30やその後継のF-22等の優れた部分を取り入れ再設計する事にしたのだ。


つまり、皇軍向けの18ポンド砲用の砲弾を使用する機動野砲という訳だ。

勿論、主任務は野砲として支援火力として使う訳だが、直接照準でトーチカや敵車両を攻撃するための装備も付ける。


その上で、考えた仕様は次の通りとした。


38口径18ポンド砲(84mm)で重量1600kg程度。垂直鎖栓式砲尾、液気圧式駐退復座機、開脚式砲架と汎用車両での牽引に対応したパンクレスゴムタイヤを装備。

仰角が-5~70度で旋回角が60度。発射速度は毎分15発で、初速が600m/秒、予定最大射程が13000m以上。


これはあくまで要求仕様なので、実際に作ってみてそこまでの性能が出るかどうかは分からない。


砲身は18ポンドQF砲を作っているアームストロング社に頼むとして、砲架はうちの会社で作れるはずだ。


18ポンドQF砲は野砲として第一次第二次世界大戦を通じて活躍し、より大口径の25ポンド砲にとってかわられるまで現役だったが、あくまで第一次世界大戦前の水準の火砲であって、対装甲車両戦闘でどの程度の威力があるかなどは正直未知数だ。


第二次世界大戦では徹甲弾があったが、少なくとも今の時点で徹甲弾は無い様だ。



早速と時間を作って元になる図面を引いていくわけだが、俺はM1902はあくまでカタログベースでの性能や実戦での評価を聞いたりして知っているに過ぎず、実物を見るのは今回が初めてだ。


ロシア製の火砲は案外優れているというのを聞いていたが、実際に実物を見ると確かに独仏英の火砲と比べても何ら遜色はなく優秀な火砲だと言えるだろう。


とはいえ、俯角が小さいなどの欠点も見えてきて、これをベースに、というよりは参考にする、というレベルになった。


砲身を担当するアームストロング社や18ポンドQF砲の砲架を製作したビッカース社の技術者の意見なども聞き、最終的に出来上がった代物はどことなく前世の25ポンド砲によく似た代物になった。


俺が担当したのは仕様書に相当する物で、後はうちの会社の優れた技術者が試作品を作り上げてくれるはずだ。




1914年7月中旬、英国政府から戦車の追加発注が来た。皇軍向けの戦車と並行して生産を進めていく。


英軍仕様と皇軍仕様の違いは主に砲塔にあり、車体はほぼ共通なので、車体は仕上げの工程でそれぞれの軍の仕様に合わせた仕上げを行うだけで済む。


しかし、砲塔に関しては装備する火砲が英軍仕様が6ポンド砲、皇軍仕様が57ミリ戦車砲と大きく異なっている。


今の時点で両軍の戦車を並べてみると、砲身が長く突き出ている英軍仕様の方が、短砲身の皇軍仕様の物より如何にも恰好が良いのは致し方ないな。


しかし、榴弾を主に撃つ戦車と考えると皇軍向けの仕様の方が明らかに性能が良い。



アルバート・フォノに頼んでいたHEAT弾の試作品が完成した。

つまり成形炸薬弾だが、これはモンローが1888年に発見した円錐型の窪みを持つ爆薬を後方から起爆させると反対側の前方に強い穿孔力が生じるという現象と、ドイツのノイマンが1910年に発見したモンローの発見した円錐型の窪みに金属板で内張りする事で更に穿孔力が強くなるという現象を利用した、主に対装甲車両向けの弾頭だ。


フォノの作った成形炸薬弾は、内張りに深絞りプレス銅板を使った一番低コストな物だ。

試験の結果、構造的には簡単で低コストだが、50mm鋼板を貫徹する威力を発揮した。


一先ず作ってみたが、これ程の威力の成形炸薬弾は、恐らく当面は必要ないと思われる。

だが、備えあれば患いなし、ともいうしな。


フォノは、これで成形炸薬弾の開発は一つ区切りがついたという事で、低圧砲の射程を伸ばす為、砲弾に推進装置を取り付ける為の研究を申し出て来た。


つまり、後の世で云うところのロケット砲弾というやつだと思われる。


そこで俺は、この57mm戦車砲の射程を伸ばす為のロケット砲弾を作るのではなく、ロケット推進機能を備えたロケットランチャーの開発を頼んだ。


具体的にどんなものかというのを説明すると、彼はすぐに理解して一先ず仕事を受けてくれたが、一方で母国のオーストリアハンガリー帝国で皇位継承者が暗殺され、現在一触即発の状態になっているという事を心配している様だ。


恐れていた日がとうとう来てしまったという事なのだが…。


いずれ英国はドイツとオーストリアハンガリーに宣戦布告し、両国相手に戦うことになるのだが、幸い彼の祖国と直接戦火を交えた事は位置的には無かったように思う。


ともあれ、仕事をさせて引き留めるのが一番な気がするな。



1914年7月下旬頃から、外交交渉が芳しくないことが新聞報道などから伝わって来た。


結局前世で習った史実通り、23日にオーストリアハンガリー帝国がセルビアに最後通牒を突きつけ、セルビアの回答に不満を感じたオーストリアハンガリー帝国はセルビアとの国交を断絶。


26日に英国の外相であるエドワード・グレイが英仏独伊で大使会議を開くことを提案。


しかし28日にオーストリアハンガリー帝国はセルビアに対し宣戦布告。セルビアと関係の深いロシアは動員を開始。


大使会議の結果、グレイ外相はドイツ・フランスが参戦するならば、イギリスはフランスの援助をする旨を発表した。


現時点ではドイツとイギリスの関係はそんなに悪くなかったからな。


そして、7月の末日となる31日、ドイツはロシアに対して動員の中止を要請。しかしロシア側は動員は対オーストリアに対する限定した物と回答した。

だが、ロシアは前日の30日に既にロシア全土に動員令を発令しており、ドイツはロシアに最後通牒。


英国はドイツとの開戦近しと考え、その意志を探るために〝ベルギーの中立を尊重するか〟という質問を仏独両国に行う。

回答は、フランスは〝中立を尊重する〟であり、そしてドイツは回答を拒否した。


これにより、英国はドイツとの開戦は不可避であると判断した様だ。



いよいよ、来月には本格的に戦争が始まることになるだろう。








外交交渉は徒労に終わり、いよいよ開戦です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついにWW1が始まってしまいますね。 この世界の航空戦闘って英軍戦闘機は独軍 戦闘機を騙し討ちではなく、純粋な性能差で 圧倒して倒しそう。 英軍は突撃戦術をやめる中で、仏独は突撃 戦術を初期…
[気になる点] とうとうはじまるのか。 機関銃陣地に突撃かますのは愚行と知ってるのは未だ日本だけなんだよなぁ〜 どうやっても多大な犠牲は避けようがない。
[一言] 満州利権を握っている米国がどう動くのか不確定要素が有ります。リアルでは東アジア沿岸部のドイツ拠点を襲撃する程度でしたが、この世界では欧州に展開し直接砲火を交える機会が出来てしまいました。 蝶…
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