表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
普通戦争  作者: みるくるみ
8/9

第8話 人間とは、嘘を嘘と暴けないもの

俺──町田健人が自分のグループのコテージに戻ると、中にいた3人が一斉に振り向いた。

「健人!大丈夫か?」

「何もされなかった?」

「怪我してない?」

3人が口々に俺を心配してくれるのを見て、まだ死ねないな、と思った。

「ああ、大丈夫だ。そんでもって、良い結果を持ってきた。」

俺がそう言うと、3人は期待の眼差しで見てきた。言おうとした時、俺は事実を話すか迷った。

「向こうの返事は──できる限り、バレないように協力的に行動しよう、だ。」

(…言えるわけがない!奏汰達を殺すことが条件だなんて。しかも、それは俺が勝手に言ったことだ。それを告げることで俺達がバラバラになったら意味が無い。それに、俺の手の届く範囲の人には勝手だけど、手を汚して欲しくない。狭いけど、これが俺が成すべきことだ。なら──この3人のために死ぬ覚悟を決めないとな。尻拭いぐらい、1人でできる。)

俺が覚悟を決めていると、明日香が胸をなでおろした。

「良かったぁ。もし帰ってこなかったらどうしようって思って、不安で。」

「そうそう、本当に心配したんだからな?恨むって言った約束が現実にならないか、さ。」

「大丈夫だって言ったろ?俺は仲間を置いてくような薄情者じゃないさ…」

先程の覚悟を思い、言葉に詰まりそうになったが、何とか言い切った。

「さて、これからどうするかだけど、俺は明日か明後日に何かが起こる可能性について考える方がいいと思う。」

言って皆を見回すと、3人が頷いた。

「じゃあ、俺から意見を出す。結構ハッキリ言うけど、もしこの出来事があれば、今のこのお互いの立場は変わると思う。」

「どうして?」

「だって、今の俺達の状況を組織は良くは思っていないだろ。目的であるゲームが行われていないも同然なんだから。」

意見を述べると、浩史も続いて意見を述べた。

「なるほどな。だけど、こうも考えられないか?この焦らし合いもゲームの一部だって見てるって。」

浩史の意見を首を横に振って否定した。

「確かにそうかもしれないが、それはないと思う。お互いが今か今かと攻めるタイミングを伺っているならまだしも、まだどのグループも『可能性』だ。確実に攻めるとは誰も考えていないだろ。」

俺の説明に納得したように3人が頷いた。

「だから俺は、何かが起こる可能性があるのが濃厚だと思う。」

「じゃあさ、その何かって何なの?ある程度の検討でもついてるの?」

明日香が真剣な口調で俺に訊いた。命がかかっているんだから真剣なのは当たり前だろう。

「仮定だが、考えていることはある。」

「何?」

「それは──戦闘か、殺し合いか、だ。」

俺の言葉に全員が息を呑んだ。

「まだ仮定だ。そんなに気を張らないでくれ。だが、武器を渡したり、ルール上戦闘が避けられないこのゲームだから、そんなイベントがあると思う。」

俺の仮定の理由を聞いて、3人は納得したように頷いた。

「でもさ、健人。もしだよ?そうなった場合私達はどこに味方すればいいの?奏汰側?瑠奈側?」

「それは、表面的には奏汰側だ。でも、隙を見て瑠奈側につく。隙がなければ今回は諦める。瑠奈達には…既に言ってある。」

嘘だ。言っていない。そんなことになったら、もう味方だの何だのと話は出来ないだろう。──この3人が生きるためには、俺の死は避けられないだろう。そう、これは俺が独断で決めたんだ。皆に責任はない。

「なるほど。裏切れる時に裏切れる、か。いい案だな。良し、じゃあ一先ずそれで良いよな?」

鷹斗の言葉に俺以外の2人が頷いた。頷かなかった俺を不思議に思ったのか、鷹斗が心配そうに声をかけてきた。

「健人?何か不満でもあるか?」

「あ、いや、大丈夫だ。少し考え事をな。俺もそれに賛成だ。」

「了解。じゃ、昨日みたいに練習しないか?まだ使い方が不安でさ。」

鷹斗が確認するように言うと、俺を含めた3人が頷いた。そして、俺はおもむろに立ち上がって言った。

「じゃ、やるか。」

その言葉を皮切りに3人が続いて立ち上がり、それぞれ空砲で使い方の復習を始めた。




健人達が鍛錬を始めたその頃──。

私──新井真由美を含めたグループの4人で今後について話し合っていた。

「それで、今後どうするかだけど、私は町田達とどうにかして奏汰の考えを見抜くかしないと、この先安全に行動出来ない。」

それに秋人が首を傾げた。

「考えって、平穏な生活を望んでいるんじゃないのか?だったら、安全には行動ができるんじゃないのか?」

それに瑠奈が首を横に振って否定した。

「さっきも健人が言ってたけど、奏汰は何か裏があるかもしれない。例えば、安全だって油断して出歩いてる時に奏汰側が味方を撃ってその濡れ衣を出歩いてた私達に着せたらどうなると思う?」

「……死ぬな。」

この時、私は瑠奈の例えを言う時の声がほんの微かに震えているのが分かった。彩と秋人は特に気に留めているようではなかったが、私には気になって仕方がなかった。何故なら、例えが細かすぎるからだ。いくら裏があるかもってヒントだけでここまでの具体例が出るだろうか。しかも、健人から聞いたのは20分前ぐらいだ。それなのに、意見もまとまりすぎている気がする。そして、声が微かに震えている。気のせいとも思えるが、なにか引っかかる。

「とにかく、安全により近いようにしないといけない。その為には奏汰は危険だと思う。和解するならまだしも、対立してるしね。」

それに彩が頷いた。

「確かに。今から和解は難しいよね。」

「そ。だから罠にいつかかるかも分からずに歩く、みたいなも状況が続くのは避けたい。」

瑠奈が意見を言うと、私は確認するように見回した。

「でもさ、坂田達は町田が何とかしてくれるんでしょ?それだったらそれまで待てばいいんじゃないかな?」

それに私以外の3人が頷いた。そして、瑠奈が意見をまとめた。

「じゃあこれからは、健人が奏汰達を倒すまで派手な行動は避けよう。あと、高田達も忘れちゃダメだからね。どんな手段で来るか分からない。だから、今後の目標は──生きる。これに尽きるよ。」

それに4人揃って頷いた。生きる。この言葉がこれほどまで重たくもあり、大切に感じるようになったのはこのゲームに参加してからだ。

(人間って、こんな危機的状況に陥らないと命の重みって分からないんだなぁ。人間ってなんか、惨めだし、馬鹿だなぁ。)

私が考えを巡らせ終わったその頃にはもう、日は傾き、夕焼けの蜜柑色が空を支配していた。

皆が目標を噛み締めている時に、突然瑠奈が提案した。

「そろそろさ、ご飯とかの準備しない?お腹減ってきたし。」

言われてから瑠奈も含めて4人のお腹がぐぅー、と鳴って、それに皆が苦笑した。それを合図にするかのように4人それぞれがおもむろに立ち上がって食事の準備を始めた。料理が上手い彩と瑠奈で支給される簡素な料理に手を加えたりして、私と秋人で皿やそれらを並べた。

揃って、いただきます、と言って、それぞれ自分のご飯を食べた。

ご飯の後は風呂に入り、風呂の後はやはり皆疲れていたのか、すぐ眠った。私も、しばらくウトウトとした後、まぶたが重くなってきて、眠り始めていた。




真由美達がまだ今後について話し合っていた頃──。

高田達は鍛錬に励んでいた。

「それにしても本当に撃ちやすいな、これ。」

そう言い、撃つ練習をしているのは貴明だ。

「それでもまだ狙い通りには飛ばないけどね。」

隣で撃つ森田が自嘲するように言った。

その中、俺は日本刀、圭は両刃剣を気を相手に振っている。

「圭、少しは触れるようになってきたんじゃないか?」

「翔太もな。ただ、振り方は無茶苦茶だけどな。」

2人で苦笑し、その後再び練習に戻った。

そのように、練習の合間に少し言葉を交わしては練習、というようなことを昨日、今日と繰り返していた。

(そろそろ面倒くさくなってきたな。俺の命令1つで切り上げれるけど、どうするか。)

3人を見回すと集中して練習していた。

(それにしてもこいつら、馬鹿正直に練習してるな。もしもの時、俺の盾になってくれればいいんだがな。)

ニヤリと、自然と怪しい笑みを浮かべてしまう。その笑みを慌てて消し、日を見ると、少し傾きかけているところだった。

(ちっ。まだ終われないな。こんな状況下だ。下手なことして信用失ったら終わりだ。できる限りは練習させないとな。)

そのように考え、俺は練習に戻った。


日がかなり西に傾き、空が蜜柑色に染まってきた頃、俺達は練習を終えてコテージで休んでいた。

「皆、武器は使えるようになってきたか?」

俺が尋ねると、他の3人は、なんとか、と返事をした。

俺も、そうか、と返した。皆が疲れているからか、誰一人として話さなかった。

(それにしても、森田の不安はいつになっても消えねぇな。貴明とか圭はなんとか前向きになってくれたが、森田だけが前を向かねぇ。本っ当に邪魔くせぇな。慰めても、気休めにしかならねぇだろうな。)

俺がそう考えていると、森田が小さな声で言った。

「もし、さ。もしだよ?私達の誰かが死んじゃったら、どうするの?」

それを聞いて、俺は思わず呆れそうになってしまった。

(こいつは周りを見てるのか、自分が可愛いのか分かんねぇ。ムカつく。)

貴明も圭も話さないから、俺が話そうと思い、口を開いた。

「まず、厳しいことを言うかもしれんが、死んだって特別扱いをしない。そのままほっとく。」

それに3人の顔に困惑の色が浮かんだ。それを見て、補足した。

「ただ、そんなことはさせない。俺が身を挺して守ってやるよ。」

まぁ、そんなことは建前だがな。

「翔太……!」

「流石翔太だな!」

「ほんとだよ!」

3人が口々に俺を褒めた。本当に、人間って上部しか見ないな。こんなんだから信用なんて出来るわけねぇ。

「まぁ、そういうことだから。それにそもそも死なせない。」

3人の顔に希望の色が浮かんだ。全く、コロコロと表情変えやがって。

「だから、今日はもう休もう。体調不良で動けなかったりしたら、それこそ一大事だ。さて、飯食って寝るぞ。」

それに3人が頷き、各自準備をした。そして、飯を食い、風呂に入り、寝た。皆疲れていたからか、ベッドに入ると1分も経たないうちに4人の寝息がコテージに響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ