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扇の偉才は逆襲する  作者: one reon
清龍女子野球部編
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驚嘆と落胆 その2

「ほう、こいつがあの二木球か。まさか本人にこうして会うことができるとはな。実に光栄だ! 私は松本唯まつもと ゆい投手ピチャーをしている! よろしくな!! ってこれは! 星刻シニアのサブユニホームじゃないか!!」

「そうですけど」

「唯ちゃんは星刻のファンだったのよね」

「あぁそうだ、残念ながら桜花と同じでジェッツだったからほとんど試合することはなかったがな。そうだちょっといいか?」


 赤髪のセミロングを引っさげた無駄に壮大な口調の女性は清彦と同様に球のデータの中には無い人物だった。玲に先輩と呼ばれていたことと桜花を呼び捨てにしていることから三年生であることが分かる。

 球がよろしくお願いしますと頭を下げると、唯は球の方へと近寄り全身のあらゆる部位の筋肉をまさぐり始める。急な接触に球は思わず変な声を漏らしてしまう。


「ほほーう。こりゃあ質の良い筋肉をしているな。決して太くはないが柔軟性はもちろん、まったく無駄がない。一体どうすればこんな筋肉がつくのだろうか」


 勝手に人の筋肉の解説、考察を始める唯。


ーーこれでも落ちているのだけど。


「……同意」

「ちょっと! あなたはダメでしょ!!」


 どさくさに紛れて唯と同じ様に接触を図る清彦に、球は思わず口が滑ってしまった。

 怒られるかと思い、清彦の顔を見てもその表情は謎。


「……清彦」

「え?」

「……清彦」

「清彦先輩?」

「……そう」


ーーこの先輩は本当に謎だわ。たしかショート守っているって言っていたし、あの悪魔からポジションを奪ったのかしら? この無名の選手が? ともかく早くプレーを見てみたいわね。


「お? なんだなんだ? 新人をいじくりまわす遊びか? 私も混ぜてくれ!」


 ベンチに水分補給しに帰ってきた玲が球をまさぐり隊に加わろうとする。


「や、ちょっと待ってください!」

「なんだー? 恥ずかしがってるのか?」

「いや、恥ずかしいとかの問題じゃなくて」

「やなのか?」

「嫌ではないですけど」

「よーし! じゃあみんなでいじりまくるぞー!!」


ーーあぁ、もう好きにしてください。


「……って、清彦先輩はやめてくださいって!!」




「えーっと、そろそろ全体練習を始めたいと思うのだけど。大丈夫?」


 桜花が大丈夫と声を掛けた相手は球。全身を数分間まさぐられ、まるで拷問でも受けているかのようにこそばゆい感覚をずっと我慢していたのだ。


「はぁ……はぁ……だ、大丈夫です……」

「へばるのが早いぞー! しっかりしろよな球!」

「まったくもって玲の言う通りだ!!」

「……未開発地帯」


ーーほんと、こいつら先輩じゃなかったらシバいてるよ。


「ふふ、じゃあ早速始めるわ。今日はシートバッティングのみ。終わったら各自、自主練に戻ってもらって構わないわ」


ーーえ? それだけ?


・シートバッティングーーカウントやランナーなどが関係無いフリーバッティングとは違い、実戦形式のバッティング練習。より試合に近い練習でアウトカウントなどケースに応じた打撃、走塁の挙動の練習をするのが目的。もちろん打撃側だけでなく守備側の練習でもある。


「打撃側は私と唯ちゃん、それからつーちゃん、玲ちゃん、清彦君の五人で回すわ。それから龍一君はピッチャーでキャッチャーが二木さん。お願いね」

「他の守備はどうするんですか?」


 ここにいるのが全部で七人、そもそもシートバッティングをする人数すら揃っていないのだ。当然といえば当然の疑問を球はぶつける。


「大丈夫よ。そろそろうちの警備部が……って噂をすればなんとやら。来たわね」

「おーっす姉御! 今日はどうしやすか?」


 明らかに高校生ではない体つきの男たちが、練習用の真っ白なユニホーム姿で球たちがいる反対側のベンチ裏からぞろぞろと姿を現す。


「ピッチャーとキャッチャー以外の守備、それから審判にコーチャーをお願いします」

「おっしゃあ!! 聞いたかおめぇら。姉御たちの足引っ張んじゃえーぞ!」


「「「おーーー!!」」」


 いわゆるガテン系のテンションというものだろうか。かなりの気合が入っているように見える。


「桜花先輩、この人たちは?」

「うちの会社の警備部の人たちよ。うちは二木さん含めて九人ぎりぎりだから、練習を手伝ってもらっているのよ」


ーー夜桜グループ。本人もそうだけどやっぱりとんでもないわね。


 桜花は十分後に始めるということを伝えるとバットを持ちストレッチをしながら素振りをし始める。すると他のメンバーもそれに続く。

 結果的にベンチ前には球と龍一の二人が取り残される形となった。


「球種とサインの確認をしておきましょうか」

「あ、ああ」


 自宅からリュックサックに押し込んでわざわざ持ってきたプロテクターを各部位に装着しながら龍一に声をかける。


「それで、あなた何投げられるの?」

「ストレート、カーブ、フォークだ。あーでもダメだ、カーブはぜってー打たれんだよ。大してまがんねぇションベンカーブ」


 拗ねたような口調で自分のカーブを使えない宣言。龍一にとってはだから使わないでほしいという意図だったのだが、球にとってはそうではなかった。


「分かったわ。その口ぶりだと普段からこの練習はしてるようだけど。結構打ち込まれるのかしら?」

「悔しいがかなりな。九イニング分投げるとだいたい十点は取られる、まあ今日はあの人たちがいねえからまだマシだけどな」

「? まあいいわ。今日はその半分、四点以内には抑えるわよ。気合入れなさい」

「は? 無茶言ってんじゃねーよ。今まで最小で八点だぞ! できる訳ねえだろ!!」

「何言ってるのよあなた。甲子園行くんじゃないの? それとも口だけかしら? まったく冗談は見てくれだけにしてほしいわ」

「てめぇ、マジでシバくぞこらあ!! こちとらマジだっつうの。四点以内とかちょろいわ、ゼロに抑えんぞ!」


ーーさあ、この挑発を飲み込めるか、それとも飲み込まれるか、吉と出るか凶とでるかどちらに転ぶか見ものね。ただ口だけのヤンキーなのか、器があるか、はっきりとするわ。

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