夢の世界は
「とーちゃん!」
「おお、お前が先に起きてたか」
また家に帰ると
やはり元の通りに布団の上にはいるし、ポケットの中身もなくなっているし、おかしなものだ。
同じ夢を何度も見るのもそうだが無理矢理に詰め込んだペットボトルも布団の上で無くしたのなら気付きそうなものだが、どこかに転がっていることもない。
ばあさんとそんなことがあるのか、と相談し合う
「しかし、実際戻ってこれてますからねぇ」
「そうだなぁ、それにあっちにどうやって行ったか記憶もない」
まさか老いて徘徊して、忘れてるわけもあるまいに
なんとも不思議だ、と思いながらまた今度は何をもって寝てみるか相談した。
特に食べなかった飴玉はあちらに置いてきたので
今度はペットボトルを抱いて寝てみて、スコップは危ないので布でぐるぐる巻にしてバァさんが抱いてねる、と言っていた。
そんなこんなで
なぁなぁ、にわからないことを放っておきながら話し合っているとお昼前に電話がなった。
「あ、ああ、そうだなぁ。明日か、ああ、そうだ、わかった」
毎週土曜に様子を見に来る娘からの電話はいつもなら寂しさや、湧き上がる変わらない日々を誤魔化す娯楽のようなものだった。
「和子は明日くるんでしたねぇ」
「そうさなー、そうだ!和子がいる間に寝てみてどうなったか聞いてみるか!」
「寝ながら歩いてるとしたら怖いですものね」
やはりばあさんも寝てるうちの徘徊ではないか、と少し気にしていたのか、
そんなことを言いながら
簡単にいつも通りに1日を過ごしていく
いつもより早く寝床につく
明日は、普段よりはやく起きて二人そろって昼寝をする。
いつもぼんやりとしか見ないテレビは今日もあまり意味をなさなかった。
「おお、また、これたなぁ」
「あの子は元気になったか心配ですねぇ」
気持ち早く娘の家に急ぐと
ノックしたら返事があった。
「おじいさん!とおばあさん」
少しまだ辛そうではあるものの
立って歩くまでにはなんとかなったようだ。
「おお!少しは良くなったか」
「でも、まだ病み上がりなんだから寝てなきゃダメよ」
「でも、畑の世話や色々しなきゃいけないことが…」
「畑ならやっておくからもう少し寝てな」
申し訳なそうな娘を寝室に押し込めると
今回持ってこれたものを机に置く。
「まさか、抱いて寝ても持ってこられるとは便利ですねぇ」
「そうさなぁ、今度はビニール袋にあれこれ入れて寝てみるか」
ペットボトル2Lや
布に包まれたスコップ
風邪薬や、飴玉、ビニール袋に入れた米やだしの素、小さな醤油も詰め替えてもってきた。
一番は抱いておいた物もこっちでちゃんとあることを確認すると
「火をおこしたら畑に行ってくる」
「じゃあ、あっちの水がもったいないから先に鍋に移しといてください」
植物にまくのは水瓶から、と決めたらしいばあさんは
さっさと台所にむかう。
前にも使った鍋に水をいれておいて
余ったものはいくつかのコップにわけた。
「この水瓶の水も少なくなったなぁ。後で水を汲むところを教えてもらうか」
ペットボトルに水を移し替えると
外にもしかしたら井戸でもあるのかもなぁと思いながら
畑に向かう。
畑は相変わらずの寂れた具合で
もってきたトマトの種やらを撒いて水をまく。
広さだけは、あるので水瓶から何往復かしながら
雑草を抜いたりしていたら、日が傾いてきたのに気づいた。
あっ、という間に時間が経ったようだ。
「今回はまだ戻らねえなぁ」
そういえばいつ戻るのか、
この夢は見ないことがあるのかと色々考えたが
結局分からないのでバァさんと2人で戻れ!とでもいってみよう。
要は気持ち次第だろう。 簡単に水をまき終えて
こんな家から畑までの僅かばかりの何往復かですっかり疲労を感じる自分の体を情けなく感じたが、家で少し休ませてもらうことにした。
「あ、おじいさん、ありがとうございました」
「あれ、寝てなきゃダメだろう」
「いえ、だいぶ楽にはなってきたので」
「そうかい?そういえば水はどこにくみにいくんだ?」
いつの間にか起き出したらしい娘は
働き者でいいこだと思う。
娘曰く井戸が真っ直ぐ行くと右手に見える、というので
水瓶は重いから無理だが、疲れた体に鞭打って、ペットボトルに汲みに行く。
「こりゃ、重、労働、だな」
ポンプやらがあると思ったが、昔ながらの手で組み上げるような井戸から何度かペットボトルに水を移していく。
ペットボトルは口が狭いので無駄になる水も多いし、重くて想像よりも大変だった。
「文明の利器は大したもんだ」
水道はいつできたのかな、なんて思いながら水瓶に移し替える
何度か往復すると半分は溜まったのでまぁいいだろう。しかし、この水瓶は娘1人で持ち上げるのか
重くてとてもじゃないが持てそうにない。
娘はまたばあさんに寝かされているのか、もう見えるところにいなかった。
「ばあさんーそろそろ戻ってみよーや」
「はいはい、あー見送りは大丈夫だから、寝てなさい。お粥は余ったのがあるからお腹すいたらまた食べなぁ、悪くなる前にね」
ばあさんは出てこようとする娘を押しやったのか
えっちらと歩きながらやってきた。
ばあさんも随分こちらに来て元気になったようだ。
「今回は戻れ!と二人で言ってみようかと思うんだが」
「ああ、そうですねぇ。戻れないのも困りますからねぇ」
二人で手を繋いで
戻れ!と試しに言ってみると
布団の上で目を覚ますことができた。
「おお、戻れたのぉ」
「良かったですねぇ」
「あとは昼寝をして試してみるか」
戻ってこれたのなら
あとは寝てる間にどこかへ行っていないか確認して貰わなきゃ困る。
何故か疲れたように腕やら足やらがすこしだるいようだし。
ばあさんと次は何をしましょうかね、種は新しいのを持って言ってみましょうと相談しているとあっけなく時間はすぎていった。