第十一話 1912.3-1912.5 突撃銃
英国へと舞い戻ってきました。
1912年3月、俺は日本から再び英国へと舞い戻った。
今回同行した日本からの技師と工員たちを俺の会社へと入社させると、それぞれの専門分野と航海中に行ったヒアリングでの適性を元に、技師と工員の一部をデグチャレフの下へと付け、残りをホーンズビーへと送り込むことにした。
今後、彼らが日本へと定期的に送る事になっている報告書を見て、追加で人員が派遣されるかどうか判断する事になっている。技術面以外にも言葉の問題などがあるから、必ずしも良い結果になるとは限らない。
また、今回同行した彼らも恐らく二、三年程度で殆どが日本へと帰国する事になるだろう。英国へはあくまで技術習得に来ているだけで、働きに来ているわけではないからな。
大使館で着任の挨拶を済ませると、うちの会社に配属する技師達を連れて久しぶりに会社へ顔を出した。
連れて来た連中を皆に紹介するが、やはり言葉の問題が大きい様で、直ぐに溶け込める、という訳にはいかないようだ。
流石に海外に派遣されるくらいであるからそれぞれ優秀な奴らなのだが、やはり英語は理解できても日本人の発音が独特でイギリス人に伝わりにくく、また聞き取りにも苦労する有様。
暫くは筆談が必要かもしれないな。
だが皆二十代と若いこともあるし、直ぐに慣れると思いたい。
デグチャレフも仕事柄英語は理解できたのだが、最初はロシア訛りが酷く、聞き取りも苦労していたのを思い出す。今は夫婦共々英語で生活に苦労する事は無い様だ。
紹介の後、留守の間それぞれに頼んでいた仕事の報告を受けた。
まずはデグチャレフの仕事の具合を聞くと、丁度頼んでいたアサルトライフルが完成した所だったようで、早速実物を見せて貰った。
出てきたのは俺が描いたAKとは違って見えるアサルトライフルだった。AKというよりはガリルに似ているような…。
そうだ、デグチャレフがガリルを設計したらこんな感じになるかも知れない。そんな見た目の銃だった。
機関部は明らかにガス圧利用式の特徴を示しており、中を見れば図面に書いた通りのロングストロークピストン式のロータリーボルトが採用されていた。
射撃モードの切り替えレバーも付いており単発、連射を任意に切り替えることが出来、勿論安全装置も付いている。所謂「ア、タ、レ」だな。
銃床は取り換え可能にするという要望に対応する為、後の世界の西側ARの様な直床にデザインされ、機関部に様々なタイプの銃床が取り付けられるようになっていた。
そして、そのサンプルに折り畳み式やら、メタルストックやら、俺が書いたスケッチの意図を汲みとってくれた幾つものストックのサンプルが用意されている。
更にはピストルグリップすら、取り換え可能になっていたのは驚いた。
使用可能なマガジンは20発、30発、40発の箱型弾倉、それに100発のドラムマガジンが用意されている。
アイアンサイトも交換可能で、こちらも幾つものサンプルが用意され、俺が付けられるなら付けておいてくれと頼んでおいた、ピカティニーレールも付いている。
銃身も幾つものパターンが用意され、短い物から長い物まで四種類ほど。
一番短い銃身と一番短い銃床を付ければ全長をかなり短くすることが出来、サブマシンガンの様な取り回しの良い銃が出来上がる。
逆に、一番長い銃身と、一番しっかりした銃床、それに英軍から支給されたスナイパースコープを取り付ければ、マークスマンライフルにもなる。
勿論、大容量マガジンにバイポッドを付ければ軽機関銃にもなる。
とても素晴らしい出来映えの銃なんだが、難点があった。
後のStg44でも問題視されていたが重いのだ…。
弾を装填していない標準AR型の状態で4.4kgもある…。
三八歩兵銃が3.7キロと考えると、どうなんだろうな。
軽機関銃よりは全然軽いのだが、短機関銃よりは確実に重い。
30発箱型弾倉を装備の状態で4.8Kgもある。
デグチャレフにその事を話すと、そんなに重いかな?と不思議がられる。
試しにイギリス人の工員にも持たせてみたが同じ反応。
だが、日本から連れて来たばかりの若い技師に持たせたら、やはり軽くは無いという。
しかし、軍用小銃としてはそこまで重い事も無いのでは…?との事だった。
俺の感覚とこの時代の人々の感覚は違うのかもしれない。
特に白人とはがたいも違うしな…。
兎も角早速試し撃ちしたところ、連射は短く切りながらの連射ならまだしも、打ちっぱなしだと銃の制御が困難だ。だが、単発での射撃は申し分ない。反動もそこまで強く感じず、よく当たると思う。
評価をデグチャレフに話すと、やはり同じ意見で、この銃は基本的には単射で使う銃で、必要に応じて連射も使う銃だという感想だった。
ここ迄単射の射撃精度が良いなら、尚の事低倍率でも良いから簡易光学サイトが欲しくなるな。
デグチャレフには100挺ほど量産する様に指示を出した。
後は、実際に英軍なりで使ってもらって完成度を高めるのが良い。
例の一人用砲塔付きの汎用車両の改造は去年には済んでいた様で、社内でのテストも一応済んでいた。ただテストを担当した工員が、俺が設計した砲塔だと狭い上に視界が悪く、もう少し大きくした方が良いのではないかという意見を言ってきた。
まあ、確かにそうなんだが、大きくすると砲塔が重くなるから現状人力で砲塔を回しているので取り回しがかなり大変になるんじゃないのか。
この時代はまともな防弾ガラスも無いからペリスコープも作れないしな。
俺が設計した砲塔は三方に郵便ポストの口みたいなスリットを設けてある。
しかし、これで視界が良いかと言われると否だ。
工員が提出した新しい砲塔のスケッチは、よくある様な防盾式だった。
これだと、確かに軽いし視界は悪くない。そして、四方を鉄板に囲まれるわけでもないから狭くは感じない。が…、前面以外は剥き出しだぞこれ…。
仕方がないので、ドイツ製の装甲車sdkfz222みたいな大型の砲塔を設計し、更にユニバーサルキャリアの上に簡易に乗せる構造にしていたのを本格的に側面装甲を再設計して、この砲塔を固定できるようにした。
但し、ここまでくるとこれはもう車体だけ共用の履帯式装甲車だから。
防盾式を却下された工員は不機嫌になったが、それでも後日しっかりと設計どおりの砲塔を搭載した車両を完成させた。
改めてテストすると、砲塔内部は広くなり12.7mm機銃だけでなく、エンフィールド軽機関銃Mk1も同時に搭載することが出来て、見た目が益々sdkfz222の砲塔の様になった。
これを、英国陸軍の担当者を連れてきて見せたところ、大喜びすると同時に手投げ弾を放り込まれるのが怖いから対策を頼まれた。
そこで、sdkfz222が付けていた様な金網の天蓋を取り付けたのだが、やはり行きつくところは同じという事が良く分かったという訳だな…。
ホーンズビーの方にも出向組を連れて行って紹介し、面倒を見てくれるように頼んだ。
基本的に日本人の賃金は日本政府から出るからホーンズビーでは研修生の扱いであり、会社として賃金を出す必要はないから邪魔さえしなければ問題は無いと言っていた。
ホーンズビーの方で話を聞くと、汎用車両の英軍での評価は良かったようでまずは五十両ほど生産して納品したそうだ。
今のところは、使い勝手の良い重砲や砲弾の牽引車として使うようだ。
ガソリンエンジンの改良の方も続いていて、あれから百馬力まで馬力の向上に成功したらしい。やはりV8エンジンと言うチョイスは悪くなかったということか。
欧州というとV12が有名なんだがな。航空エンジンまで手掛けるならV12が必要かもしれない。
百馬力に出力アップしたエンジンを十台程作ってもらい、砲塔を装備して重くなった車体のエンジンと交換することにした。
重機関銃だけならまだしも、装甲付きの砲塔を付けると重量が一気に増えるのだ。
英軍に新たな演習実施を申し入れ、その前段階として車両の習熟などが必要であるため、練習場と兵士の手配を頼んだ。
以前、英軍の関係者と車両を使った機動戦術について話した時、結構興味を持っていてくれていたこともあり、早速と手配してくれることになった。
夏前までには演習をできそうだな。
準備も整い、いよいよ演習です。