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扇の偉才は逆襲する  作者: one reon
清龍女子野球部編
15/68

残りの二人とそれから その3

「ね、ねえ球」

「どうしたの凛ちゃん?」


 六時間目が終わり球たちは練習場へ。今日の全体練習は昨日と同じシートバッティング。ただしチーム分けは昨日とは異なり、警備部の人たちが攻撃、球たち高校生チームが守備側。今は五回が終了して水分補給、小休憩の最中だった。


「野球ってこんなピリピリしたスポーツだったの?」


 何故、凛が練習に参加しているのかというと、お決まりと言えばそうなのだが、朝の流れでマネージャーになると聞かなかったのだ。大変だと、球が諭してもまったく聞く耳を持たずマネージャーになるの一点張りだった。凛はどうしても球の傍にいたかったのだ。


「ううん。この人たちがちょっと頭のねじが外れちゃってるだけだよ」


 凛が戸惑うのも無理はなかった。たかが練習ではないのだ。練習のための練習はするな。一球入魂。常にぎりぎりのプレーを心掛けろとはよく言うが、彼女らの練習はそんな生易しいものではない。


「ちょっと清彦!!」

「……どうした芽衣」


 朝、球たちの教室では優菜の後ろに隠れてオドオドしていた芽衣の面影はまったくない。まるで二重人格のように別人、鬼気迫る迫力で清彦に詰め寄っていた。


「どうしたじゃないわよ! 何なのさっきのプレー! 明らかに半歩スタート遅れていたじゃない! バッターの足がなかったからよかったけど、普通ならゲッツー取れないわよ!」


・ゲッツー――併殺ともいう。一つのプレーで一気に二つのアウトを取ること。


「……ランナー見ていなかったのか?」

「は?」

「……盗塁するそぶりをしていた」

「そんなの見ていたわよ!」


・通常一塁ランナーが走ったら、清彦が守っているショートと芽衣が守っているセカンドはセカンドベースへとカバーに行かなくてはならない。


「それを含めても半歩遅かったって言ってるの!」

「……そんなことない」

「はあ?」

「……球のサインがインコース低めのフォークだった」

「だから?」

「……セカンド側に引っ掛ける可能性が高い。俺が先にカバーに行くのは当たり前」

「龍一がコントロールミスをしたらどうすんのよ。コントロール良くないんだから、その可能性も十分高いと思うんだけど」


 芽衣の的確な指摘にベンチの隅で水分補給していた金髪が思わずビクつく。


「……今日は今まで三つしか大きなコントロールミスをしていない」

「は? 数え間違いだろ」

「……そんなことない」

「それでも半歩遅かったことに変わりはないだろ! 言い訳すんなよキノコ!」

「……相手が一枚上手だった。それだけ」

「清彦、それ本気で言ってんのか?」


 清彦の一言で二人は一触即発。互いにこだわりがあり、プライドがある。特に芽衣の守備への情熱は並ではなく。譲れないものがあるのだ。


「……それを含めて自主練で二人で詰めればいいだろ」

「ちっ! 分かったわよ! 残り四回、足引っ張んじゃないわよ!」

「……こっちのセリフ」


 何とか和解した二人は、芽衣は体を動かしにベンチの外へ。清彦は先ほどのプレーをノートにメモしていた。


「ひぃ……怖かったー。あの二人、おとなしそうなのにすごいね」

「うん。プレー中も滅茶苦茶喧嘩してるよ」


――あれだけいがみ合って喧嘩もしているけど、その分動きのレベルは高いし。何故か息ぴったり。まさに阿吽の呼吸なのよね。本当は仲良しなのかしら。


 特にこの二人はお互いに指摘しあっているけど他の二年生も似たような感じであった。互いが互いの悪い動きを指摘して、よかったところは素直に褒めあう。そんなピリピリとした緊張感が漂うグラウンドで実に呑気なやつが二人ほどいたのだった。


「いや~今日もやってるなー」

「そうね~」


 最上級生である唯と桜花。この二人はベンチに座り、まるで老人が元気な子供を見守っているかのような雰囲気を醸し出している。


「そういう先輩たちは随分とお気楽モードですね」

「まあな」

「私たちがわざわざ何か言わなくても勝手にやってくれますからね~。優秀な後輩を持つと先輩は楽でいいわね」

「まったくその通りだ!」


 たしかに練習の中心にいるのは二年生たちだった。桜花もちょこちょこと軽くアドバイスはするものの、深いところまではわざと突っ込まないし。がはは、と偉そうに笑っている唯に至っては口を挟もうともしないのだ。


「球もバンバンいけよ! グラウンドではみな平等だからな。先輩後輩気にすんなよ!」

「は、はあ」

「あ、そろそろ時間だわ。みんなも消化し終えたところだろうし。再開しましょう」


――なるほど。この休憩時間は前半のプレーを自分たちで消化させるためにあるのね。





「お先に上がります。お疲れ様でした!」

「おつかれさまでーす!」


 全体練習のシートバッティングが終わると球は凛を引き連れてそそくさとグラウンドを後にする。そんな二人を見送ると何やら真剣な表情で桜花が話し始める。


「みんな、球ちゃんのことどう思う?」


 それは唐突かつ抽象的な質問だった。


「どーって、すげえ奴だと思う!」

「そうね玲ちゃん」

「何か清彦君がキャッチャーの時よりすごく守りやすいですね」

「……つーちゃん、ド直球ね」

「……傷心」

「あわわわ! ご、ごめんなさい清彦君!」


 どんよりとした雰囲気の清彦に爆速で何度も頭を上下させる紬。


「昨日、今日の練習だけでも明らかに高校トップレベルだわ。でもあの子がもし私たちに遠慮して本気を出していなかったとしたら……ね、どうする?」


「「?!」」


 若干二名の阿呆が目をギラリと光らせる。


「ふっふっふ、なるほどね。それなら私たちのやることは決まっている!」

「そーだ! ゆーなの言う通り決まっているのだ!」


「「あはははは!」」


「いや、訳分からないっすよ! 球に何するつもりですか?!」

「黙るのだチンポ!」

「黙るのだー! あははは!」

「だから、チンポはやめてくださいって」

「そんなことが分からないようじゃまだまだだな! さあ行くぞ! 玲隊員!」

「行くぞー! ほら清彦も!」

「……作戦会議」

「あははは! ノリノリだな!」


 そのテンションのまま問題児三人はグラウンドを後に寮の方向へとダッシュ。


「芽衣ちゃん、私不安で仕方ないです。あの三人に任せて大丈夫なのでしょうか」

「紬ちゃん。だ……ダメだと思うよ」

「ははは! なるようになるさ!!」

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