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扇の偉才は逆襲する  作者: one reon
清流高校野球部編
55/68

私は好きですよ感情論

 球は誉が去ってからすぐに自分の配布端末から星村に電話をかけた。するとやっぱりワンコール以内に応答があった。

「こんな早くに申し訳ありません。二木です」

「気にしなくて良いですよ。私は極端にショートスリーパーらしくてね、二時間しか寝ないので大体四時くらいには起きてますから。連絡が来るなら今日の夜くらいかと思ってましたが意外と早かったですね。もう決まったのですか?」

「ええ、もちろんポイントは交換します」

「まあそうですよね。それにしても相手の三野さんは良く受け入れてくれましたね。自分の代わりに友達が退部圏内になるのに……実はあなたの片想いとか?」

「ははは、違うと私は思いますよ。そんなこと言うなんて意外と監督って意地が悪いですね」

「可能性の話をしたまでですよ。まあ私の性格が悪いことは否定しませんが。それに違うのなら何て言いくるめたのですか?」

「だから言ってませんよ。それを言ったら誉は絶対に承諾しないですから。気弱な風なのに頑固なんですよあの子」

「でも、ポイントを交換したらすぐにバレますよ。配布端末から確認できますからね」

「ええ、ですから彼女の端末は私が預かってます。これでポイントを交換してもバレないです」

「あなた、正気ですか? 何の説明もせず、全部一人で背負い込む気ですか?」

「もちろんです。これも勝つために、その舞台作りも含めて私のやることですから。これを誰かに伝えても何の得にもならないですよ」

 球がそう言うと電話口から大きな溜息が流れてくる。

「なるほど。敦也くんの言っていたことが理解できましたよ。言っておきますがあなたのそれは普通ではないですからね」

「敦也の言っていたこと? 普通ではない? 一体何の話をしているんですか?」

「分からないのなら今は良いです。それより確認ですが、ポイントを交換したら鰐淵くんに全ポイントを賭けて勝負を申し込むんですよね?」

「敦也から聞いたんですか?」

「ええ」

「そうですか、その通りですよ。何か問題でもあるんですか?」

「いえ、それならこっちも都合が良いというか。ただ、果たして勝てるんですかね。この前は鰐淵くんに勝っていたようですが、今度は敦也くんもいるんでしょ? この違いはあなたが一番分かっているのでは?」

「そうですね。はっきり言ってかなり悪い状況ですよね。こちらは不確定要素も多いですし、能力的にもほとんど劣っていますし」

「それならどうして? ポイントを交換して退部のリスクを犯してまであなたは勝負を挑むのですか? 友達を助けて自分も退部圏内から脱出するのに、わざわざ鰐淵くんと勝負をしなくても良いのでは?」

「それはそうですよ。監督の言う通りです。でも、何て言うんですかね。いくつか理由はありますけど、一番の理由は……やっぱり気に食わないから、だと思います」

「え? 気に食わないから?」

「はい。嫌いなんですよ。頑張ってる人のことを平気で陥れたり、馬鹿にしたりする人が。それに自分より下だと見なした途端に人の弱みを突いてくるくせに、自分がピンチになった途端になりふり構わないで卑怯な手を使う人を、私は先輩なんて呼びたくないんですよ。だから私は私の意見を通すために戦うだけです。それに敦也にも恨みはありますからね。二人まとめて丁度良いですよ」

「へぇ、あなたって意外と面白いですね」

「面白いですか?」

「ええ、もっと論理的で合理的な判断を貫く人だと勝手に思ってましたけど、意外と感情論を優先するんですね」

「ダメですか?」

「いいえ、ダメじゃないですし、私は好きですよ感情論」

「もちろん勝負ですから感情を捨てなければならない場面はあります。ただこの状況なら感情で動いた結果に負けたとしても損をするのは私だけですからね。それに負けるなんて微塵も思っていませんけど」

「あははは、やっぱ面白いね君。一応、鰐淵くんは事件を起こさなければセンバツで普通に試合に出てたと思いますし、敦也くんも次の春季大会でベンチ入り確実かなって感じなんですけど、そんな二人相手によくそこまで言えますね。私があなたの立場だったらそこまで言えませんし、勝負自体避けますよ」

「分が悪いことはもちろん理解してますし、二人の実力も知っています。それでも私は私の価値を証明するために勝ちます。勝ち続けるしかないんですよ、私は。負けた私に、勝つことができなくなった私に価値はないですから。たとえ女人禁制の高校野球界においてもそれは変わりないです。私は高校野球でも勝ち続けます」

 電話の向こうの星村は少し沈黙をしてから、音割れするほど大声で笑い始めた。

「ごめんなさい。あははは、いやぁ君すごいですよ。すごいイカれてる! どんな人生を送ってきたらここまで頭のネジを外せるんですかね、普通じゃないとは思ってましたけど、ここまでとは。あははは!」

「悪いですか?」

 球は少しムスッとした表情になった。

「いやいや! そんなことないですよ! 是非そのままでいてください。あなたのそれは最早武器ですよ。もちろん悪い部分がないとは言いませんが、そんなことは些細なことです。自信を持って下さい。まあそうは言っても、あなたの言う通り勝たなきゃ何の意味もないですけどね。負ければ退部ですからね」

 星村は最後に付け加えるように笑った。

「質問は終わりですか?」

「あははは、失礼。あなたを良く理解できた気がします。ありがとうございます。交換の手続きはこちらですぐにしておきますから安心してください。それと、あまり監督っていう立場上こういうことを言うのはダメなんですけど……健闘を祈ってますね。厳しい戦いになると思いますけど、私は個人的にあなたを応援してます」

「え?」

「何ですか? 監督だって人間ですから、個人的に応援くらいしますよ」

「いやその、久しぶりだったので誰かにそんなこと言われるのが」

「そうですか、少しでも後押しになれば幸いです。では、楽しみにしてますね」

 星村はそう言うとまたしても電話を一方的に切った。


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