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扇の偉才は逆襲する  作者: one reon
清龍女子野球部編
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驚嘆と落胆

「これは驚いたわ……」


 球が口を半開きにしてそう驚きを口にしたのも無理はなかった。その理由は二つある。

 一つは清龍女子野球部の専用グラウンドというものがあまりにも整った設備であったからだ。学校から自転車で約四十分ほどのところに位置している球場はプロ野球が使うような地方球場であり、もちろん大会などでも使われていてもおかしくないほどである。均等に慣らされ肥えた土に外野の天然芝、ベンチ裏のロッカールームにシャワールーム、さらに雨天練習場やウエイトルームまで隣接しているのだ。学校にあるあの清龍野球部の設備にも引けを取らないほどである。全国のあらゆる高校のなかでも、ここまで設備の整った野球部、ましてや女子野球部はないだろう。

 そしてもう一つの理由は目の前に揃った豪華なメンツだった。さらにこの豪華すぎる設備を揃えられた理由はある一人の人物の存在、それが答えだった。


「二木球さん。ようこそ清龍高校第二野球部、通称女子野球部へ。私たちはあなたとの出会いに心から感謝しています」


 そう堅苦しい言葉遣いで球を出迎える女性。真っ黒な髪の毛を肩甲骨の下まで伸ばし一つ結びでまとめ、身長は球より数センチ小さいが胸のつっぱりが彼女のそれとは一回り、いや二回りほど大きいものだった。まるで笑顔をそのまま顔面に張り付けたかのように表情が自然かつ動かない。


ーー夜桜桜花よざくら おうか。日本有数の大企業、夜桜グループの末っ子。江戸川ジェッツの遊撃手ショート。ボーイズ時代にはその異常な打率と未来予測に近い守備範囲を誇り、敵チームからは「心を読む悪魔」と恐れられていた。……まさかこんなビッグネームにここで会えるとは。桜木バルカンズの小学生コンビといい、一体何でこんなところに。


「私は夜桜桜花。三年生で清龍女子野球部のキャプテンかつここの責任者。よろしくお願い致しますね球さん」


ーーこの人はやばい、本当に二つ上の同じ高校生なのかしら。どうも何もかも見透かされているような、それに雰囲気が他と圧倒的に違う。隠してはいるけど、こんなの異常だわ。


「はい、存じ上げております。こちらこそよろしくお願いします」


 完全に度肝を抜かれた球だったが持ち前のポーカーフェイスで平静を装う。そんなポーカーフェイスさえ看破されているような気持ち悪さに、球は少々気分が悪くなる。彼女は例えではなく本当に悪魔と会話しているような気分を味わっていた。

 しかし球には目の前の悪魔と同時に気になっていたことがもう一つ。


「あの一ついいですか?」

「えぇ、何でもどうぞ」

「あれは一体……」


 球の目線の先にいたのは先ほど教室に来ていた紬と玲、そして球でも知らない女子選手の三人がユニホーム姿で鬼ごっこらしきことをしていた。


「もぉおやだぁぁぁああああ!! パンツ返してよぉぉおおお!!! それスラパンじゃなくてガチなやつだよぉぉおおおお!!」


 そんな紬の叫びが球場中に響き渡る。


・スラパンーースライディングパンツの略、スライディングした時に摩擦などから皮膚を守る役割をする。スラパンの下には下着を付けないのが一般的である。


「ハハハハッ!! いい動きだ! 流石はつーちゃん! だがこちらとて二人がかり。負けるわけにはいかないのだよ!!」

「あはははは!! ゆいセンパイ!! こっち、パースッ!」


 あろうことか高校生にもなって二対一で紬のパンツを本人に奪われないように遊んでいる。遊びといってもその動きは尋常な高校生のものではない。切り返し、一瞬の状況判断、初速の速さ、どれをとっても普通ではなく、特に紬は相手が二人だというのにもう少しで取り返せそうなくらい押していた。


「あーあれはつーちゃん弄りね。といっても唯ちゃんと玲ちゃんは練習と言い張っているけどね」

「はぁ……」


 そのあまりにも馬鹿らしい遊びに少し呆れていると、球の後ろから薄っすらとした影が忍び寄っていた。


「……グッドヒップ」

「え? うわっ!!」


 球のお尻まであと数センチ、そんな距離に中腰になり顔面を置いていた変態がそこにはいた。触れることができるか否か、そこまで距離を詰めるため気配を薄く、存在を球に悟らせない徹底ぶり。性欲の権化、それがこの男だった。


「あら、清彦きよひこくん。ウエイトはもう終わり?」

「……新しい女の匂い」

「え、」

「……冗談、今日は終わり」

「笑えないですよ」


 前髪が目にかかり表情が読めない上に、独特なテンポで会話をする。


「……沖田清彦おきた きよひこ。ショート」


 それだけ、短い自己紹介をすると手を球の方へと差し出してくる。


「よ、よろしくお願いします。二木球です」

「……知ってる」


ーーですよね。


そんなやり取りをしている一方で、紬によるパンツ奪還もいよいよ終わりを迎えようとしていた。


「にゃぁぁぁぁあああ!!! 返せって言ってるのにぃぃいい!!」

「あはははは!! パンツだパンツ! ん? なんか変な匂いがするぞ! あははは!! ちゃんとお風呂入ってるのかー?!」

「にゃんだとごらぁぁぁああ!! 寄越せぇぇぇええ!!」

「やばっ、唯センパイ。紬ギア上げたよ!!」

「よっしゃ! こっちだ玲!!」


 玲はほとんど紬によって追いつめられており、最早ぎりぎりまで紬を引き付けてからパスを出すしか選択肢がなかった。


「唯センパイ!」

「あまぁぁああいっ!!」


 それは一瞬だった。玲は急停止によって足をほんの少し滑らせてしまった。もはや事故、そう言ってしまえばそれまでだが、最後までプレッシャーをかけ続けた紬が生み出したものだった。

 無事、自分のパンツを奪還することに成功した紬はトップスピードのままベンチ裏へと走り去っていった。


「ふーあの速さにはやはり敵わないな」

「ほんとそれー。紬の素早さまじチートだって」


 まるで準備体操を終えたかのような息遣い。あそこまでの攻防を繰り広げながら息一つ切れていなく、その底なしのスタミナに球は驚いていた。


ーーいや、凄いことには凄いんだけど。


 果たしてチームとして大丈夫なのだろうか、とそんな疑問が大きく残っていた。

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