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第十六話 1912.9-1912.10 代々木練兵場でのお披露目

主人公は日々準備に余念なく、帰国しても休んでる暇が無さそうです。





1912年9月15日、前世で親父殿が自決したという13日から二日経つが、今のところ自決したりする様子はない。


前世で親父殿が自決した日の前日に伊藤公と料亭で会って話をしたが、家に帰ると俺が渡した機甲戦術に関する本の質問を熱心にしてきたりと、とても自決する人の様子では無かったので、これでフラグは折れたかなとは思っていたが、どうやら本当に圧し折る事に成功した様だ。


兄の死は痛ましいが、史実と異なり俺が生きているお陰か親父殿が抜け殻のようになった様子は無く、そもそも俺が生きているという時点でフラグは折れていたのかも知れない。


ただ、史実ではあった親父殿に対する同情論は沸き起こらず、遺族から心無い言葉を浴びせられたり家に石を投げ込まれたりしているのは事実だ。


しかし、どうもあの連中は本当に遺族かどうか疑わしい。

所謂前世で云う所の『市民活動家』とかいう類のやつじゃないのか。



伊藤公には料亭で欧州情勢の報告をし、近く欧州で大きな戦争が起きる可能性を示唆した。

そして、もし戦争が勃発したら日本も英国側で参戦すべきだという提案をした。

やはり、列強の一角として存在感を示し、信用を得るためには自らも参加し血を流さねばならないのだ。


無論、将兵を遠い欧州の戦場へと手伝い戦にやれというのだから、俺自ら戦車部隊を率いて行くつもりだ。

運が悪ければ戦死するかもしれないが、それは致し方ないだろう。


自ら開発した戦車に乗って戦って死ぬのなら、それは本望だ。




伊藤公は俺が提言した憲法改正や軍の再編に関する話を建白書にまとめ、この時代の有力者の一角である山縣公を巻き込み上奏すると話していた。


時期的に、明治が終わり藩閥色が弱まったが、まだ元勲が影響力を行使できる今しかこれ程の改革を行えるタイミングは無いだろう。


これが実現すれば、日本は確実に変わるだろう。


そもそも日本は、中国大陸などに手を出さなければ大規模な陸軍を保持する必要が全く無く、また日本が島国である以上、陸軍が日本以外で活動するのなら船が無ければどこにも行けないのだ。


にも関わらず、その船を扱う海軍と陸軍が協力するどころか反目し合い、それぞれが別の軍事組織として勝手に動くなど、愚かとしか言いようがない。


だからこそ、俺は日本には米海兵隊の拡大版、陸兵から艦艇まで一軍で持つような諸兵科連合、統合された組織があれば良いと思うのだ。


直ぐには実現できないかもしれないし、第一次世界大戦に完全な統合軍は間に合わないかもしれないが、陸海軍の上に統合軍を置き、文民統制に移行する位は出来るだろう。


恐らく、それの実現までには反対する者も出るだろうし、過激な言論、行動に出る奴も出るだろう。

しかし、そういう後の世の害悪になりそうな奴らを早期に炙り出し処分する切っ掛けに寧ろなるのではないかと考えている。



統合軍は志願兵だけで構成された緊急即応軍として動き、海外遠征軍としても直ちに出動できる兵站部門もきっちりと整備された軍隊だ。


本土防衛は、統合軍の下位組織として徴兵兵士による国内軍的な国土防衛隊を作り、国内で災害発生時の対応も含め任せればいい。


統合軍そのものは史実の日本軍に比べれば規模は小さくなるが、国土防衛隊を合わせればそれなりの規模になり、大規模戦争などで急な増員が必要になったときにも国土防衛隊が予備兵力として対応できるだろう。


いわば米国で云う所の州兵の様な物か。


強襲揚陸艦の様な物も必要だろうから早めに作るべきだな。




また、伊藤公に頼んで東京帝大に半導体、つまりトランジスタを研究する研究室を作ってもらう事にしたのだ。この先、トランジスタは必要だからな。


それで、ライプチヒ大学で非常勤の教授をしているリリエンフェルトという学者を引き抜いた。日本はこの時代、他国に先んじる知識力や技術力がまだまだ無いが、人材はそれなりに豊富で吸収力が高い。

優れた指導者が居れば、この時代からでも急激に伸びる可能性が高い。


リリエンフェルト自体がトランジスタを実用化させた訳では無いが、この人物は電解コンデンサという重要な素子を開発する。その延長上に実用化はしなかったがFETこと電界効果トランジスタがある。


リリエンフェルトは今は別の研究をしているが、実は彼に、我が国に研究室を用意するから電解コンデンサの研究してくれないか、と手紙を出しておいたのだ。


担当していた仕事が一区切りついたのか行き詰ったのかはわからないが応諾の返事が届き、東京帝国大学で物理学の教授として教鞭を執って貰いながら、トランジスタの研究室でまずは電解コンデンサの開発を頼んだ。


実のところ、トランジスタが完成すればデジタル演算の概念はわかっているから、初歩的なコンピュータが作れるようになるだろう。




この時代の車載に向いた手ごろな大砲というと、日本でも海軍が使っているがフランスのホッチキス製の6ポンド砲というのがある。

つまり、57mm砲なのであるが、実際にこの大砲はイギリスのひし形戦車に搭載されて第一次世界大戦を戦った。


しかし第一次世界大戦で戦車に搭載された戦車砲で最も優れているのは、恐らくプトーが開発したSA18という37mm砲だろう。

発射速度が速く構造がシンプルで信頼性が高い。但し、あくまで37mm砲で低初速なので装甲目標等ハードターゲットに対する威力不足は否めない。


しかし、対歩兵や機銃陣地に対してなら十分な威力を持つ。


選択肢としては、SA18の優れた半自動垂直鎖栓式閉鎖機を取り入れた57mm砲を開発し、戦車に搭載するのが良いと思われるのだが、日本で開発するのとイギリスで作って貰うのと、どっちが早いかという点だな。



それとは別に、日本軍には1910年に開発された四一山砲という優れた砲がある。この大砲は馬や人力での分解運搬を想定して開発されている為、シンプルで軽い。


この大砲を装備した突撃砲的な戦車を用意すれば歩兵支援戦車として活躍する事は確実だろう。




さて、日本にも装甲車と汎用車両を全部で20台ばかり運んできて、そのまま全数お買い上げ戴いたわけだが、代々木練兵場にてお披露目となった。


装甲車と汎用車両はどちらも操作系は同じであり、機嫌良く動いて居ればそれほど操縦は難しくない。


練兵場近くにある駐屯地に用意されていた仮設車庫に一先ず全車を集め、事前に駐屯地で搭乗兵に習熟運転をさせた。

そしてお披露目の日。代々木練兵場に軍部のお歴々や桂首相、伊藤、山縣両公が臨席し、その前に全車整列し、展示。その後、標的への射撃訓練などを披露し、退場していった。


今日のお披露目は、俺が分捕って行った予算が適正に使われ、実際に完成した装甲車両の展示行動を皆にして見せた、という実績を作ったという意味合いもあるのだ。


俺は殆ど日本に居ないため面と向かって言われるというのは無いが、親の七光りの成り上がりが軍の予算を分捕って外国で好き勝手している、と陰口を叩かれているのは知っている。

俺の陸士の同期で、今陸大に行っている多田君とかが教えてくれるのでな。


兎も角、お披露目は無事に終わり、政府と軍首脳が装甲車と汎用車両の威力を実際に見て、俺の話が大言壮語ではないという事がこれで理解されたと思う。


陸大では俺が残していった色んな物を研究してるやつが未だ居るし、陸大にはそんなに長くはいなかったのだが俺の名前は悪目立ちしすぎているのだ。



今日、実際に俺が作った物を自分の目で見た親父殿は大層感動し、甚くご機嫌であった。

そして、機甲戦術をよく研究し来たる欧州での戦いに備える、と目を輝かせていた。


それでこそ、皇国陸軍戦車隊が活躍できると言う物だな。



この日、わざわざ帝都までお披露目を見学に来ていた日野熊蔵少佐と、夜に料亭で会った。

彼は発明家肌の男で、手柄をすっかり徳川少佐に取られてしまったが、本当の日本人初飛行の男じゃなかったかと言われている人物だ。

ちなみに、自力でエンジン作ったり飛行機飛ばしたり、亡くなる1946年迄精力的に発明家していた男だ。


彼は日本で閑職で埋もれさせるのは惜しい男で、再び渡英する際に連れていく予定にしている。


ちなみに、初代の空軍司令は徳川少佐がなる様だが、空軍の立ち上げメンバーには俊才と名高い陸軍の永田鉄山を海軍の山本五十六と共に推薦した。

後に野心家の政治屋になった山本と政治活動に傾倒してルーピー近衛にコロッと騙された永田という混ぜるな危険コンビを敢えて混ぜて本業に専念させるというプランだ。


いずれにせよ、二人は欧州大戦で空軍将校として親父殿の下で戦闘に参加する事になるだろうから直ぐに会う機会があるだろう。




飛行機の準備もボチボチしないとですねえ。

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