第5話 状況とは、常に自分たちが合わせていくもの
これは私のミスだ。グループを追い出されなかっただけマシだろう。なにせ、私があんなことを提案しなければこんなことにはならなかったのだから。まさかあそこでグループになるなんて。いったい、いつの間に。でも、それなら全てのことに合点がいく。なんで分からなかったんだ。なんで気づかなかったんだ。
「しょうがないよ。考えた結果なんだからさ。それに、あれは誰にも予想出来なかったよ。これからは、とりあえず戦いは起こらないしまた考えよ?」
私の横で瑠奈はそう言った。
そう、あれは開始の合図と同時のことだった。
私の考えていた最悪のシナリオはそのまま私の目の前で繰り広げられた。
私達と高田達以外のグループがサッと集まった。そして首謀者らしい、坂田奏汰が強気な口調で言った。
「これからこの3グループは協力関係にある!そして、我々は平穏な生活を望んでいる!戦いなどはしたくない!ただし、それは無駄な戦いをという意味だ。俺だって持ったばっかの日本刀で暴れるような馬鹿じゃない。多少は慣らす期間が欲しいからな。それに、俺はグループである仲間を死なせるなんてことはしたくない。だから、平穏な生活を望む!以上だ。お前らの加入は認めない。最初から自衛目的で戦力をかき集めるようなやつを信用できるか。と、そういう訳だ。この3グループのどれかを攻めたら3グループで対抗する。我々は忠告したからな?じゃあな。」
そういって坂田奏汰を筆頭にそれぞれのコテージへ向かっていった。私達や高田達は呆然として坂田奏汰達の後ろ姿を眺めていた。
「はぁ。まさかあいつらが組むとはな。しかも平穏な生活、か。それが望めれば俺もそれでいいんだがな。」
ため息混じりに秋人が言った。
「それは皆同じだよ。でも、奏汰の言う通り私達は戦力が大きすぎた。信用されなくて当然だよ。」
彩もまたため息混じりに言った。
その中で私は1人、納得していた。皆がなぜすぐ慣れていたように見えたのか。それは、坂田奏汰にさっきと同じことを言われて安心したのだろう。平穏に暮らせるという可能性を見出して。
こうなれば、私達が動くことは出来ない。でも、食料品は支給されるから暮らしては行けるだろう。
ただ、私はこのままでは終わらない気がする。さっきは最悪のシナリオだと思ったが、このシナリオを池田たちの組織が先に考えていたとしたら?
なにかある。そう思い始めていた。
「もう、私達も平穏に暮らそうか。」
諦めるように彩が言った。
私がいつ来るかわからないから武器には慣れよう、そう言おうとしたが躊躇っていた。なぜならさっきの失態があるからだ。しかし、私の考えと同じことを、以外にも瑠奈が言った。
「でもこの暮らしがいつまで続くか分からないよ。相手は奪い合いって言ってるけど結局は殺し合いでしょ?そんな殺し合いを誘導するようなグループがこんな抜け穴を用意するはずがないよ。」
「それは少し理解できるよ。でもさ、平和に暮らせる可能性があるんだよ?俺だって無駄に剣は振りたくないし。そもそも剣道は人を切るものじゃないと思ってる。無駄に戦うのは嫌だね。」
秋人がそう反論すると、瑠奈は落ち着いた声音で、
「無駄じゃない。そもそも私が言っているのは自発的に戦うんじゃない。誘導されて戦わされる可能性があるってことだよ。そうなった時私達はあっけなく殺されるの?そんなのは嫌だ。確かに平穏な生活はいいと思う。出来ればそれがいい。でも今回の奏汰達の予想外の行動でも分かったでしょ?もしもはある。しかもそのもしもは命を左右する可能性だってある。最悪の事態に備えたい。それだけだよ。」
そう言った。それはあまりにも正論で秋人も正しいと思わざるを得ないぐらいだった。
「………分かったよ。したくはないけど、要するに何かある可能性のために鍛錬しろってことだろ?………人を殺すための。」
その言葉に彩がビクッと震えた。しかし、その後少し納得したような表情を浮かべた。彩も薄々は感じていたらしい。
「私はするよ。ハンドガンの使い方にも慣れたいし。……誰だって自分の命って大事だもの。」
私もそう言って賛同の意を示した。
「彩は?どうする?」
瑠奈は心配するように聞いた。
「やりたくない。………けど、やるよ。仕方ないんでしょ?殺すためって考えるとかなり重いけど。自衛程度にはしておくよ。……惨めかもしれないけど、私も自分の命が惜しいもん。」
なんか遠回しに、というかほぼストレートに私も惨めになってるな。まぁ前から認めてた事だけど。
「よし、じゃあ私と真由美、彩と秋人に分かれて武器の扱いの練習をしよう。このコテージは傷つけたくないし、他の人に襲われるのも嫌だからコテージの前で練習をしよう。丁度この辺りは少し開けてるし、敵が来たら分かるでしょ?あと、安全対策でペアで交代で見張りもしよう。その方が安全だし。」
瑠奈の提案に対して異論は無かった。
しかし、私は少し疑問に思っていた。なんで瑠奈はこんなにも冷静なのか。そりゃ、彩と秋人も冷静だけど、それとはまた違う冷静さ。落ち着いてるっていうよりかは場慣れしている、という方が近い。でもそんなことは無いはずだ。池田は初めてと言っていた。だから──。
いや、まてよ。嘘だって可能性もある。でもこんなゲームというか殺し合いが行われたなんてニュースは聞いたことがない。あ、そうだ。あいつらは警察も封じるほどのやつらだ。情報を隠蔽するなど簡単だろう。でもどうやって。親から通報がはいったりするはず………まさか、そういうことか。推論にはすぎないが当てにはできるだろう。親はもう存在していない。だから前回のこのゲーム、普通戦争が流出していない。
いや、しかしこれはあくまで推論。とらわれてはいけない。とりあえず片隅に置いておこう。でも、だとしたら彼らの目的は?
「おーい。真由美?おーい。」
瑠奈に呼ばれてハッとした。やっと呼びかけに応じたというような顔をして瑠奈が言った。
「やっと、戻ってきた。何か考えてたの?それともさっきの気にしてる?それならしょうがないよ。」
「ありがとう、瑠奈。でも大丈夫だよ。この状況を飲み込もうとしてただけだから。」
私がそう言うと瑠奈は納得したように、
「そっか。ならいいんだけど。それで、早速練習をしようってなったんだけど真由美、先か後かどっちがいい?」
言ってから、聞いてきた。
「どっちでもいいよ。瑠奈や彩、秋人で決めてもらっていいよ。」
「そっか。なら、さっき聞いてたんだけど、彩達は先がいいって。私もそれでいいと思ったんだけど、それでいい?」
「いいよ。」
「なら見張りしようか。」
と、いうと瑠奈は立ち上がって私の手を取って立たせたあと、先に出ていった。
私も、
「彩、秋人、見張ってるから頑張ってね。」
と、普段なら言わないような応援をしてから瑠奈を追った。