夫婦はやっぱり
「明日の天気は…」
寝る前にテレビを消し忘れたらしく。
天気予報の声で夢から覚める。
ばあさんはきつねにつつまれたような顔をしている。
「不思議な夢を見たんですよ」
「おお、俺もだ、一緒にいけたのかねぇ」
なんて不思議そうに話しながら、いつもより少しテレビをぼんやり見るよりも話が盛り上がった。
今度は娘に風邪薬を持って行ってやろう。
寝る時にポケットに突っ込んだまま寝てみるのはどうだろう
いや、それならこのみかんも持って行ってあげましょう。
風邪にはビタミンですからね
なんて話をしながら眠りについた。
あくまで冗談で、
毎日暇があるんだからなんとなくそんな変わった日があってもいいじゃないかと思った程度だったが、まさかまた行くことになるとは思わずに
「とーちゃんや」
またあの夢のようである。
また土の上で幾分か日が落ちたようで
思わずポケットを確認した
「ばぁさん…」
「いや、こりゃ不思議なこともあるもんだなぁ、」
二人して冗談半分に、不思議なことを変化のある日常に胸を踊らせながらポケットにおしこんだ、風邪薬とみかんがあるのを確認してどちらともなく歩き出す。
きしむ体を押して、
少しばかり急いで娘の家に向かう。
ノックしても声をかけても
相変わらず返事もないので、少し焦り家の中を確認すると婆さんが急いで寝室に入っていきベットに寝かせた娘に駆け寄った。
「大丈夫かぁ?」
「あ、あれ?どなたですか?」
今回はなんとか気づくことが出来たようだが、それでも起き上がる元気はないようで
ばあさんは寝てるように言って
「とーちゃん、水といす持ってきて」
と指示するのでそれに従った。
ばあさんは立ってるのも近頃は辛いようである程度歩くには杖を使わなきゃいけない。
娘のそばにいるのだろうと欠けた茶碗からましなものを選んで片腕に軋んだ椅子を持って急いで寝室に運んだ。
「大丈夫かぁ?今みかん剥いてやるからなぁ」
なんて声をかけながら簡単にミカンの皮をむいてやりながら口元に運んでいく、看病はばあさんに任せることにして薬も渡しておいた。
さて、やることがなくなってしまう
なんとなく手持ち無沙汰で
扉の外に出て少し見て歩くことにした。
「裏庭は畑かぁ、それにしても…」
実ってない。
いや幾らかはものがなってるが、家庭菜園にしても寂しいものである。
少ししゃがんでよく見てみると
小麦のようだがふっくらとも元気とも言いづらい
畑は専門ではないが、植木やらはそだてていたし親父は百姓だった。
「これはまた…」
土もかわいているし、栄養もない。
娘が倒れてから水をやっていないんだろう。
夢とはいえ流石に手から水が湧いてくるようにイメージもできないので、水撒きもできない。
「んーむ」
畑で考え込んでも、まさか寝る時にホースや蛇口を持ってるわけには行かんしなぁ
しかし蛇口を持っていても水が出るわけもないだろうし
夢とはいえなかなか難しいもんである。
妙に現実的な夢だ。
「とーちゃん!」
また目が覚めたようだ。確か、畑はとりあえず諦めて居間に戻ったところだったはずだが。
ばぁさんが、起きたばかりなのに強めに肩を揺するから少しむせてしまった。
「ばぁさん、手加減してくれやぁ」
「それよりあの子ですよ!あのこ、まだ熱が下がってないんです」
そんなことを言われても、
こちらも目が覚めたばかりでどうにも今すぐ寝れるもんではない。
夢の中での出来事だから、となだめすかして
炊けたばかりの米と漬物で朝メシを食べる。
つけたテレビには目もくれず
ばあさんはひたすらあの子が心配だ、といいだした。
「じゃあ次に何をもって寝てみるか考えてみるかねぇ」
「ああ、それがいいですね」
何故かふ、とポケットを探ってみると風邪薬がなくなっていた。
まさか布団に落ちてるわけじゃないだろう、と婆さんのみかんはどうなったか聞くと
それもないようだ。
「んん?まさか布団がみかんの汁だらけかね」
なんて少し冗談めいて笑っている
さて、つけたテレビもそのままにお茶をすすると
そういや水がなかったっけなぁ、と思いついたものを言ってみる。
ばあさんは気になることを書き出すようでそこら辺に散らばっていたチラシの裏にマジックででっかく書き出していく。
「ばあさん、それはかくにしてもデカすぎるんじゃないかねぇ」
「チラシなら何枚もありますよ、それにそんな持っていけないんですから」
目がめっきり悪くなったのを言う気もないようなので
それもそうだねぇ、と言いながら
ポケットに入るまたは持てるものを考えるままに二人で書いた
「まずは水をペットボトルにつめますかねぇ」
「おお、それなら薬ももっていかにゃ、なんせ昨日は1回分だったからねぇ。水もあの瓶はなんとなくねぇ」
「あの子が食べやすいおコメでもビニール袋に入れて少し持っていきましょ。1合でいいですよねぇ」
夢とはいえ、普段よりも興奮するのを覚えながらあれじゃないこれじゃないと相談しながら
何枚ものチラシに書いては捨て書いては捨てを繰り返す。
結局、また簡単にカップラーメンにした昼食を食べて
ばあさんはこんなのもあの子が元気になったら食べれますかねぇ、とそればかりだ。
夢とわかっていながらばあさんも情がうつってしまったんだろう
それでも、いつか夢を見なくなるんだろう。
ばあさんと二人たまたま同じ夢が見れただけ幸せにおもわにゃあならん。と気を引き締めた。
理不尽ではないし、贅沢も出来やしないが、奪われるのは一度で十分。
まさに夢だったあの時、まだバブルで何をしても物が売れていたあの時を思い出しながら少しだけ淡く儚く消えて行った日々を思って感傷に浸りそうになるのを振り払いながら、少しだけ変わったいい変化を喜んだ。
夕食もそわそわと、落ち着かず過ごすと
あそこを二人で耕してみるのもいいかも、いやでも住むにはお役所にいかなきゃですねぇ、といいつつ、
気持ち普段よりポケットが多い寝間着を着て
床についた。
「ちゃんと持ちましたか?」
「おお、しかし興奮して寝れなくなるかもなぁ」
馬鹿げてると笑うようなまわりの人はいない。
布団に潜り込むと、だんだん暖まる感覚とすぐにくるであろう睡魔に身を任せた。