第九話 1911.5-1911.8 重機関銃
ボチボチ戦車を完成させる段階が近づいてきました。
1911年初夏、日英同盟が更新された。本来の歴史では日英同盟はこれで最後であり、パリ講和会議の後同盟が解消される事になる。
しかし、地政学的に考えても遠交近攻という点を考えても日英同盟は双方にとってメリットが大きく、日英外交の核とすべきなのだ。
それが為にも、第一次世界大戦では英国にたっぷりと恩を売っておく必要がある。
だからこそ、俺がイギリスに居るのだ。
レオ自動車のオールズからトラックの試作品が完成したと連絡があり、先行量産車両がイギリス迄届けられた。
デザインは俺が提案したスケッチ通りで、時代を少し先取りした第二次世界大戦で多用されたような米製トラックの外観をしている。
ただし、こちらは六輪ではなく四輪駆動車だ。
実現可能なのかどうか不安があったが、流石技術力ではピカ一の会社だけに、しっかり四輪駆動で作られており、タイヤも後の時代に一般的になる空気入りの自動車タイヤが装備されている。この空気入り自動車タイヤはダンロップが供給しているものだ。
見るからにこの時代の一般的なトラックとは一線を画しており、エンジンが少し非力なのが気になるが、それでもこの時代のトラックとしては一段上の性能だろう。
ピックアップトラックの方も開発している様で、本来彼らがもう少しだけ後に売り出して大ヒットするピックアップトラックの元祖スピードワゴンのデザインとは違ったデザインのピックアップトラックの写真が同封されていた。
本来のスピードワゴンは二人乗り自動車に短いトラック荷台が搭載されたものだ。この車は使い勝手の良さから一般での使用は勿論、消防署や配送業など広い分野で使われた。
俺が提案したピックアップトラックは後の世のスタンダード。つまり、家族がしっかり乗れる後部座席付きの五人乗りで、その後ろにトラックが付いている。
米国でのオフロードでの使用を前提に、四輪駆動であり、後輪は二重タイヤで使う様にスケッチした。
オールズの凄いところは俺の出したスケッチやアイディアを理解し余すところなく取り入れて実際にその物を作ってしまうところだな。
流石、米国で最も自動車を知る男と言われるだけある。
オールズには、次のアイディアとしてスクールバスのスケッチと仕様等を郵便で送った。更に追加投資も行った。
以前買ったレオの株は順調に値上がりしていて、この調子だと例の大恐慌迄は堅調なのではないか。
それとは別に、以前会ったときに既に話はしてあるが、そろそろ日本での工場建設を提案した。実は史実より早くフォードとGMが日本に進出するかも知れないのだ。
それはそれでいい事だが、折角ここ迄手を入れたのだからレオ自動車に工場を出してもらい、その優れた生産技術やノウハウを伝授してもらわなければな。
まだまだ日本の自動車産業は始まったばかりで、今年やっと日産の前身になる会社が設立されたばかりなのだ。
ホーンズビーは生産拠点こそ作っていないが、既に販売代理店を置き、小さいがメンテナンスやサポートを行う日本支社を作ってある。
今月、去年から作っていたガソリンエンジンの試作品をロウリッジが完成させた。
本来ロウリッジがネイピアで作る筈だったエンジンに少し似た仕様の、排気量8000㏄の合金製V型8気筒エンジンで、先進的な作りの新しいエンジンだった。
テストの結果目標の80馬力を達成し、まだ力不足ではあるが今の時点では問題ないだろう。
俺が見てわかる範囲で改良点を指摘しロウリッジには更なる改良を頼んだ。
といっても、俺はエンジンの専門家ではないから、エンジンの構造や動作を知っているだけで、自分でエンジン設計まではやった事が無い。
俺が出来るアドバイスというのは、未来人である俺から見て後の世のエンジンで当たり前についている機構や形状が新しいエンジンにあるかどうか見て、無かったとしてこの時代で実現可能であろうと思われる物を指摘するという程度の事でしかない。
完成したエンジンを早速汎用車両に積み込んだところ、やっと人が乗れるスペースが確保でき、ユニバーサルキャリアっぽい外見になった。
試しに動かしてみると、十分な機動力を発揮し農業用トラクターより軽快に動き、平らな所であれば40km/h近い速度を発揮した。
もう少し馬力が上がれば、武装を付けても満足のいく性能を発揮するのではないだろうか。
デチャグレフに頼んでいた12.7㎜機銃が完成した。弾丸の設計をデチャグレフが行い、作ったのはいつものスウェーデンのあの会社だ。
完成したのは、単純に言えばマキシム機銃、つまりロシア軍が使い我が皇国軍を苦しめたPM1905重機関銃のスケールアップ版で、つまり水冷機銃という事になる。
勿論、見た目通りのまったく同じコピー品のスケールアップという訳ではなく、メタルリンクベルトに対応しているし、内部構造も異なる。
余りにも特徴的な水冷システムが、その外見をマキシム機銃に見せてしまうのだ。
試射すると、ひときわ大きい発射音で弾が飛び出していく。発射速度は毎分500発。
硬焼レンガが砕ける程の威力を発揮した。
但し、水冷は水が無ければ使えず、また戦車に載せるという事を考えれば空冷の方が好ましい。
そこで、放熱フィンを付けた冷却スリーブを付ける事にして、また銃身の交換も必要があれば簡単に行える様に、把手を付ける事にした。
後日上がって来た試作品は、特徴あるマズルブレーキなどは無かったが、DShk38によく似た外観をしていた。
そこで、記憶の中のDShk38のマズルブレーキを図面にして渡して追加してもらった。
試すと明らかに銃のコントロールがより容易になり、必要な物だという事が解った。
こうして、DShk38的な重機関銃が完成したのだった。
完成した機銃はDShk38より重たく38kgもあり、英国軍の誇りであるビッカース機銃なみの重さだった。
後日、英軍に持ち込んで試験したところ、レンガの壁がぶち抜けてなおかつ命中精度も優れていて、600mを超える先の標的にも正確に命中するそうな。
その為、照準器がオプションで付けられるようにせよと指示があり、照準器まで支給された。
照準器を取り付けるアタッチメントを追加し、更に精度に見合ったしっかりしたアイアンサイトも取り付けた。
これを持ち込んで再度試験をしてもらったところ、狙撃銃として性能良好との評価を獲た。
このクラスの弾丸はまだ使っていない為、これも英国陸軍で作るそうだ。
エンフィールド重機関銃Mk1として正式採用になった。
皇国にも10セット程生産して送付した。
ちなみに、この12.7mm機銃は第一次世界大戦のレベルだと徹甲弾を使う事で戦車を含む車両を簡単にスクラップに変えることが可能であるし、対空機銃としてもかなり有効だろう。
主砲も完成したところで、これをユニバーサルキャリアに取り付け、軽戦車を完成させた。
数を揃えればいよいよ、戦車を用いた実験を始められるという訳だ。
イギリス軍がまたほんの少し強化されました。
ドイツ空軍危機一髪?!