先制攻撃―幼女と変態の攪乱― その4
春季大会決勝トーナメント前日。清龍女子野球部寮、ミーティングルームにて。
「うーん。この条件だとどう考えてもうちに勝ち目はないわね〜」
パイプ椅子に座り、腕を組むことで乳袋を支えながら桜花は唸る。
「……10回やって1・2回勝てればいい方」
「はっはっは! その予想はかなり弱気だな。この口か? そんな弱気なことを言うのは」
「……痛い」
唯はかなり分が悪いと予想する清彦の口を引っ張る。
「私はそれくらいが丁度良いと思いますけど」
球は自前のタブレット端末で、去年の秋季関東大会、清龍の試合を見ながらそう言った。
「随分と言うじゃないか後輩。10回に1回を掴むなんて私は容易ではないと思うがな」
「先輩こそ、随分と弱気なんですね。自分が投げれないからってそう弱気になるものではないですよ」
「な?! 私が弱気だと?!」
「ええ、弱気です。どんな強豪でも夏は1回負ければそれで終わりなんです。この程度の試合で勝ちを取れないのなら全国優勝どころか、甲子園の土さえ踏む資格ないですよ」
「なあぁ!? 言わせておけば……!」
球の物言いに思わず立ち上がる唯。
「……球の言う通り」
「清彦!? お前まで!」
「……言い方は別としてド正論」
「ぐぬぬぬぅぅう……」
「はいはい、そこまで」
桜花はヒートアップする三人を前に、手を2回叩き、その場を鎮めようとする。
「まあ、私も球ちゃんに賛成なのだけど 」
「な! 桜花まで!」
「だってしょうがないじゃない。本当のことなんだもの」
「そ、そうだけど……」
「ほら、ごめんなさいは?」
「ご……ごめんなさい……」
普段の威厳はたっぷり、凄みすら感じる唯の態度もこの三人が敵ではどこかへいってしまった。
「うーん。やっぱり龍一君がどれだけ清龍打線に点を取られないかによるわね」
「……それに関しては球に任せれば大丈夫」
「いやいや、清彦先輩。あのバカの乱調っぷりは制御できないですって」
「……球でもまだキツイか」
「1回極限まで追い込むのも手だと思いますけど、何せ時間がありませんから」
「そうね。それはまた関東大会の後にやりましょう。とにかく龍一君は球ちゃんに任せるわ」
「わかりました。それと打順についてなんですけど」
球がそう切り出すと桜花が食い気味に反応する。
「あーそのことね。私も迷ったんだけど、ダメかな?」
「いいえ、まったくそんなことないです。超攻撃型、ハマれば点が入りやすいと思います。ただ、何故私が5番で桜花先輩が3番、いつもの打順と入れ替えたのですか?」
「初回が大事だからよ。3番で確実に点を取るため」
「……私じゃ確実じゃないですか?」
ワントーン低い声で遠慮がちに言った。
本当は聞かなくても理由は分かっていたのだが、どうしても桜花の口から聞きたかった。
「ふふ、ごめんね球ちゃん。いつもなら3番は球ちゃんの方が良いのだけど、今回ばかりは私の方が確実よ」
「え?」
それは球が予測していた答えではなかった。てっきりもっと実力的なことだと思っていたがそうではなかったらしい。
「それって……」
「ふふ、内緒よ。ね? 唯ちゃん」
口元で人差し指を立て悪戯っぽく笑うと、唯に同意を求める。
「はっはっは! そうだな! 内緒だ、内緒!」
一体なんなのだ、と思ったが二人がそこまで自信満々に言うので無理やり納得した。