孫とは可愛いものだ
「こーんにーちわ!なんか母さんが訳わかんないこと言ってるんだけど、体調はどうですか?」
元気に、少しあちらの、アンと名乗った、娘っ子とくらべるとふくよかな体を揺らしながら来てくれたのは
ナースさんになりたての自慢の孫だ。
クリクリと大きい目にニコニコと愛嬌のある顔立ちで、慣れたように血圧計であれやこれやと体調を聞いてくれるとつられて一緒にニコニコしてしまう。
「んー?いつも通りだねー。母さんがなんか消える、とか言ってたけど…」
はて?と、首を傾げて見せたのだが、たしかにそれだけではわからないだろう。
「あれ、そういえば和子はどうした?」
「あー、なんか車で寝てたから起こしたんだけど、訳わかんないこと言ってたからまた寝かせた。」
それはまた…
まぁ少し寝させてやると、良いだろう。
なんだかんだ親思いだから多分1人で考え込んで、不安でもあったのだろう。
簡単に紀ちゃんに、事を説明すると、
最初は茶化し半分で聞いていたが、途中からやけに真剣に考えてニコニコしている顔を珍しく真顔に戻しながら考え込む。
「異世界…ファンタジー?…いや、転移?召喚ではないし、いや、それにしたって…老人2人って夢がない…、そんな異世界物読みたくない…え、まぢで…まぢかぁ…」
何やらブツブツ、呟きながらも、少しばかり失礼なことも言われている気もする。
「あー、うん。なんかなんとなく分かったけど、じいちゃんたちトラックとかに轢かれてないよね?死んでないよね?」
なんたることだ!
可愛い孫娘にお前は幽霊か、と聞かれるなんて
「そんな記憶無いわ!」
否定の言葉が強くなるのも仕方ないだろう。
少し衝撃だった。
「ですよねー…、まぢかぁ。転生じゃなくて転移…しかも行き来自由、聞いた話では登場人物垢抜けない娘一人…転移したのはジジババって…異世界夢がない…」
「ん?紀ちゃん?どうしたの?」
何やら思いあたることがあるようだが、まさに絶望した!というのを体で体現するように、がっくりと落ち込み出した。
垢抜けなくてもアンちゃんは可愛いぞ!と、思いながらまじかぁ、まじから夢がないなどとブツブツ繰り返している、と、パッと顔をあげて心が決まったように
言い難いものを言う決心をしたように
真剣に言葉を吐き出した。
「いや、ジジババ、落ち着いて聞いてね。それ異世界だわ。」
「異世界ってなんだ?」
「いや、そこからかぁ…」
また落ち込んだ紀ちゃんは
しばらく、そうだよね、流行りとか分かんないよね、しかもじーじとばーばだし……と一人脳内会議をして、なるべく
分かりやすいように、噛み砕いて説明してくれる。
「つまり、何故か、寝ると異なる世界にとばされている、と?」
「うん…ソウダネ。」
物分りが悪いものに根気よく、だいぶ噛み砕いたであろう説明は簡潔に終わった。
ラノベやら、異世界てんいについてやら、勇者が飛ばされるのはどうのこうの、最近では勇者は拉致じゃないのか?などと言われているとか色々なことを説明してくれたが
要は死んであちらに生まれた訳でもなく
飛ばされて帰ってこれないということも無く
勇者でもなければ
これをしろ!と言われたわけでもないから、召喚されたわけでもない。
いつもなら笑って冗談、という所だろうが、なんせことが起きてるのは自分自身。
妙に残る疲労も、遅れてくる筋肉痛も、なくなったポケットの中身もそれでしっくりくる。
「でも、寝てる間に飛ばされるなら睡眠はどうなってるんだろう、大丈夫?どこか変わったところとかない?」
「いや、特になんとも…」
確かに寝ると飛ばされるなら、睡眠時間が無いことになる。
当たり前だが人間は寝ないと死ぬ。紀ちゃん曰く異なる世界でも人間はもちろん生きるもの全て眠りにはつくだろうが、ここ何日かはもし異なる世界とやらに行っているとしたら全く眠ってない。
しかし、特にクマができていることもなく
残るのは疲労感だけだ。
「でも、もしなにかあったら…、あっちで願えば戻れるならこっちでももしかしたら行きたくない、と思えば行かなくて済むかも…」
なんだかんだ体調を心配してくれてるのだろう。
寝ていない、体が休んでいないと言うのは怖いものがある
筋肉痛は地味に来ているが、年をとってから次の日に筋肉痛になることもない。
来るとしたら二日か三日は遅れてくる。
当然、今日は泊まる!と似たことを言い出した孫に
あれやこれと、あちらのことをまた聞かれながら
いつもより少し活気づいた、ばあさんが嬉しそうに作った夕飯を戻ってきた和子と4人で食べた。
和子もだいぶ慣れたのか久しぶりのばあさんの夕飯に舌鼓を打っていた。
異世界とやらは信じた方が折り合いがつくらしい。
すっかりポケットになにか入れるのが日常になっていたが
久しぶり何も持たずに布団にはいると、
紀ちゃんが今日は横で寝るから何かあっても、
あちらに一緒にとばされても大丈夫だから、と川の字で寝ることにした。
今日は行かないと念じながら寝てね、と言われたが孫と久しぶりに寝るのだから
あちらには行きたくないな、と念じることも無く思いつつ、
話せる話題があることも少しの刺激がある毎日も、疲労感で眠たくなるのもいつぶりだろう、と
もしも呼んでくれた人がいるのならありがたいことだ、と感謝した。
読んでくださり有難うございました。