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第三十四話 1913.11-1913.12 造船所

主人公は造船所を買収します





1913年11月、交渉中であった旧テムズ鉄工造船工業株式会社跡地の買収完了。

この会社は去年閉鎖されるまで我が皇国海軍の敷島を含む多数の艦船を作って来た伝統ある造船所だったが、新造艦発注の減少による経営難で事業継続を行うことが出来ず閉鎖された。


まだ閉鎖して一年程、しかも買収の交渉中という話が地元に漏れ伝わっていたこともあるのか、買収後の会社再開による求人に元々の従業員の多くが戻って来た。


面接してみてわかったが、流石に社歴が半世紀以上ある会社だけに、熟練工が多く技術者の水準も高く、すぐに船舶の建造に入れそうだった。


俺がこの造船所で建造するのは、皇国政府の国営石油公社で使用する為の石油を運ぶ輸送船、つまりは油槽船だ。


運用してみて良ければシェルでも使用する可能性があり、そうなれば大口発注にも発展するだろう。


後の世のタンカーは400mを超える超大型船だが、当然ながらこの時代の設備でそんな大きな船を作ることは出来ない。


テムズ造船所で竣工した最大の艦船は、英国海軍の最新鋭戦艦オライオン級の一つサンダラーで、後にユトランド沖海戦に参加したものの砲火を交えることなく終戦を迎え、その後訓練艦として長らく使われていた艦だったと記憶する。


つまり、テムズ造船所で建造可能な艦船の上限は今の設備を活用する場合、200m以下の船に限るという話だ。


ちなみに最新鋭の軍艦を作っていた造船所の買収は少々面倒で、軍用艦を作る場合は許可が必要。また、英国海軍からの発注が発生した場合は、全てにおいて最優先させる事。


という、如何にも第一次世界大戦が始まったら英海軍向けの艦を作らされることが確定している様な買い物だ。


当然、この造船所にも日本から来た技師や工員を働かせている。


この造船所の関係者がかの有名な造船会社ヤーロウと以前パートナーシップを組んでいたこともあって繋がりがあり、ヤーロウで開発したボイラーを使うことが出来るのも強みだな。



俺が新生テムズ造船所に皇国からの発注として先ず頼んだのは、150mクラスの後の米海軍が使っていたT3タンカー相当の船だ。


勿論、第二次世界大戦に作られた船と同じ性能の船が今できるわけも無く、恐らく今の技術でT3タンカーの巡航速度15ノット、航海距離16000マイルを実現すると、肝心の積載量がT3タンカーより劣る事になるだろう。


だが、この時代のタンカーは100mクラスが主流という事を考えれば、メリットは十分にある筈だ。


完成したタンカーが早々とUボートに沈められないと良いけどな。




同月、テムズの造船所の再稼働を進めながら、俺はヴィッカース社を訪れていた。


準備を進めていた新しい艦種、強襲揚陸艦を発注するためだ。


ヴィッカース社と日本は、この時期非常に友好的な関係を結んでおり、日露戦争で活躍した三笠、香取を建造し、そして今年八月に金剛が竣工したばかりだ。


この金剛はヴィッカースが技術の粋を集めて作ったので、ある意味英国海軍の保有艦艇より性能が良い最新鋭戦艦といえる。


勿論、金剛を建造するうえで開発した新技術やノウハウは、今後の英国海軍の艦艇にフィードバックされるわけではあるが。


そういえば、この時期シーメンス事件なんていうのもあった様な気がするな。

俺は、あくまで俺がうろ覚えしている範囲ではあるが、シーメンス事件のあらましを手紙に書くと、急ぎの便で山縣公へ送った。


前世では来年の年明け早々からこの件は大騒ぎになったと記憶するのだが、この大事な時期に山本権兵衛に斎藤実という有力なリーダーが失脚する様な事があっては、皇国は欧州大戦で満足に戦うことが出来ない。


まあ、海軍はかなりの関係者が退官させられることになると思うが、この機会に綺麗にしておいた方が良い。

汚職軍人など新生統合軍には必要ない。


強襲揚陸艦は海軍ではなく統合軍の象徴的な艦になる予定で、海軍出身の水兵が乗組員となり操艦するが、艦に設置される司令部は統合軍司令部であり、この艦を母艦とする陸軍部隊も乗艦する。

更には、空軍が運営する航空偵察部隊も乗り込んでいる為、正に陸海空の三軍が乗り込む艦になるのだ。



従来、ヴィッカースとの取引は三井が仲介していたが、この艦自体が俺の発案の為、この艦に関してはうちの会社が仲介に入っている。


何しろ、この艦に配備する飛行機も装備もほぼうちの会社で用意するし、二番艦以降は新生テムズ造船所で作る可能性もある。


まあ、外国人社長の会社が買収した造船所でいきなり軍用艦を作るのは少々憚られるがな。



強襲揚陸艦の要求仕様は基準排水量一万トン、全長170m、最大幅22m、飛行甲板165mx25m。

機関は蒸気タービン、ボイラーはヤーロー式重油専焼水管缶、主機はパーソンズ式オール・ギヤードタービン2基2軸、出力3万hp。

最大速力20ノット、航続距離3000海里。


武装、MkI単装5.5インチ艦載砲x6、MkV4インチ高角速射砲x4、GHI製20mm連装機関砲x10。

搭載艇、上陸用舟艇25隻。艦載機、偵察機10機。

乗員は搭載艇、艦載機の運用要員込みで600名程度。

司令部要員が300名程度。


以上の仕様で俺がスケッチし、藤本に清書させた図面付きの資料をヴィッカースに持ち込んだ訳だ。

発注者は勿論皇国政府。


ヴィッカースは皇国政府からの新しい艦種の発注をよろこび、竣工は一年後との見積もりだった。


ところが、ヴィッカースから話が伝わったのか、新しい艦種について英国海軍から偉いさんが説明を求めてやって来た。


俺は、この艦は洋上司令部の様な物で、この艦の支援を受けながら上陸部隊が出撃し、上陸地点を制圧する事を意図した島国の日本らしい新しい艦種だ、と説明した。


飛行機が搭載されているのも、皇国は航空機は偵察任務に有用だと期待している為、海の上に前進飛行場があれば敵地を偵察し有利に戦えると考えている、と説明した。


あくまで俺は、陸軍の軍人としての視点でのみ説明をしたわけだ。


その海軍の偉いさんは微妙な表情を浮かべていたが、英国海軍はこの艦に関心があるので完成を楽しみにしている、と言い残して帰っていった。


まあ、多分明らかに空母なのに空母として作られて居ないのを不思議に思ったのだろう。既にこの時期は航空母艦の黎明期で、完成形は無いものの構想自体は米英独仏あたりの海軍は既に持っている。


海軍の偉いさんがやって来た後、今度はどこかで話を聞いた陸軍の偉いさんがやって来た。まあ、この人は面識があるのだが…。


俺は彼に海軍にした内容と同じ説明をすると、この艦は日本と同じく島国である英国陸軍に必要な艦種だ、と興味を示した。


しかし、英軍というと棲み分けがしっかりしていて、陸軍が艦艇を運用するという事は無いのではないだろうか。

結局は、海軍が運用し陸軍が活用するという形になりそうだが。


ちなみに、艦載砲が英国製の艦砲ばかりだが、理由はまだこの時期の皇国軍に同様の艦砲が無いからで、いずれ皇国製の艦砲に置き換わるだろう。


実際に運用できるのは1915年辺りになりそうだな…。





1913年12月、戦車のプロトタイプが完成した。


プロダクトコード〝XM-1〟が振られたこの戦車は、最終的に重量は18トンを優に超え、エンジンはGHI-V8-8液冷百馬力エンジンを二基搭載した。このエンジンは既に汎用車両に搭載して出荷している信頼性がそれなりに担保された物だ。

車体は全て溶接構造で、リベットの類は基本的には使っていない。

コイルスプリング式のサスペンションも特にトラブルは無く、シングルピン方式の履帯も想定通りだ。


ただ、肝心の主砲が未だ皇国から届かず、英陸軍経由で海軍工廠から調達してもらった6ポンド艦載砲を改造した物を搭載している。


車体のみでの走行試験をしっかり済ませた後、砲塔を搭載して走らせたところ最高速度は45km/hを達成した。

エンジンの強化が出来れば、最高速度は恐らく50km/hを超えるだろう。


しかし、後世の戦車を見ているから余計にそう思うのかも知れないが、手動でハンドルを回して旋回させる砲塔の旋回速度の遅さは何ともまどろっこしい。

これは動力を繋いだ方が良いのか。



それは兎も角。


試作戦車の試験を視察に来た英国陸軍のアレンビー少将は、目の前を疾走する戦車をみて「これこそ騎兵の為の鉄の馬だ!」と叫び声をあげ、彼は強い関心を示した。

アレンビー少将が英陸軍に試験詳細を報告した結果、後日英軍の将官多数を含む関係者が再度視察に訪れ、視察後採用が内定した。

数日後、一先ず量産試作車50台の正式発注を受けた。


英国軍は、前世の第一次世界大戦で千台以上の戦車を生産したことを考えると、まだまだ発注数は増えそうだな。


また、量産試作車のうちから二台ほどを貨物船で皇国に送り出した。





航空機会社では風洞の製作が始まった。

そして年の瀬に、既に前職で飛行機を手掛けていたデハビラントが、早々とB.E.2によく似た偵察機の試作機を完成させた。


年明から試験かな。




戦車の試作も完了。

ぼちぼち準備フェイズも終わりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] トランジスタはクリーンルームを作らないと歩留まりが悪いです。トランジスタは暫く不良品の中から製品を探し出す事になりそうです。 揚陸艦は何処の国でも海軍と陸軍のどっちが所有するかで揉めますね。…
[気になる点] 全通甲板+島型艦橋でしょうか? [一言] 戦車が16t超だと上陸用舟艇は特大発級でしょうか。 搭載機を露天駐機と割り切ればエレベータースペースも要らなくなりますし、いけるか。 飛行甲板…
[気になる点] T50みたいな外見なんだろうか?まあ、T34といった方が良いのかな?
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