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前編(過去)

前編は小学生時代です。

男の子1人、女の子2人のそれぞれの視点があります。

あの頃の恋の行方 前編





「ごめんなさい、僕にはどちらかを選ぶことはできない。だから、2人ともと付き合うことはできません。」


「「…え?」」



『ごめんなさい。』と頭を下げる僕に、2人の少女の焦ったような声が届く。



「そ、そんな…。ま、まだ、悩んでも、いいんだよ?」

「そ、そうだよ!いつか答えを出してくれるなら、それまで待つから…、ね?そんなこと言わないで?」



これは幼い頃の記憶。

俺は2人の少女に長い間アプローチを受けていた。




1人はフワッとウェーブのかかった黒髪に、くりっとした大きい瞳をしている。大人しく人見知りだが、仲良くなるととても甘えん坊になった可愛らしい女の子。


もう1人は海外から引っ越してきて、金髪で綺麗なストレート、普段は少しキツめな目尻で蒼い瞳をしている。たまに抜けている所はあるが、正義感が強いキレイな子。




2人とは小学校に入学してすぐの時に出会った。




友達が出来なくて、寂しそうにしているところに声をかけて。

見た目が違って、さらに正義感が強すぎて孤立しているところを援護して。



それぞれきっかけはあるが、気付けばずっと3人で遊んでいた。

学年が上がるにつれて、共通の友達もそれぞれの友達も増えたけど、3人でいることは変わらなくて。それが、とても楽しくて。



2人の好意には気付かないフリをして。



けど、4年生のバレンタインの日、2人ともから告白されて。

返事はいつでもいいと、ズルズル先延ばしにしていると、もう卒業式。





2人は年々、女の子らしい成長を続け、まだ子供とはいえ、とても魅力的になった。

彼女たちの周りにはいつも人が絶えなくて、もう1人きりでいた頃が嘘のようだ。




逆に自分には何の特徴もなく、低学年で1番早かった足も今では真ん中から少し上くらい。勉強はできる方だが、過去の持て囃された時期と比べると突出しているわけでもない。


見た目も癖の強い猫毛以外は平凡、友人の数も普通、周囲に頼りにされる場面がないわけではないが、2人が納得する内容を提示すると勝手に周りも同調してくれるだけだ。




そんな俺に高スペックな2人が好意を寄せてくれる。最初は嬉しかったこの状況も、しばらくすると複雑な感情が浮かんだ。



初めて2人に挟まれ、腕を組んでいるところを見た人は、微笑ましそうな視線から『こんな可愛い女の子達が、なんで普通そうな男の子と』という奇異な視線に変わってきた。


彼女たちに好意を寄せるクラスメイトも増えた。

意地悪をして気を引きたがる時期もほぼ終わり、恥ずかしくて話しかけられないでいた男子たちも、徐々に上手く距離を詰められないか模索しだした。

そんな男子たちからは、迫害されるようなことはなくとも、やっかみを受ける回数は増える一方だった。



2人の内のどちらかを選べないのは、1番は2人とも好きでどちらか一方を選ぶことなどできない、という理由なのは間違いない。

しかし、キラキラと華やかに輝く彼女らの近くに、凡庸で灰色な自分がいることにもう耐えられなかったのだ。

もはや自分に残された選択肢は、すぐに2人と離れて、影ながら彼女たちの新しい恋を応援することだけ。

とはいえ、それもできそうにないのだが…。




ともかく、もう彼女たちを解放しなければならなかった。


彼女たちの眼に映る、存在しないヒーローから…。




「遥、ミア。僕は2人が思っているようなかっこいい人間じゃない。2人の期待に応えられなくなっていくのが、怖いんだ。だから…、だから、さようなら。」










私、櫻井(さくらい) (はるか)には大好きな男の子がいる。

保育園に途中入園(年度の途中で入園すること)した私は、ずっと1人ぼっちだった。



すでに仲良しの輪が出来ているところに入ることが出来ず、いつも男の子にちょっかいをかけられた。

最初の頃は助けてくれていた女の子達も、お礼すら言えない私に愛想を尽かした。

そうして私は他人の前で上手く感情を出すことができなくなった。

その内、男の子も何の反応も示さない私に興味を失い、それからはずっと1人本を読んでいた。




そんな保育園を卒園し、小学生になった時、運命の出会いが訪れた。

はじめての授業で先生に当てられた時、緊張で声が出ずに立ったまま動けなくなった。しばらく何も言わない私に先生は「大丈夫だよ。」と言ってくれたけど、クラスメイトからは「こんな問題も出来ないの?」と嘲笑された。



惨めで、悔しくて、恥ずかしくて。「座っていいよ。」と言われても、動くことができず、『またこんな日々が続くのか』と絶望し、顔を伏せて泣いてしまった。

保育園での私を知らない女子から男子を非難する声が上がり、教室内は騒然となった。

先生もオロオロしていたと思う。






そんな中…




バンッ!!





突如、机を叩く音がして教室は静まりかえった。音を出したのは隣の席の男の子。

入学式の日に『よろしく。』と言われたけど、無視してしまった子だ。



「先生、櫻井さんは朝から調子が悪そうでした。保健室に連れて行ってあげて良いですか?」



立ち上がったその子はそう言うと、先生の返事も待たず私の手を取った。


「大丈夫?行こう。」


呆気にとられていた私は思わず頷いてしまった。

ポカンとしたまま、久しぶりに直視した他人の顔は、とてもカッコイイ笑顔だった。




それから、私の日々は激変した。

最初は彼、佐伯(さえき) 優也(ゆうや)くんが話しかけてきても、なかなか言葉を返すことができなかった。

それでも、いつも「大丈夫だよ。」と笑ってくれた。


はじめて口にできたのは「ありがとう。」だった。返事がなくて、恐る恐る顔を上げると、とても驚いた表情の優也くんがいて、思わず笑ってしまった。

すると彼はいつもの笑顔よりずっと素敵な笑顔をして頭を撫でてくれた。

『よく頑張ったね。』その言葉と撫でられる手から感じる彼の温かさに私は泣いた。




私と優也くんはよく一緒に過ごすようになった。


休み時間には、2人になれる場所で話しをする練習もしてくれた。

そのおかげで、私は少しずつ他人とも話しが出来るようになった。




しかし、優也くんといない時に話しかけられると困ってしまう。


女の子達が優也くんとの関係を聞いて来た。矢継ぎ早に繰り出される質問に、私はタジタジになっていた。その時、金髪のキレイな子、ミアちゃんが助けてくれた。



しかしそのあと、女の子達がミアちゃんの悪口を言っているのを聞いてしまい、彼女のことが気になった。

気にして見ていると、いつも独りきりでいることがすぐにわかった。以前の、優也くんと出会う前の私のように。




私はそのことを優也くんに相談した。

「教えてくれて、ありがとう。大丈夫だよ。」

不安な顔をする私に、いつものように笑いかけてくれた。

しかし、どこか表情が硬い気がした。




それから、何度か優也くんがミアちゃんに話しかけに行った。

私は少しミアちゃんが羨ましかったが、いつもすぐに戻って来ていた。




何日かそんな日が続いたが、その日はすぐにやってきた。優也くんがミアちゃんのためにケンカをしたのだ。

いつもとは違う、優也くんの様子が私は少し怖かった。優也くんにはずっと笑っていて欲しかった。




その事件のあと、ミアちゃんと優也くんは仲良くなり、私もミアちゃんとすごく仲良くなった。




それでも、私の1番は優也くんで、優也くんの1番は私でありたい。




私が笑うと優也くんは素敵な笑顔を見せてくれる。

いつしか、その笑顔が見たくて、私もよく笑うようになった。

私が笑えるのは優也くんがいるからだ。

『彼にとっての特別になりたい。』それが私のすべてだった。







私はミア・エマーソン。

イギリス人の父と日本人の母を持つハーフというやつらしい。

日本でハーフは自分と違う存在として見られる。

日本語はママに教えてもらっていたので、ある程度わかるけれど、見た目の違いを埋めることはできなかった。




幼少期をイギリスで過ごし、日本の小学校に通うことになったが、みんな興味深そうな視線を向けてくるものの、話しかけてくる子はいなかった。




私自身もその疎外感に慣れず、話せる人のいないまま授業が始まり、それは起きた。


当てられた女の子が、答えられずに立ちつくしてしまったのだ。

決して難しい問題ではなく、『緊張してしまったのかな。』と心配していると、周囲が騒ぎ始めた。

からかいの声が飛び、それを咎める声が上がり、教室内が騒然とした。

どこか頼りない先生の制止も聞かずに騒ぎ立てる生徒と、とうとう泣き出してしまった女の子。




私もその状況に腹が立ち、声を上げようとした瞬間、後方からバンッと音がした。

驚き振り向くと男の子が立っていた。

周りが静かになったのを確認し、先生に有無を言わせずに許可を得ると女の子を連れ出した。



当人がいなくなったことで、先生が仕切り直し授業は再開された。

私はその時、颯爽と女の子を助けた男の子に憧れを抱きながらも、ただ呆然としていた。





それから、話してみたいとは思うもののなかなか機会はおとずれなかった。


それでも、あの男の子のように、自分もしっかりした人間になろうと、悪いことをした子を叱るようになった。

掃除中に遊ぶ子、授業を真面目に聞かない子、いじめやからかいをする子…

最初は日本語を話せることに驚かれたが、助けた子には感謝もされた。


やっぱり彼のような行いは正しいんだ。それが嬉しくて、ついつい力が入ってしまった。





「なんであんたにそんなこと言われないといけないの!」

喧嘩の仲裁に入ったところそんな言葉を投げられた。

行き過ぎた正義感への反感は日に日に増していった。



いつしか友達になれていた子からも距離を置かれるようになった。




なんでっ!私は正しいのに!




その思いが強まるばかりで、どうして自分が独りになっていくのかわからなかった。

次第に誰も私に話しかけないどころか、近づきさえしないようになった。




1人を除いて…




「ハロー!えっと、マイ ネーム イズ ユウヤ サエキ!ワット ユア ネーム?」

寝癖のついた頭の変な男の子が、ベタベタな日本語の発音で話しかけてきた。

「…は?えっと、日本語、話せるよ?」

「え!?」

時が止まった。



「ぷっ、あはははは!」

「ちょっ、笑うなよ!」

吹き出してしまった私に、ユウヤが拗ねた表情で咎める。久しぶりに心から笑った気がする。



「ごめんごめん。…あっ!」

「ん?どうかした?」



突然、声を上げた私にユウヤが不思議そうにしている。私が声を上げたのは他でもない。

ユウヤが例の男の子だったからだ。


(こんな髪型だっけ?それにクラスも同じだから、日本語話せることとか、私の噂知ってるんじゃ…?)




色んな疑問が浮かぶが、どう尋ねたらいいのか迷ってしまう。

すると…



「いつもあんまり長い日本語話さないからさ。まだ慣れてないのかと思って勉強したけど、損したよ。」



バツが悪そうに苦笑して優也が言う。

たしかに、私は授業中は答え以外話さないし、音読の時に当てられたこともない。

休み時間中は優也は助けていた女の子と出て行ってしまうことが多かったので、その時の私を知らないのかもしれない。




疑問は解決したが、私と話していると優也まで無視されるかもしれない。私の立場に彼を巻き込みたくなかった。




「ごめん、1人にしてくれる?」

話しかけてくれた嬉しさを隠して、出来るだけ冷たく言う。

優也は「んー…。」と少し考える素振りをして、私の目を見て言った。




「僕と話すの、イヤ?」


なんて卑怯な言い方だろう。


「イヤじゃないけど、私は1人でいたいの。」


ハッキリとイヤとは言えずに言葉を濁した。


「わかった。じゃあまた明日。」

「…え?」



そう言うと、さっさと離れていってしまった。





言葉通り、優也は次の日に話しかけてきた。

しかし、また私は「1人でいたい。」と突き放した。

すると彼はまた「じゃあまた明日。」と言った。





4日それを繰り返し、週末の金曜日になった。優也はまた話しかけて来た。

「今日は大丈夫?」

いつものように、同じ質問を投げかけてくる。しかし、その日は状況が変わった。



「おい、優也!そんなのほっとけよ!」



クラスで1番大きい身体の、ガキ大将をしている男の子が、優也を止めたのだ。



「なんで?僕はミアさんと話したいだけだよ?」

「知らないのか?そいつは正義の味方のフリした悪魔だ!だから髪の色や眼の色がみんなと違うんだよ!」



影でコソコソ『悪魔』と呼ばれているのは知っていた。



(優也、私の名前知ってたんだ。)



疎外されることに慣れてしまっていた私はそんな的外れなことを考えていた。



『あぁ、この時が来てしまったか…。』

いつか他の子たちと同じように彼も自分から離れていく。



そんな彼を責めるつもりはない。ただ、少し悲しかった。




そんな諦めの感情は、すぐに吹き飛ばされた。




「…もう一回、言ってみろよ。」

「あ?な、なんだよ優也。文句あんのかよ?」



温厚な性格の、優也の雰囲気がガラリと変わった。




「あぁ、大アリだ!誰が『悪魔』だ!謝れ!謝れよ!!」





小柄な優也が、鬼のような形相になって掴みかかる。

はじめて見る、優也が怒っている姿。

いきなり掴みかかられ、ガキ大将もタジタジになっている。



「『悪魔』だなんて呼ばれる子のことも考えろ!ミアは女の子だぞ!!その言葉がどれだけミアを傷つけてるのか考えろ!バカヤロウ!!」

「くっ!くそっ!!なんなんだよ!このっ!」




明らかに力で優也は負けている。それでも優也は止まらなかった。

結局、先生が大勢来て必死に優也とガキ大将を引き離すまで取っ組み合いは続いた。その頃には2人ともボロボロになっていた。


私はその騒動の間、優也から目が離せなかった。



優也を見ていると、心の奥がじんわり温かくなるのを感じた。




放課後のホームルームで、ガキ大将がみんなの前で謝ってきた。それを見届けてから、優也もガキ大将に謝った。


後から聞いた話では、先生が仲裁に入り仲直りさせようとしたところ、ガキ大将が私に謝らない限り絶対に謝らない、と珍しく先生を大変困らせたそうだ。






「ミアさん、おはよう!」

週が明けて月曜日。朝一から声を掛けてくるのは初めてだった。

「…おはよう。」

「今日は、大丈夫?」

「…うん。私も、優也と話したい。」

まだ顔に絆創膏を貼っていたけれど、とても満足そうに優也は笑った。



余談だが、初めて話しかけてきてくれた時の髪型の違和感は、単に入学式用にキレイにしていた髪が伸びて癖毛がひどくなっていたそうだ。

その話を聞いた時、私はまた笑ってしまった。優也の癖毛はフワフワしていて好きだ。癖毛も、かな。



私は優也と、優也に助けてもらっていた子、遥と親友といえる関係になった。

しかし、『優也とはそれ以上の関係になりたい。』その為に私は必死に彼の背中を追いかけていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

よければ感想、評価をよろしくお願いします。


後編は明日の20時に投稿します。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。

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