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扇の偉才は逆襲する  作者: one reon
清龍女子野球部編
25/68

そして次へ

「う、うそ……」

「ああ、これはやばい。今年の神奈川予選は荒れるぞ。さっさと帰って特集組まないと」

 練習試合が終わって球場を後にする二人の記者は信じられないものを、この世のものではないものを見てしまったような、そんな表情をしていた。

「あの塔樟学園って強かったんじゃないですか?」

「いや、塔樟は強い。ただ清龍女子がケタ外れのバケモノ揃いだったんだよ」

「いやいや、それにしてもあのスコアはおかしくないですか? 五回コールドで42対1って、意味分かんないですよ……」

「ああ、名門と弱小公立校なら見たこともあるが……」

「何なんですかあの子たち! 何かもう怖いですよ! あんな子たちの取材しなくちゃいけないんですか?」

「まあ落ち着け、っつても俺も全然落ち着いてないんだがな。正直言ってあれは異常だ。いくらシニアとボーイズのスターが揃ってるからって、塔樟相手にあんな一方的な試合はできない」

「じゃあなんであんな……」

「二木球だよ」

「え?」

「二木球、あの子が偉才と呼ばれているのには理由がある。それはシニア時代、決して恵まれてはいないチームメイトを持つことでそれははっきりとした。あの子はキャッチャーの理想形なんだ」

「意味分かんないんですけど」

「あー分かりやすく言うとだな。あの子がキャッチャーとしてチームに加わるだけで、他の選手が本来持っている実力以上を発揮するんだ。スポーツでは基本的に練習の八割の実力を出せたら優秀だ。だが二木球はその百パーセント以上を引き出すんだ。そんな子が元々バケモノ揃いのチームに入ったらどうなると思う?」

「こうなるってことですよね。42対1って」

「そういうこった。ただ今日は本当にツイてる。これから高校野球には間違いなく革命がおこる。その始まりを俺らは見ることが出来たんだからな」

「偉才――二木球」

「ああそうだ。よく覚えておけよ」

「あ! そうだ! 来週から始まる春季大会の取材日程どうするんですか? 塔樟メインに予定組んじゃったんですけど……」

「あ? そんなもん関係ねーよ! いまから帰って予定組み直しだ!」

「え~せんぱーい。今日、日曜なんですけどー」

「うるせえな! 奢ってやっから我慢しろ!」

「わーい! 牛丼とかはなしですからね……」

「わーってるよ! ったく! 今どきのもんは!」




 ここは清龍高校の応接室。とても簡素な作りで背の低いテーブルを挟んで黒いフカフカしたソファーがある。そんな部屋に一人の少女が足を踏み入れるところだった。

「失礼します」

 向かい合わせのソファーには厳格で風格のある、六十代ほどの男性が一人。その向かいに男性と同年代で仏頂面が張り付いている女性が腰を掛けている。

「おー桜花君。君も早く座りなさい。丁度コーヒーが入ったところだ、この豆はいいぞ~君も是非飲んで感想を言ってくれ」

 立ち上がり奥のテーブルにあるコーヒーを取りに行こうとする男性。それを見た桜花はすぐさま代わってコーヒーを入れようとする。

「ほっほっほ、悪いねえ。君みたいな美人にコーヒーを入れてもらえるなんて、一生の思い出になる。嬉しくてつい昇天してしまいそうだ」

「いいえ。私でよければいつでも」

「ほっほ、ありがとう。もう死んでも後悔はないよ」

「はっ! なら早く死ぬんだね」

「ありま、撫子なでこ君がどうやら嫉妬しているみたいだよ。どうしようか桜花君?」

「校長先生。あまり淑女をからかうものではありませんよ」

「あらあら、ごめんよ桜花君」

「私ではなく、新垣あらがきさんです」

「おーそういうことかね。淑女というものだから桜花君のことかと」

「いい加減にするんだよこのクソジジィが。早く要件を済ましてくれ」

 男性の方は清龍高校の校長先生である。

「新垣さん。どうでしたか今日の試合は?」

 早速本題に入ろうと桜花が新垣と呼ばれた女性に話を切り出す。

「なかなか頑張ってた、と思うがね」

「じゃあもう一つ。二木球はどうでしたか?」

「あーあの小娘、全然だね。昔よりは幾分かマシにはなっておるが」

「あの状態でですか?」

「ああ。桜花、すべてのスポーツにおいて重要なことが三つある」

「ええ、心技体ですよね」

「そうさ、その中でも特に重要なのが心だ。何故だか分かるか?」

「技と体を使うのが人間だからですか?」

「まあ正解だ。どんなに素晴らしい技術と体を持っていたところでそれを使うのはテメェだ。そいつの心がどうしようもなくちゃすべてが崩れる。あの小娘、技術と体はそれなりに成長しておるが心がまったく成長しておらん」

「はー撫子君は辛口だなー。凄かったじゃないか今日の試合」

 新垣の容赦ない批評に気を使った校長先生が軽く拍手しながらそう言った。

「校長先生も観にいらしてたのですか?」

「ああ、撫子君に久々に会えると聞いてね。おらドキがネムネムしてきたゾ」

「いい年こいて何言ってるんだよ」

 校長先生の訳の分からない冗談に、ハニカムことしか出来なかった桜花は話を進める。

「それで新垣さん、私たちは合格ですか?」

 不安な気持ちが顔に出てしまっていたが新垣の顔をまっすぐ見る。

「……」

 新垣はジッと桜花の目を見つめ返す。まるで桜花の何かを見計るように。

「はあ……春季大会出るんだろ? しょうがないね」

「で、では!」

「ああ正式に受ける。まずは春季大会、テッペン取るよ」

「はい!」

「ほおーやっと受けてくれたんだねえ。まったく苦労したよ。でもこれで……」

「ええ、これから起こします――革命を」

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