第十三話 1912.7-1912.7 マシニングセンタ
前回に引き続きアサルトライフル作りです。
1912年7月、アサルトライフルのロータリーボルト問題は、俺が渡した組成を元にブレアリーが作り出した合金を使用した結果、満足に足る性能のボルト部品が完成した事で一先ずの解決を見た。
射撃試験の結果、以前見られた様なトラブルも発生しなかった。
俺としては、最初から答えを知っていた様な物なので、殆ど試行錯誤も何もなくいきなり目的の合金が完成して当然な訳だが、ブレアリーはこの現実に驚き頭を抱えていた。
彼がこれまで研究し、これから来年にかけてやっと商品サンプルレベルの物を作り出す筈が、突然現れた男が持ち込んだ組成でそれよりもさらに特性的に優れた物がいきなり完成したのだから、彼の反応は仕方が無いだろう。だが彼はこの先もっと良い合金を開発するのだから、こんな事は直ぐに忘れてしまうだろう。
ブレアリーはさすがにアシスタントとしてのキャリアが長かっただけに、機材の選定や実作業も含めすべてにおいてそつが無く、素晴らしい能力と腕の持ち主だと言えるだろう。
後は工作精度の問題であるが、こちらの方は当面は職人の腕と技に頼るとして、レオモーターのオールズに頼んで米国から最新の工作機械を取り寄せる事にした。
米国には精度の高い加工を大量にこなす事が可能な工作機械を作っているメーカーが幾つもある。
それと同時に、自動工作機械を模索する事にする。
この時代の日本の工作機械メーカー、池貝鐵工所の創立者であり工学者池貝庄太郎を伊藤公の伝手で紹介してもらう。
彼はかの田中久重の弟子であり田中製作所の出身で、旋盤を自力で作り出すほどの実力があり、彼ならば俺が望むものを作れるのではないだろうか。
俺が欲しいのは高精度のフライスや旋盤だが、欲を言えば後の世のマシニングセンタの概念を先取りした自動工作機だ。これであれば高精度のボルトなどの部品を一定品質で大量生産できるのではないかと踏んでいる。
実現は簡単ではないだろう。しかし、ずっと未来の考え方で生み出された自動機械を今の技術で創意工夫して作り出すというのは技術者冥利に尽きる仕事の筈だ。
そして、このマシニングセンタが作り出せれば、後の日本の工業力向上に確実に寄与するのではないか。そう思うのだ。
デグチャレフの下に、もう一人技術者を青田買いをして付ける事にした。
日本から連れて来た若手技術者を彼の下に付けてはいるが、それでも仕事の負荷が掛かりすぎている気がするのだ。
青田買いする人物は、カナダ出身で今年二十四歳になる青年で、現在は米国のロードアイランド州プロビデンスにあるブラウンアンドシャープという工作機器メーカーに勤める工員で、名前はジョン・ガーランドという。
彼は銃器とその設計に興味があるがまだその興味を満たし機械工のスキルを活かせる仕事には就いていない。
そんな彼の元に、既に英国陸軍で採用実績のある新進銃器メーカーから「うちでガンスミスをやらないか」と英国までの船のチケット同封の手紙が届けば、やはり普通に考えても舞い上がるだろう。
彼から応諾の電信が届き、手紙を送って一月後、鞄一つでガーランドはやって来た。
やはり、若者はこうじゃなくてはな。
早速、デグチャレフを紹介し仕事場や既に採用されているエンフィールド軽機関銃などを見せると興奮を隠せない様子で、社長室で雇用契約書を見せながら、うちが想像と違っていたならば帰りの船のチケットを用意するが、と話をすると、すぐさま雇用契約書の方にサインをした。
ガーランドはやはり後に自ら自動ライフルを開発するだけに、ガス作動システムなど銃器の内部構造の呑み込みが早く、しかも工員としての腕もピカ一だった。
実にいい買い物をしたものだ。
新型アサルトライフルに関して、色々なバージョンを敢えて用意した。
と言うのも、第一次世界大戦では膨大な数の兵器が生産され、それのデッドストックのおかげで第二次世界大戦までの期間、古い兵器をなかなか更新することが出来なかった。
それが、現時点であればまだ間に合うのではないかと考えたのだ。
つまり、英軍がこよなく愛する名銃であるMLEライフルは第一次世界大戦に至るまで何度も改良が重ねられ、現在は最新型のSMLE MKIVが使われている。
英国軍はこのライフルの系譜で第二次世界大戦をも戦い抜くのだ。
その系譜を、今の段階でぶった切ってしまうのもアリなのではないかと思ったのだ。
今回用意したアサルトライフルは当然問題を一先ず解決させたGalilモドキのウェポンシステム型の方だ。こちらの方が今回の提案はよりしやすいと考えたからだ。
使用する弾丸をリムレス6.5mm50、つまり現行の三八実包から変更し新しい弾丸を用意した。
というのも、どうも三八実包は英軍での評価が芳しくないからだ。
俺が新たに作らせた弾丸は7mm .280ブリティッシュ弾。
この弾丸は優れた性能の弾丸であり、第二次世界大戦後米国がゴリ押しで30.06をNATO弾にゴリ押ししなければ、こちらの方がNATO標準で採用されていた可能性があった弾丸でもある。
俺は、この弾丸は後の時代を先取りした優れた弾丸だと思っている。
例によってスウェーデンのノルマ社に纏まった数を発注し、ウェポンシステムのメリットを活かしてラインナップを揃えた。
標準アサルトライフル型は20、30、40発の箱型弾倉。
カービン型は30、40発の箱型弾倉。
SAW型として75発ドラム、100発、200発箱型弾倉型。
バトルライフル型は20発、30発の箱型弾倉。
全部で四モデルも揃えたのは、使い勝手を見てほしい、というのがある。
簡易ではあるが、低倍率光学サイトもオプションで装着可能にした。
早速英国陸軍に弾薬と銃を一緒に持ち込んだところ、担当者はそれらを見て目を丸くした。
そして、俺の説明を聞いて一通り内容を確認すると、この突撃銃と言う銃の用途を聞いて来たので、汎用車両を利用した搭乗戦闘で使い勝手の良い銃器、という説明をした。
実際、走っている汎用車両から外を射撃するのにボルトアクションライフルではナンセンスだからな。
だからこれらの銃器も組み込んで、以前から話をしている汎用車両を利用した突破戦術の演習実施の申し入れを行った。
以前から話を通してあったため、既に汎用車両の操縦に慣れた兵士など参加兵士の選定は終えているとの事で、近日中に実施する事になったのだ。
この演習を終えた後、俺は九月までに間に合うように再び皇国へと舞い戻る予定だ。
次回は演習です。