第2話 悪事とは、いつか自分に返ってくるもの
「では、ルールを説明させていただきます。」
池田が周りを見回すようにして、説明を始める。
「先程も少し申し上げましたが、あなた達は犯罪者です。なぜそう言われるのかは分かりますよね?」
池田がそう言うとクラスのほとんどが俯いた。皆大宮春のいじめが原因だと分かっているのだろう。
「僕はいじめには加担していないぞ!殴ったり蹴ったりはしていない!」
そういったのは、クラスの中で成績上位者の方にいる安藤太一だ。痩せた体のせいもあるが、反論する太一の姿はとても滑稽だった。
「えー、皆さんはこのような考えをご存知でしょうか。傍観者を自負している人、つまり第3者もいじめに加担しているという考えです。ですので、例えば安藤くんのように直接いじめていなくても、このゲームの場合加害者扱いになります。」
「そ、そんな……。ぼ、僕は、参加しないぞ!帰らしてもらう!どうせ死ぬとかも脅しなんだろ?出来るんならやってみろよ!」
「では、参加しないということでいいのですね?」
「そうだよ!」
太一は痩せた体からは想像できないほどの力強い声で言った。
「そうですか、残念です。では、どうぞこの世からご退場ください。」
そう言った瞬間池田はスーツの内ポケットから、拳銃を抜くと同時にセーフティを外し、撃った。
バァン!という轟音がしたかと思うと帰ろうとしていた太一が吹っ飛び頭から血が吹き出した。
太一は教室の地面を転がったあと、動かなくなった。
しん、と教室は静まり返った。そして、少ししてから皆が目の前の光景を理解し悲鳴をあげた。また、嘔吐する生徒もいた。泣き出す生徒もいた。
騒動が収まる頃には、教室は血の匂いに支配されていた。
「さて、これであなた達が置かれている状況が理解出来たと思います。なので、改めてルール説明をさせていただきます。」
クラスの皆は既に池田に怯え、太一のような反論はしなかった。
「まず、最初に申し上げておきますが、安藤くんの死体はこちらで回収させていただきますのでご安心ください。」
この言葉で何人かが思い出したように嘔吐しかけていた。
「そして、ルールですがとても簡単です。皆さんで普通を奪い合っていただきます。」
「どのように奪い合うのですか?」
私はふと疑問に思い、質問した。
「えー、皆さんには今まで習慣のように行ってきた日常の中の普通があると思います。読書、ゲームなどです。このクラスだといじめ、という人が多いですかね。」
もう皆は反応さえしなかった。現実を理解しきれていないようだった。
「では、いじめが普通の人を例にしていきます。この場合は四肢を切断したり、手足を縛ったりに加え口を塞いだりしていじめを行えないようにします。読書やゲームの場合も四肢切断などで行えないようにします。そして、その状態を打破できず、24時間いじめを行えなかった場合に、普通を奪われた状態となります。そのような状態となったら、私や、私の仲間が1分以内に処分しに行きます。ちなみに、普通を奪った人には免罪符が渡され、自分の普通をなくしてしまい、処分の時間が来たときに1度だけ処分を回避することが出来ます。しかし、回避したあとも自分の普通を取り戻さない限りは24時間ごとに処分があります。免罪符を集め続けることは難しいので、取り戻すことをお勧めします。まぁ、四肢切断とかだったら取り戻すことは出来ないんですけどね。」
「免罪符は受け渡しが出来ますか?」
私はこのゲームの全容を把握しようと質問した。
「はい、可能ですよ。ちなみに、自分の普通を受け渡すことも出来ます。ただし、普通を行うことができるという状況下でのみです。」
「おい、もう1つ質問いいか?」
こう言ったのは高田翔太だ。最初こそ震えていたが、徐々に落ち着きを取り戻している。
「はい。なんですか?」
「その普通戦争とやらはこの学校でするのか?それだと、他の生徒を巻き込むぞ?」
友達のことを想って聞いたのだろう。そのくせ、いじめをするのだから思わず可笑しくて笑いそうになった。
「もちろん、この学校では開催しません。明日の朝
4時に学校に集合してください。そこから、ゲームを行う場所へ案内いたします。寝坊した場合、命はないと思ってください。あと、親御さんにこのゲームのことを話したり、暗号的に伝えようとした場合は、私の仲間が家族諸共処分致しますのでご注意ください。」
「そんなことしたら警察が来るんじゃないですか?」
町田健人が睨むように池田を見ながら質問した。
「心配には及びません。警察は動きませんから。」
池田の言葉に皆が困惑していた。
「私の組織は警察のお偉い方にも通じていてこの件は極秘とされていますので。ようするに、警察はこっち側にいるということです。」
もう、皆ため息すらでなかった。ただただ、池田の言葉を聞くだけだった。
「では、なにか質問はありませんか?」
誰も何も言わなかった。質問する気など起こらなかったのだ。
「なら、質問は無しということで今日のところは帰らせていただきます。明日、また会えることを楽しみにしています。では、失礼します。」
池田は終始にこやかな顔で説明した後、教室を出ていった。
静けさが教室を支配していた。
その静けさは、担任が教室の扉を開けて入ってきたことによって破られた。
担任が教卓に手をつき、事情を知っているのか知らないのか、哀れむような顔で、
「今日は家に帰って休め。学校の方針だ。」
と言った。
帰るために外に出ると、空は鉛色の雲に覆われていて今にも雨が降り出しそうだった。
その日は、皆が何かを考え込むようにしてそれぞれ帰って行った。明日のゲームのことを考えているのかもしれない。もしかしたら、自殺のことを考えているかもしれない。私は、明日は何人集まるだろう、ということを考えながら家へ帰った。