第3話 人間とは、それぞれ思惑があるもの
朝4時。学校の校庭には30人ぐらい乗れそうなバスが止まっていた。このクラスは30人──いや、昨日太一が死んだから29人か。全員が乗れるようだった。そして、校庭には2年A組の生徒が20人集まっていた。ほかの9人はバスに乗りこんでも出発するときになっても、来なかった。殺されたのだろう。
バスが出発してから、池田が思い出したように言った。
「さて、ここにいる皆さんは既に普通戦争参加済みですので、今から参加拒否することは出来ません。ご了承ください。あと昨日、申し上げ忘れたのですが、この普通戦争の勝利条件ですが。」
勝利という言葉を聞き、バス内が少しざわついた。
「生き残ってください。」
「要するに殺しあえってことですか。」
私がそう質問するとバス内のざわめきが少し大きくなった。
「いえ、昨日申し上げましたがあくまでも奪い合いですから。」
池田は表情を崩さず答えた。
「そうですか。」
答えを聞いて私は座り直した。
そのとき、隣の早瀬瑠奈が少し震える声で聞いてきた。
「ね、ねぇ、真由美。私のこと襲ったりしないよね?」
安全確認か。まぁ瑠奈ならやりそうだとは思ってたが。
「そんなことしないよ。友達でしょ?」
その答えを聞くと、瑠奈は見るからに安心したあとに、にやっと笑った──気がした。
「な、ならさ。一緒に行動しない?1人じゃ怖くて。」
まぁ後ろから殺られないように気を付けていればいいか。少しでも利用できる仲間がいるのは、悪くない。
「いいよ。絶対生き残ろうね。」
ふふっ。いずれ、どちらかは死ぬけどね。
まぁ安心させるにはこれで充分だろう。
「うん。そうだね。生き残ろう。」
安心したようにそう言った。
存分に利用させてもらおう。例え、瑠奈が殺されたとしても。
人間ってみんな馬鹿ばっかりだ。言葉1つでなんでも信用する。私の隣にいる、真由美だってそうだ。友達、とか言ってたな。ふふっ。そんな上辺の関係を信じているのだろうか。それなら、その関係を信じている真由美を存分に利用してやろう。
一緒に生き残ろうってのも無理なのに。真由美は本当に馬鹿だな。私の生きるための道具になってもらおう。この馬鹿の利用価値があれば別だが。
しかも完全に表の私を信じてるみたいだし。都合がいい。
他にも道具を増やしておこう。このクラスでの高田や森田の仲間は半分くらいだ。残り半分を私が貰えば十分に対抗出来る。高田や森田と組むのはできない。あんな不良を信じれるわけがない。絶対ねじ伏せてやる。このクラスのカーストトップは私だ。私にかなうクラスメートなどいない。
絶対勝つ。生き残る。例え殺したとしても。
ちっ。なんでこうなっちまったんだ。大宮の野郎ふざけやがって。とんでもないもん残してくれたよ。主犯が俺と森田だから言い逃れもできねぇ。
くそったれ!なんだよゲームとか。絶対生き残ってやる。こっちには森田もいるしな。クラスの半分を引き込めるだろう。しかし、不安なのは早瀬だ。あいつは、俺達を嫌っているうえ、クラスに対して人望がある。あいつと俺の2チームの戦争になるだろう。絶対勝つ。
「ね、ねぇ翔太。私と行動してくれる?」
隣にいる森田が聞いてきた。一応、こいつとは恋人ということになっている。
「おう。当たり前だ。彼女を守らなかったら彼氏と言えないだろ。」
この際この関係も利用させてもらおう。
「ありがとう翔太!大好きだよ。」
ちっ。事あるごとに大好きとか言いやがって。信用性に欠けるんだよ。バカが。ふっ。だが、こいつは最後まで裏切らなさそうだ。そうと分かれば利用する方法を考えよう。
バスの窓は黒いカーテンで覆われていて、外の様子が見えない。ただ、かなりがたついた道を走っているので、ゲーム会場は山かなと私は思っていた。
隣にいる瑠奈はなにやら考えごとをしている。私をどう利用しようとか考えてるのだろうか。まぁ考えていたところで、私には関係ないのだけれど。
私に重要なことは他にある。それは、瑠奈に裏がある場合、完全に表の瑠奈を信じていると瑠奈に思わせることだ。そうすることで、瑠奈を存分に利用できる。さらに、建前でも仲間ができる。最高だ。瑠奈と友達とかいう上辺の関係でいただけで、こうも上手く物事が進むとは。こんなに嬉しいことはない。初めて、瑠奈と友達になって良かったと思った。まぁ、たった今から瑠奈との関係は利用する側される側なのだけれど。
ふふっ。そんなことを考えていると思わず笑ってしまう。気をつけないと。
そうやって考えていると、どうやら会場に到着したようだった。やはり、想像した通り会場は山だった。
背の高い針葉樹で周りを囲まれていた。
「では、1人1つずつ地図を配ります。この山の地図です。ちなみに、この山から脱出しようと、山を降り、そこに1分以上いるか、下にある町に向かおうとした瞬間処分致します。」
皆は地図を受け取ったあと、池田の説明を静かに聞いていた。
「そして、奪い合うのに素手で四肢切断を行うなどは無理じゃないかと思った人はいると思います。その通り、素手では行わなくて結構です。なので、武器を配ります。正確には、3種類ある中から選んでいただきます。その3種類というのがこちらです。」
池田が示した方には、ワゴンが運ばれていた。
そのワゴンには、右から、警察官が持っているような拳銃と小型のナイフのセットと、日本刀と、大きさは日本刀ぐらいだけれど刃が日本刀のように片方だけではなく、両方についた剣のようなものだった。
「この武器は、私達が開発した武器で骨でも簡単に切断することが出来ます。なので、力がない女子達でも簡単に四肢切断を行えると思います。右から、ハンドガンとナイフ、日本刀、両刃剣となっています。ハンドガンは女子達でも撃てるように反動を軽減してありますので簡単に撃てると思います。両刃剣は日本刀に似ていますが、日本刀と違い、両方に刃がついています。そして、日本刀の2倍ぐらいの重量がありますので、振り回すにはかなりの筋力がいると思います。」
池田は淡々と説明したあと、付け加えるように言った。
「あと、どの武器に関しても言えることなのですが手を痛めてしまう可能性があるので、グローブを配ります。着けるかどうかは自由です。」
配られたグローブというのが、指がむき出しになった様なグローブだった。ハンドガンを撃ちやすいようにしているのだろう。
「では、とりあえず武器を選んでください。この山の説明はその後にさせていただきます。」
佐々木彩以外の女子8人と、男子7人がハンドガンとナイフだったが、剣道部であった佐々木彩と武田秋人や、中二病である坂田奏汰は日本刀を選んでいた。
佐々木彩と武田秋人は真剣に日本刀を持って軽く素振りをしていたが、坂田奏汰だけは目を輝かせていた。こいつ、こんな状況でも馬鹿なのか。
高田やラグビー部であった伊藤圭だけが両刃剣を選んでいた。腕っ節に自信があるらしい。
坂田奏汰を除いた皆が真剣な表情で池田の言葉を待っていた。
「では、皆さんが武器を選んだようなので、この山の説明に入らせていただきます。この山には5件のコテージがあります。そこには救急箱やベット、食料など生活に必要なものが4人分あります。救急箱や食料は1週間に1回、各コテージに同じものを運びます。察しのいい方はもう分かったかも知れませんが、今から4人ずつグループをつくってもらいます。そして、それぞれのグループリーダーにコテージ番号とそのコテージの鍵を渡させてもらいます。コテージ番号は地図に載っていますので確認してください。是非、信用できるリーダーを選んでくださいね。ちなみに、食料がないから他のグループのコテージに侵入する、などは処分の対象となりますので気をつけてください。」
池田は、皆を確認するように見回した後、言った。
「では、5つのグループをつくってください。」