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第二十一話 1913.1-1913.2 航空機会社設立

航空機会社も設立です。






慌ただしく過ぎて行った1912年も終わり、新たな年を迎えた。

準備期間は後一年。今年が正念場だ。


乃木家での新年行事というのは、実は俺にとっては今回が初体験だったのだが、この時代の家庭の新年行事は大なり小なりこんな感じなのだろうか。


そんな親元での元旦を迎えたのだがその席で、そろそろお前も所帯を持つべきだ、と釘を刺された。

とはいえ、今はそれどころじゃない。



年が明けてオールズから、頼まれていた新会社を去年の暮に設立した、との報告の手紙が届いた。

手紙自体は去年末に出された物なので、新会社を設立して直ぐに出してくれた手紙だろう。


新会社設立に去年の夏前から準備を進めていたのだが、新しいもの好きで根っからの技師であるオールズも乗り気の、この新会社で作るのは飛行機だ。


後に航空機で世界を制覇する米国であっても今の時期はまだまともな航空機製造会社が無く、本格的な航空機メーカーを立ち上げたのは我々が世界で初めてかもしれない。


新会社設立の費用は、俺とオールズ、それに帝国政府から引き出した資金を米国の銀行を介して出した。


〝米国航空機製造会社〟という地味な会社名だが、立ち上げに当たって航空機好きの米国の若者を何人か雇った。一人はグレン・L・マーティン、もう一人はブランシュ・スコット、更にはアラン・ルーグヘッドとマルコム・ルーグヘッドの兄弟。

後の米航空機業界の巨人たちもこの頃はまだ二十代の若者達。アイディアとやる気はあっても資金はサッパリない。


そんな彼らが、米国で主要自動車メーカーの一角を占めるREOモーターの社長オールズから「新たに大きな工場を持つ飛行機製造会社を設立するが、その立ち上げメンバーにならないか」と声を掛けられたので、天にも上る気持ちで舞い上がって新会社に参加した、という訳だ。


オールズ自身がいろんなことに理解のある技術屋であり、技術屋の気持ちが良くわかっている上に、ベテラン経営者でありベテラン経営スタッフも居る。


新会社の工員達も、REOモーターの熟練工の移籍希望者を核に人を集めたから、素人の工作じゃない精度の高い立派な部品を作れる。


航空機というとエンジンが一番大事だが、後にマーリンエンジンを作る筈だった技師がイギリスの俺の会社で作った水冷エンジンを供給する事も出来る。

そのイギリスの水冷エンジンは、その後の改良で百馬力が達成されたから、この時代では結構な高性能の筈だ。


勿論〝米国航空機製造会社〟には、頃合いを見計らって日本からも技師を送り込んで技術を習得させるつもりだし、日本工場も作らせるつもりだ。むしろそっちが狙いだからな。


今回は別の用事がある為、米国には寄らないが年内に一度渡米する必要があるだろう。



この新会社設立に俺個人がかなりの資金提供をしたが、俺の資産に関してはテキサスの石油開発でかなり儲けたし、特許料や株式配当なども併せて個人的にかなり潤沢な資金を得ているから、以前に比べると色々と大きなことが出来るようになったのは大きいな。




最近陸大の連中にボードゲームを流行らせている。

ボードゲームと言っても、ウォーシミュレーションゲームで、古くは19世紀のプロイセンで兵を指揮する訓練として始められたとも言われる、いわば机上演習を簡略化しよりゲームとして遊びやすくした物。


後の世で大きく普及し遊ばれるようになったウォーシミュレーションゲームは、第二次世界大戦後に米国人が作った〝タクテクス〟というゲームが元祖だ。


俺も前世ではパソコンのSLGに限らず、ボードゲームのウォーシミュレーションをかなり遊び、自分で作った同人ゲームを販売したこともある。


そんな知識を活かして、ウォーシミュレーションゲームを幾つか拵えて陸大に持ち込んだところ、娯楽の少ない時代というのもあるのか大流行したのだ。


更には、元々の本旨である戦闘指揮の練習にも向いているという事で、陸大でも教材として使う事になった。


恐らく、来年度から編入してくるらしい海軍兵学校の連中もやる事になるんだろうな。



そんな訳で、俺はそんな陸大生の一人である人物とゲームを楽しんでいた。


今回のゲームの題材は、欧州で戦争が勃発し、ドイツ帝国の大部隊がベルギーを経由してフランスに侵攻するのをベルギー王国軍とイギリス派遣軍、それに日本派遣軍の三つの部隊でそれを阻止する、という内容だ。


俺はドイツ帝国側でプレイし、史実のドイツ軍の動きそのままに質、量ともに優れたドイツ軍を使ってベルギーを一蹴し、フランスへ雪崩れ込もうとする。


三ヶ国連合軍側は、部隊数こそそこそこあるが弱体で要塞から出たら使い物にならないベルギー王国軍、少数だが質はドイツ軍に勝るイギリス派遣軍、更に少数だが唯一機甲部隊を持っている日本派遣軍からなる。


ちなみに、ドイツ軍は二個軍団で計八個師団。対するベルギー王国軍は六個師団あり数量的には多いが、旧式の武器装備と劣悪な指揮官を表すため、ドイツ軍の半分の攻撃力と防御力しかなく、しかも将兵のモラルも低い。

但し、要塞に籠って居れば防御力にプラスがあり、ドイツ軍を押しとどめることが出来る。しかし、全ての師団を要塞に入れられるわけでもなく、また要塞で全ての国境線を護れるわけでもない為、ドイツ軍は要塞を迂回してどんどんと侵入してくる。


イギリス派遣軍は、火力はドイツ軍に勝り、指揮は互角、更には装甲車を装備した騎兵師団もあり、自動車化が進んでいる為軍の移動力が高い。しかし、二個師団しかない。


そして日本派遣軍は、二個旅団しかないが機甲部隊を含んだ混成旅団で、イギリス派遣軍より更に火力が高く、移動力、防御力がある。



いわば第一次世界大戦の予行演習の様なゲームをやっているのだ。



「山下君、ベルギー軍壊滅状態だけど、見殺しにするの?」


「乃木少佐、ベルギー軍は確かに壊滅状態ですが、要塞に籠っている師団は健在です。

 この方面からドイツ軍は侵入できません」


「じゃあさ、ドイツの第二軍を要塞に張り付けるから、第一軍を北部から捻じ込むよ」


そう言って、ドイツ第一軍の精鋭師団をベルギー軍の戦線の向こう側に押し込む。

ベルギー軍は崩壊状態だから、そのまま士気喪失で後退。


「乃木少佐、前面のベルギー軍は後退しましたけど、その次の師団が第二戦線を敷いてますから、これ以上の突出はこの回には無理ですよ」


「うん。そうだね」


「じゃあ、私の方はこの突出したドイツ第一軍の師団の南からイギリス派遣軍をねじ込んで、戦線を戻します」


「温存していたのはその為か…」


「イギリス派遣軍は移動力高いですからね」


突出したドイツ第一軍の精鋭師団の後ろにイギリス派遣軍の部隊が捻じ込まれ、孤立状態になった精鋭師団は士気崩壊。

なんてこった。


「で、今度は我らが帝国軍の混成旅団を北部からドイツの戦線の後ろ側に迂回機動させます」


「うん、機甲部隊だからね」


「これで、ドイツ第一軍は日英どちらかの部隊を潰さないと包囲されますよ」


「一回じゃどちらの部隊も潰すのは無理だよ」


「ドイツ軍は精鋭で士気も高いですが、機甲部隊も高い攻撃力のある部隊も無いですからね」


「悪あがきで、第二軍の予備部隊を日本派遣軍の更に後方へ向かわせるよ」


「ドイツ軍は移動力が日本軍より低いですから、この回には到着出来ません」


「第一軍で日本軍を攻撃するよ」


サイコロ、コロコロ。


「この機甲部隊って俺が作っといてなんだけど、強すぎだよね…」


ドイツ第一軍が日本の混成旅団を撃退するのに必要な目は11と12だけ。


「実際、あの装甲車ですら強いじゃないですか。

 戦車ってあれより強いんですよね?」

 

「うん。その通り」


「ですから、ドイツ第一軍は包囲されて士気崩壊です」


無情にもドイツ第一軍の包囲された師団は、士気崩壊の判定で取り除かれてしまう。


「山下君、この手の机上演習強いよね」


実は、山下君がドイツ軍を担当した時も俺は負けてるのだ…。


「実際の戦争はこんなに簡単には行かないと思いますよ。

 このゲームでは、敵の位置は全てわかっていますしね」

 

「まあ、そうなんだけどさ。

 これなら実際に機甲部隊を指揮してもやれそうじゃないか?」

 

「やらせてもらえるならやりたいですよ。

 何しろ、全く新しい兵器を装備した新鋭部隊ですからね」

 

「そうかそうか。

 じゃあ、俺が山下君が機甲部隊の指揮官をやりたがっていたって上に伝えといてあげるよ」


「え?本当ですか?」


「うん、俺機甲部隊の設立の責任者だから。

 多分、推薦したらいけるんじゃないかな」

 

「楽しみにしてますよ」


「よし、じゃあ別のやつやるか」


「はい。是非」


こんな風に山下君とウォーシミュレーションゲームで遊べるのもあと少し。


三月にはイギリスへ帰らなければならない。




二月になって南部大佐が試作戦車砲の図面を持って来てくれた。

口径五十七ミリの短砲身砲で、垂直自動鎖栓式の閉鎖機を持った要望通りの砲で、史実で云うところの九〇式五糎七戦車砲によく似た砲だった。


この試作砲に対して、俺は九七式五糎七戦車砲へと改良された項目を改良点として上げたので、それを取り入れて再設計するという事になった。


軍部でも本格的な戦車の完成が期待されている様で、要となる戦車砲の開発にはかなり力が入っている様だ。


ついでに、この戦車砲用の特殊砲弾として成形炸薬弾の資料を南部大佐に渡した。

モンロー効果の資料と、ノイマン効果の資料。特にノイマン効果の資料は発表されたのが1910年だからつい最近の貴重な物だ。


南部大佐は、こんな花火みたいな代物が本当に役に立つのか、という顔をしていたが、砲弾を作っている部門に頼んで作らせる、と言ってくれた。


これがあれば、第一次世界大戦程度であれば打ち抜けない装甲は無いだろう。

俺の予想では12.7mm重機で十分だと思うんだが、何せドイツ相手だから、12.7mmじゃ打ち抜けない装甲板を備えた戦車が出てきそうな気がするんだよね。

A7Vより早く。




戦車砲が間に合えば本格的な戦車完成です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 山下って山下奉文か彼なら機甲師団を日本で1番上手く使えるだろうな
[気になる点] 航空機でもそうだが最近速さ=機動力と言う定義になってるがどう思うだろうか?
[一言] この世界では、REOモーターズは、乃木さん のおかげで、ここまで業績が安定しましたか 航空会社設立となると、政治力のカーチス とか他社とこれからかなり激しく競い合う わけですね航空業界を…。…
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