あきとはる
さよならさんかく、またきてしかく……
やなぎはゆれる、ゆれるはゆうれい、ゆうれいはきえ……
さぁ、どこへ?
薄曇りの空は今の僕の心のよう
桜舞い散る様子は頬を伝う涙と一緒
あの場所から逃げたくて、でも離れたくなくて、建物の外に出たものの側で立ち尽くす
見上げた煙突から立ち上る煙にのってちゃんと天国にたどり着いてくれるだろうか
もういない、僕の愛していた春よ
噂を聞いた
些細などこにでもあるような噂話だ
この病院の隣にある古びた小さな公園
そこに少女の幽霊が出るっていう良くある話だ
その幽霊が白いシャツに桜色のワンピースと茶色の靴、オレンジ色の紅葉の飾りを頭につけたポニーテールの女の子だって聞くまでは
夜中に家を抜け出して噂の公園に来てみれば、背丈ほどもある塀を覆う不気味なツタにポッカリ口を空いたような真っ暗な入り口
意を決してトンネルみたいなアーチをくぐれば、奥にある街灯が1つチカチカと心ともなく光る
そんな寂れた公園の片隅
静かにシーソーに座るはポニーテールの少女
ああ!いた!!
きっとあの子に違いない!!
震える心と身体を動かし近づけば、足音に気付いた少女
驚いたようにこちらに振り替えって
「お兄さん、だぁれ?」
その問いかけに、我慢していた僕の心はついに泣き叫んだ
もう何度目だろうか、ここに来るのは
初めて出会った幽霊の少女とは、出会ったあの日からもずっとこの公園で会い続けていた
少女は自分名前を春と名乗り、それ以外のことは一切覚えておらず、いつからこの公園にいたのかも分からないと言った
また公園から出ることも出来ないと言った春に、僕は家にある絵本や可愛らしいオモチャを持ち込んでは出会うたびに一緒に遊んだ
「また来てくれる?お兄さん?」
「もちろん。また来るよ、春ちゃん」
そうやって何度も、何度も、一緒に遊んだ公園で綺麗な桜の樹が満開になったある春の日
いつも通りの別れ際の約束を、今日だっていつも通りするはずだった
「お兄さん、お兄さん」
「どうしたの?春ちゃん?」
「春ね、楽しかったよ、嬉しかったよ。だから、もう悲しまないでね」
「えっ……。同然なんで、そんな事を言うの」
「知ってるの。ずっと、ずっーと泣いてたでしょ?
でもお兄さんはもう大丈夫、だって今は笑えるでしょ?」
聞きたくない
そんなお別れみたいな言葉は聞きたくない
「もう泣かないで、最後まで春は幸せだったから」
やめてくれ
嘘だと、冗談だと、そう言っておくれ
「春ね、笑顔が好き。お兄さんの笑った顔が好きなの」
ああ、そんなことを言われたら
僕は君の言われたとおりにするしかないじゃないか
「元気でね、晃お兄ちゃん(あきにぃちゃん)」
笑って少女は消えた
それ以降公園に現れることはなかった
それと同日、隣の病院で眠ったままの妹も静かに息をひきとった
彼女をちゃんと笑顔で見送る事が出来ただろうか
僕は涙を拭い、今出来る最高の笑顔でまだ立ち上る煙を見上げた