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第十四話 1912.8-1912.8 お披露目

いよいよ装甲車のお披露目です。





1912年7月下旬、今回の演習に参加する為に特別編成された部隊の指揮官に、装甲車両を使った機動戦術のレクチャーを行う。


この部隊の指揮官は騎兵部隊から選抜された指揮官であり、後に第一次世界大戦で騎兵部隊を率いて出征する事になるアレンビー少将など、騎兵部隊の上級指揮官達も今回の演習に関心を寄せている様だ。


やはり普仏戦争で登場した機関銃の活躍で、これ迄戦場の華であった騎兵による勇壮な突撃の時代が終焉を迎えつつあるのではないかと予感しているのだろう。


普仏戦争から三十年以上経って性能の向上した機関銃は、各国の武官が観戦していた日露戦争での活躍が華々しく、また使い勝手の良い軽機関銃の性能向上も著しい。


実際、第一次世界大戦では各国に騎兵部隊は存在していたが、殆ど後方戦力として温存されたまま活躍の場は無かった。


騎兵は騎士の流れを汲み、多くはエリートを自任し貴族であり誇り高い。

しかし、頑迷かと言われればそんなことは無い。

開明的な上級将校も居るし、第一次世界大戦後期に積極的に装甲部隊へと転換した部隊も多い。


今回の演習はそんな彼らに、史実よりも一足先に新たな鉄の馬を使って貰おうという事なのだ。


とはいえこの時代、車の運転が出来る者は日本に限らず世界でも多くは無く、運転が出来る者の大半は自動車を所有できる上流階級の者であり、残りの少数は特殊技能者として仕事で乗って居るのだ。

英国でも軍に入ってから運転技術を学んだと言う者が多かった。

例外的なのは米国位であろうか。


今回の演習は前回の短機関銃お披露目の時とは異なり、陣地は用意されているが敵は存在しない。


英陸軍首脳の前で、装甲車輛で何が出来るのか、というデモンストレーションをやるのだ。


それを見た上で、彼らが自分たちで使い方を考える。



俺が編成する予定の我が皇国の装甲部隊は、俺が部隊を編成し指揮する事になるだろうからその運用方法迄俺が責任を持って教育指導するが、英国陸軍に対しては別だ。


これ迄の俺の立ち位置がそうであったように、俺はあくまで同盟国の将校であり、兵器メーカーの経営者或いは技術屋に過ぎない。


クライアントにこの兵器は何が出来るのかを説明はするが、それをどう使うのかを考えるのは彼ら自身の仕事だ。



今回の参加戦力は装甲車が十両。


装甲車の搭乗員は騎兵部隊出身者で編成されており、装甲車は三両で一個小隊と計算。

それが三編成と中隊指揮車両で一個中隊が編成される。


この装甲車は、今は装甲車で戦車を表現しているが、実際に運用するときには戦車に置き換わる。



更に汎用車両で編成された機械化歩兵部隊が参加する。

こちらの方は歩兵部隊出身者で編成されている。


汎用車両には二人の搭乗員と四人の歩兵が乗り込み、二両で一個分隊になる。そして三個分隊で一個小隊になるが、小隊指揮官が乗り込んだ小隊指揮車と直卒の一個分隊で編成された小隊本部があり、実質的に四個分隊で一個小隊になる。


そして三個小隊と中隊本部で一個中隊を編成している。



装甲部隊と機械化歩兵部隊各一個中隊の、計二個中隊が今回の演習の全兵力だ。




装甲車は結局ホーンズビーから持ち込んだ車体をうちの会社で装甲車として完成させるという形をとった。


装甲の厚さは正面が10ミリ、側面背面は7ミリ、砲塔は全周が10ミリの装甲板で覆われ、現時点でのビッカース機関銃やエンフィールド小銃の7.7mm、303ブリティッシュ弾では打ち抜くことが出来ない事が実験の結果分かっている。


これは今回の演習で参加者の目の前で実際にデモンストレーションをやる予定だ。




既に突破用の敵陣地が用意されており、ダミーの機銃陣地なども用意されている。


基本的に装甲部隊は本来の騎兵戦略と同じく、戦線を突破し後方へと浸透し敵の戦線を撹乱し、或いは側面、背面より攻撃し包囲する。


その為の突破力として戦車があり、装甲車に乗り込んだ歩兵が居るわけだ。



演習当日、英軍関係者の他、日本大使館から駐在武官が観戦に参加している。


演習地近くの駐車場には、既に準備の整った装甲車中隊と機械化歩兵中隊が待機しており、時間になったので全体を指揮している騎兵部隊の上級将校が演習開始を命じた。


まずは装甲車がその姿を見せ、観客席の前で整列を開始する。


その次に、歩兵が乗り込んだ汎用車両の車列が入場し、整列を始めた。


一通り整列が終わったところで、指揮官の旗信号で装甲部隊が動き出した。


煙幕を打ち込み、横に列に並んだ装甲車が塹壕陣地へと突入を開始する。


本来であれば敵の機関銃が鎮座している重機関銃陣地を車載の12.7mm重機関銃の射撃で粉砕すると、装甲車は塹壕を突破し敵陣内へと突き進んでいく。


十両で構成される装甲車部隊が時速30-40キロくらいで陣地を突破し、観客席からおおっという歓声が上がる。更に奥へと進軍を続ける姿は迫力満点だ。


そして、その装甲車が通り抜けた敵陣地に機械化歩兵部隊が続けて突入する。


装甲部隊と機械化歩兵部隊によってあっという間に敵陣地は突破され、本来であればその後に進撃してきた歩兵部隊が陣地の掃討と保持を担当する。



部隊は予定されたコースを通り、集合地点へと一両の脱落も無く到着した。


その様子が観客席にも知らされ、デモンストレーションの成功に観客席から賞賛の声と共に拍手が聞こえてくる。


その後、演習に参加していた装甲車や汎用車両に対して、防弾性能の公開試験が行われ、英軍自慢のビッカース機銃では全く歯が立たないことが証明された。


公開試験が終わると、一般展示となる。勿論、ここに居る関係者に対してだけだが。


日本の駐在武官からは、陸軍にも欲しいが幾ら位するのだろうかなど、具体的な相談があったため、日本に於いて全部は無理でもせめてノックダウン生産をすればその分割安に導入できるなどアドバイスを行った。


しかし、俺は第一次世界大戦に参加する日本軍は、英国で生産した車両を直接配備し、英国で訓練を受け、第一次世界大戦が始まればBEF(イギリス海外派遣軍)に同行する形で参戦すればいいと考えている。


真剣な話、日本は大陸から手を引いており、極東では差し迫った危機は無いからな。



演習後、参加部隊の将校達を相手に反省会を行う。


彼らは今日の演習結果に大変興奮しており、特に騎兵出身の将校はこれがあれば騎兵とて次の戦争でも活躍が出来るだろうと熱っぽく語っていた。


更には、ここ最近急速に導入が進んでいる自動銃器を見るにつけ、英国がこういう兵器を導入しているという事は、他国も同種の兵器を導入していると考えるのが普通であり、それらに対抗する為には新しい銃器で軍の装備を刷新する必要があるのではないだろうか、との意見が出た。


例えば試験的に生産したアサルトライフルがあれば、従来のエンフィールド小銃の様な小銃のみで編成された歩兵が相手ならば、一人で一個分隊を制圧できるだろうと歩兵将校が豪語する。


また弾丸に関しても、新たな280弾は色々な面で使い勝手がよく、このアサルトライフルと、同じ280弾を使う軽機関銃とで構成された分隊と、高威力の7.7mm弾を使った軽機関銃を装備した火力支援分隊との組み合わせならば、従来とは別次元の戦闘力を発揮するだろうと歩兵将校が話す。


それについては騎兵将校も、騎兵装備としてもまた装甲車搭乗兵の装備としてもこの様な使い勝手の良い自動小銃は優れており、本格的に導入すべきだと賛意を示した。


今回の演習は彼ら若手将校に非常に高評価であったようで、一先ず成功と言えるだろう。


その後、英国陸軍から正式に纏まった数の装甲車の発注が入り、歩兵部隊でも支援車両として使う他、騎兵部隊が試験的に装備転換するという事になったと話があった。


また試験の結果、アサルトライフルの性能は良好であり、補給面で不安が残るものの乗車射撃など運用面で従来の小銃による戦闘とは違った局面での瞬間火力の必要性が認識されたため、ウェポンシステムとして新たな弾丸と共に導入すると回答があった。


つまり、これで英国の機械化歩兵部隊はアサルトライフルと軽機関銃を装備した第二次大戦後期相当の火力を持つに至ったわけだ。



英国では1912年の9月に年に一度の大規模な演習が予定されており、それに今回導入した装甲部隊を参加させる事を模索するとの事だが、うまく使えば負ける要素など無いだろう。



俺は後の事を従業員に託すと、9月に間に合うよう帰国の船に乗った。


親父殿と母を殉死させるわけにはいかないからな。



とりあえずデモンストレーションを行いました。


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