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普通戦争  作者: みるくるみ
7/9

第7話 信用とは、簡単には得られないもの

私──新井真由美はコテージにあるベッドで目を覚ました。今までのことが夢であることを期待したが、決してそんなことはなく全てが現実だった。コテージ、私の隣で寝ている瑠奈、私達の反対側で寝ている彩と秋人、そして──ベッドサイドに置いたハンドガン。今までの現実とは一変した非現実だった。

私は身を起こし、荷物の中に詰めていた本を取り出して読書を始めた。

読書は良い。現実から目を背けられる。汚れきっているこの現実から。まだ太陽が登り始めたばかりで半分しか見えていなかった。そのため、皆が起きるまでゆっくりと読書ができた。

1時間程読書をしていると、隣の瑠奈がもぞもぞと動いた後に体を起こし、目をさすっていた。

「おはよう、真由美。朝早いんだね。」

まだ寝ぼけまなこの瑠奈に向かって穏やかな笑みを浮かべて言った。

「おはよう。朝に本を読む時間が欲しくてね。そうやって早起きしてたらだいぶ早起きになったんだ。」

そう言い、私は本を閉じて鞄に閉まった。昨日の夜から充電していたスマホを見ると、『7月10日金曜日8:00』と表示されていた。それを見た後、スマホの電源を落として、やっと目を覚ましてきた瑠奈に言った。

「ね、なにか変化があるなら土日だって思わない?」

私が真剣に話していると分かったのか、瑠奈も真剣な声音で言った。

「そうだね。何も無いのが一番だけれど、そうはいかないだろうね。」

2人揃って溜息をはくと、彩と秋人が起きてくるところだった。

「おはよう、リア充。昨日は風呂掃除どうもありがとうねー。お陰で綺麗な風呂に入れたよ。」

まだ寝ぼけて半眼だった2人に掘り返すように瑠奈が笑顔でお礼とも罵りとも取れることを言った。

2人は完全に目が覚めたようで、耳まで真っ赤になっていた。その中秋人が反論した。

「昨日は悪かった!だからもう掘り下げないでくれよ。…心が持たない。」

秋人がそう言うとけらけらと瑠奈が笑って言った。

「分かった。でもこれからは先に風呂に入れてね?」

「はいはい。」

半ば諦めたように秋人が言って別室で着替えを始めた。

「私達も着替えよっか。」

瑠奈が言ったことを私と彩は肯定し、秋人が別室から出てこないように時折からかいつつ着替えを済ませた。ただ、着替えといってもこのコテージに入れられていたジャージに着替えるだけだった。これを着ないと、処分の対象になるらしい。監視下であることを主張したいのだろうか。そうだとするならばこの組織の上層部は少し面倒くさいと思った。

今日も昨日と同じように鍛錬をした。しかし、ハンドガンに関しては実弾を少し使って練習をした。しかし、あまりにも反動などがないお陰で、感覚は空砲とそこまで変わらなかった。

彩と秋人はというと靴で剣を振るのも慣れてきたらしく、特に彩は段違いに上手になっていて、最後には秋人を圧倒するほどだった。

これなら殺し合いのイベントがあってもなんとかなりそうだ、と思った。




真由美達が2日目の鍛錬に励んでいた頃──。

町田健人のグループは考えを巡らせていた。

「どうするのが最善だと思う?」

俺──町田健人がそう言うと、皆が唸り考えていた。その中、思いついた、というように明日香が提案をした。

「私達4人でやろうと考えないでさ、他のグループにも手伝ってもらえばいいんじゃないかな。例えば瑠奈のグループとかに。」

それを聞き、なるほどというように鷹斗と俺は頷いた。だが、浩史が少し否定するように言った。

「だけどさ、もし向こうが決裂して攻撃してくればどうするんだ?そうなれば一貫の終わりだぞ?」

その言葉に明日香は溜息をはき、言った。

「攻撃はされない。奏汰が後ろにいる限り殺されはしない。信用してくれたならそれでいいし、もし信用されなくても罠だと探るぐらいの躊躇はあると思う。だから大丈夫だ。」

そう説明されても、まだ浩史は不安そうだった。

「俺1人で行く。そうすれば安心だろ?」

俺は浩史を庇うように言った。そう言うと、明日香は慌てて言った。

「何言ってるんだよ!私達は健人を信じられるからついて行くって思ったのに、その健人がいなかったら何も出来ないよ!」

早口で怒る明日香に向かって俺は真剣な声音で言った。

「大丈夫だ。俺は死なない。というか殺されない。だって、奏汰達のところにはハンドガンを扱えるやつはいないし、高田達や瑠奈達は俺を殺すと奏汰に狙われる。だから殺されない。安心しろ。」

俺がそう説明しても、3人とも不安そうだった。それを見て、説明に補足した。

「たとえ1人が危険でも4人で行って全滅した方が損害が大きい。だから──1人で行く。」

決意固く言うと、説得を諦めたのか3人はため息をはき、代表するように鷹斗が言った。

「分かった。ただ、本当に死ぬなよ。死んだら恨むからな。」

それに俺は苦笑して答えた。

「了解。じゃ、早速行ってくる。」

そう言い、俺はコテージを出て最初に瑠奈のグループが向かった方向を元に歩いた。一応、腰には昨日撃ち方を覚えたハンドガンを下げている。

この山は傾斜が緩いがそこそこ広く、瑠奈達がいると思しきコテージが見えるまで1時間かかった。

話し声が聞こえたため近づいてみると、ガサッと音がして振り返ろうとした瞬間、視界が真っ暗になり首に薄い金属──刃物が当てられていた。




私──新井真由美が瑠奈と鍛錬をしていると、ガサッという音がした。何事かと思うと秋人が男子生徒の目を手で覆い、日本刀を首筋に当てて捕まえていた。

「その男子、どうしたの?」

私が聞くと、秋人は警戒心を強めたまま言った。

「ここに近づいていたからとりあえず捕まえた。ハンドガンも持ってるし、一応な。」

秋人がそう説明していると、彩があっ、と言い口を挟んだ。

「もしかして、町田君じゃない?ほら、学級委員の。」

そう言われよく見ると、確かに学級委員の町田健人で、よく見ると小刻みに震えていた。それを見て私はひとつ提案した。

「町田は怒ってるわけでも無さそうだし、ハンドガンだけ奪って話を聞いてみない。」

その提案に3人が頷き、秋人がハンドガンを奪って拘束を解いた。拘束を解くと、町田は少し震えている声で説明を始めた。

「急に来てすまなかった。だが、ちゃんと理由があるんだ。」

やっと落ち着いてきたのか、深呼吸して再び話し始めた。

「実は、奏汰に反抗しようとしているんだ。だが、奏汰のグループから抜けるには俺達だけじゃ厳しい。だから、手伝って欲しいんだ。」

それに瑠奈が即答した。

「嫌だよ。だって、罠かもしれないじゃん。」

それを聞いて、町田は想定済みというような表情をして私達に提案した。

「いきなり信用してもらおうなんて思ってないさ。だから提案だ。この先、殺し合いが避けてはいけないはず。それぐらいは大体感じてるんじゃないのか?」

その言葉に私達は頷いた。

「だから、その時が訪れたら──俺達で奏汰達中心人物を殺す。それか行動不能程度に追い込む。実際、あのグループは奏汰以外にまともに武器を使えるやつはいない。まぁ、奏汰が使えることも予想なんだが。とまぁそんな提案を飲んでくれないだろうか。」

この提案は良いものだと思う。奏汰を行動不能にしてその取巻きを倒すことで奏汰達のグループを壊滅させることが出来るだろう。それに加えて、町田のグループを仲間にすることが出来る。ただ1つ懸念点がある。そう考えていると、その懸念点を秋人が言った。

「でもよ、そうやって仲間を平気で殺すとか言うやつは信用出来ないな。いつ俺達が殺されてもおかしくないって言ってるようなものだ。」

そう言われ健人は、しまった、というような顔をした。

「そういう訳では無いんだ。あいつは昔から悪知恵が働くやつなんだ。俺も昔騙されたことがある。だから、あいつの下にいるのは危険だと思ったんだ。だから、お願いだ。属するのでもなんでもいい。俺は、同じグループのメンバーを死なせたくないだけなんだ。」

土下座をしてまで頼む町田に皆は困惑した。

「少し、相談してもいい?」

瑠奈がそう言うと町田は頷いた。

俺達は町田から距離を取り、話し合った。

「どうするの?」

私がそう聞くと、瑠奈が困ったように言った。

「どうって言ってもね…秋人の言い分も最もだしね。かといって断るのもね。もしもの時に仲間が増えるっていうのはありがたいし。」

皆が唸り、考え込んだ。

しばらく考えた後、瑠奈が提案した。

「とりあえず、今は決められないから様子見でいいんじゃない?本当に反抗するなら手伝う、反抗しないなら敵、みたいな感じでさ。」

それに私を含めた3人が肯定した。

「よし、ならそれを早速伝えようか。」

そして、町田にその事を伝えると、分かった、と頷いて言った。

「なら、それをグループに伝えておくよ。そして、信用を得られるように努力する。じゃあ、ハンドガンを返してくれ。」

そう言われ、秋人はハンドガンを返した。当然、返す時、そして町田が見えなくなるまで私と瑠奈でハンドガンを向け続けた。

町田がいなくなると、ハンドガンを下ろした。その後、瑠奈がふぅ、と息をつき言った。

「なんか今日は疲れたね。コテージで休もうか。」

それに皆が頷き、その日は食事と風呂を済ませ、早めに就寝した。

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