残りの二人とそれから その2
朝のホームルーム前、厄介なまさに台風が過ぎ去り雲一つない晴天になることを期待していた球だったのだが、運悪く、いや自業自得といっても良いだろう。一昨日から数えて台風四号の襲来であった。
「どういうことなの!」
「違うの凛ちゃんこれには訳があって」
台風四号、それは幼馴染の凛による説教タイムだった。凛の説教タイムは長く彼女の言うことには歯向かうことのできない球にとっては決して楽しい時間ではなかった。
「言い訳は聞きたくないの! ほら! 正座を崩さない! しっかりと背筋を伸ばして、それから下向かないの! そんなんだから根暗だって陰口叩かれるのよ」
「え! それ初めて聞いた……」
相当頭にきているのだろう、つい口を滑らしてしまう凛。
「そんなことどーでもいいの!」
「いや、よくな……」
「い・い・の!」
「は……はい」
凛のごり押しに球はまるで飼い主に怒鳴られ、怒られている犬のように肩をすくめ、小さく丸くなってしまう。
「それで、昨日早退したっていうから心配で学校終わったら家まで様子を見に行ったら誰もいないし。また馬鹿みたいに落ち込んでいるのかなって思って商店街とか川沿いとか、夜までずっと探し回って、ケータイにもでないし。今の今までの私の気持ち分かる?!」
「えっと、その……すみません」
「すみませんじゃないの。私の気持ちは?」
「お、おい。その辺にしてやれよ」
「龍一君は黙ってて!」
「はっ、はいっ!」
説教タイムを二人のそばで見守っていた龍一が小さくなった球を放っておけず口を挟むと、マジモードの凛の一言、反撃により背筋を伸ばして口を閉じるしかなかった。
「そんな私の気持ちを知ろうともせず。球は何? 野球部に入っていたですって?」
「ご、ごめんなさい……」
球は正座のまま頭を限界まで、おでこを床に付けて謝罪する。すると凛の様子が少し変化した。少しうつむいているため目が前髪で隠れ、両手の拳を握りしめ、全身をブルブルと震えさせているのだった。そんな凛の様子を頭を上げた球が目視すると、本当に大変なことをしてしまったと痛感した。
「本当に野球を始めるの?」
「う、うん」
「ふ、」
「ふ?」
「ふぅー……あーよかったー!!」
「へ?」
「球がまた野球始めたんでしょ? それなら安心だわ!」
「うわっ! ど、どうしたの急に」
怒られるのかと思いきや、急に抱き着いてきた凛の行動がいまいち球には理解できておらず何て声をかけたら良いか分からなかった。
「り、凛ちゃん?」
「ううっ……ぐっ!」
「な、泣いてるの?」
「泣いてなんかないもんっ!」
球の胸の中に収まった小さな小さな凛は、涙を堪えようとするもまったく我慢できず、それでも我慢しようとプルプルと震えていた。
「心配したんだからぁ! 本当だもん! うう……っ! また球が塞ぎこんじゃったんじゃないかってっ!」
「……ごめん」
凛の行動はただのエゴだ。しかしそれでも球にとってそれは嬉しかった。野球をまた始めたこと、数か月間、いや出会ってからずっと自分を思っていてくれたこと、もう二度と野球をしてはいけないと思っていた球の心に刺さったのだ。ただ単純にそれが、幼馴染の親友のそれが嬉しかったのだ。