春季大会開幕
ーー春季大会
4月中に開催される県大会。
各ブロック予選、4チームにおける総当たり戦を勝ち抜いた上位チームによって行われる決勝トーナメント。
この大会は本命である夏の予選の前哨戦である。自チームにとって必要なのはできる限りの経験値、それからライバル校の情報である。
冬越えをしたライバル達が一体どの程度の怪物に変身を遂げたか確認できる絶好の機会なのである。
いわゆる敵情視察であり、あまり勝利が夏ほど意味を成さないという人も多いだろう。
しかしそんなことは関係ない。球児達は目の前の一戦一戦に向き合い、立ちはだかる敵を片っ端からなぎ倒して行く。
これはそれぞれの、これまで野球人生を賭けたプライドの戦い。
夏だか春だかは関係ない。そんなことは外野が勝手に騒ぐものだ。
すべては己のプライドの為に、すべてはチームの勝利の為に。
神奈川県某所、各ブロック大会を勝ち抜いたチーム同士における決勝トーナメント、この球場では今からその第一試合が始まろうとしていた。
しかし球場全体は異様な空気に包まれていた。というより異様な光景となっていた。
制服を着た吹奏楽部にチアリーダー、一般生徒に数多くの高校野球野球ファン、さらにプロ野球などのスカウトなどもが一塁側のスタンドを埋め尽くす。
高校野球界の名門、常勝軍団、そう呼ばれている清龍高校野球部。
彼らはその試合を一目見ようとここに集まったのである。
そしても清龍野球部もまたその声援に応える。先輩方が築き上げてきた伝統を、そして名門としてのプライドを守るために。
対して三塁側スタンドはというと、一塁側から溢れた高校野球ファンがぽつぽつといるだけでガラガラ。もちろん応援団もいない。
そんな中、とある男女二人の記者が三塁側スタンドの最前列を陣取る。女性記者は見るからに高価そうなカメラを両手に、熱心に球児達の姿を捉えていた。
「まさか初戦からこの組み合わせだなんて……運命のイタズラですかね」
女性記者はまさかの組み合わせにワクワクを、驚きを隠さないでいる。
「でも、この試合の価値に気がついているやつはいないな。見たところ他社のやつらは誰も来てない。清龍が初戦で躓く可能性ゼロだと思っているんだろ」
「ふふふ、あの練習試合が生きて来ましたね」
「ああ、今月号はバカ売れ間違いなしだ」
まるで時代劇の悪代官の様に悪い笑みを浮かべる。
「ところでせんぱーい。私が先輩のせいで行けなかったブロック予選、清龍女子はどうだったんですかー?」
「悪かったって、この前奢ったんだから忘れろよ。とゆうか、その成績のリンクお前に送ったはずなんだが。まさか見ていないのか?」
「げ……いいじゃないですかー人に聞いた方が早いですよ〜」
「ったく、三戦圧勝だよ。全部五回コールド、最低でも20点差以上はついてた」
「ひぇー、やっぱ本物だったんですねあの子達」
「ああ、投げてはあのヤンキーピッチャーが合わせても1失点。唯一、トーナメント進出確実と言われていた三大四高にゲッツー崩れで取られた点だった。どのチームもあの150キロのストレートに手が出なかった」
「じゃあ今日も……」
「そうだな。恐らく投手戦になるだろうな。清龍にはプロ入り確実、県ナンバーワンの左腕がいるからな。いくら清龍女子の打線でも大量得点は難しいだろう」
投手戦ーー両チームのピッチャーの好投により、低い点においての接戦となること。
左腕ーー左ピッチャーのこと。
「結果はまったく予想がつかないが、できれば清龍女子に勝ってもらいたいな」
「ですね〜、その方が売れますからねぇ」
「お、始まるぞ。カメラ任せたぞ」
「りょーかいしました!」