練習場所とは?
「球、一つ聞いて良いかしら?」
「ん? 何?」
「こんな場所でどうやって練習しろって言うのよ! 整備されてないデコボコな地面に、雑草は生えまくってる。挙句の果てに石も大量に転がってるじゃない!」
「でも、林の中にこんな丁度良いスペースがあるなんて思わなかったでしょ? 雑草と石は取り除けば良いし、デコボコなのも均せば十分練習できるし、後でショベルとトンボくすねてくるよ」
「いや、そんなことしてたら丸一日潰れるじゃない。私はこんなことで時間を潰したくないのよ。そんなんじゃ甲子園はおろか男連中の言う通り、本当にベンチにすら入れないわ」
「桜花の言いたいことは理解できるよ。ここよりも室内練習場の方が設備も充実してるし、あっちで練習した方が効率も良い。雨が降っても室内だから関係ないしね」
「だったらっ!」
「でもさ、ここだったらあんな男連中は来ないんじゃない? あっちで練習したところで毎度毎度あいつらに邪魔されるのは目に見えてるし、どうせ雨の日は先輩たちが来てロクに練習できないって。だったらここで細々とやるのが一番効率的じゃない?」
確かに、と桜花は一瞬納得するが、そもそもこの状況を作ったのが男連中だということには納得できなかった。
「でもっ! そもそもあのクソ共が突っかかってこなければこんなことには……それにこんなんじゃ――設備が使えないんじゃ何のためにこの学校に入ったか分からないじゃない!」
「そんなのはどこの学校に行ってもあり得ることじゃない? 一年生の、それに入部したてだったら尚更だよ。それにそもそも女だからって差別されることは覚悟の上でしょ? だったら私たちのやることは勝つために、少しでも前に進むことじゃない?」
「……そうね、冷静じゃなかったわ――さっさとやりましょう」
「うん……誉はどうする?」
誉はビクッと身体を震わす。この状況では肯定しかできないだろう。
「わ、私は……」
「無理に私たちに付き合わなくて良いのよ。私たちは本気だけど、あなたもそうであるとは限らないんだから」
発言を食い気味に遮られてしまった誉は、どうすることもできなくなり、下を向いて二人の目から顔を背けることしかできなかった。彼女なりの自己防衛術だ。
「おい、桜花。言い方が悪いよ」
「はっきり言わないとしょうがないじゃない。本当かどうかはおいて、私にはこの子が流れであなたについてきてるようにしか見えないの。あなたと同部屋で、同じ雑用班だから、そんな理由でしょ? そこにこの子の意志はないわ。そんなんで一緒にいられても迷惑だし、この子だってそのうち辛くなるだけよ」
桜花の言っていることに球は内心同意していたが、誉にも共感できるからこそ何も言えなかった。
「で、どうなの?」
下を向いて黙り込んだ誉は少しだけ目線を上げた。
「私は……」
早く答えろ、私は本気だ、そう言っているかのような桜花の圧に誉は何も言えなくなってしまう。上げた視線を再び下に戻して、拾われてきた子犬のように全身をただ震わせることしかできない。
「やりすぎだって。そんなんじゃ本音も言えないよ。とりあえずここを何とかしようよ。それこそ時間の無駄だし――誉、ショベルとトンボ運ぶの手伝ってもらって良い?」
球は誉の肩に手を置く。
「……うん」
「はぁ……」
桜花はそんな二人を見ながら大きな溜息を吐いた。