夢なるものは。
「とーちゃん、とーちゃん」
「ん?」
目を開けると慣れ親しんだばあさんの顔が
あれはやっぱりゆめだったか、と思いながら
周りを確かめる
茶色い長座布団もこたつも、長く連れ添った婆さんのしわくちゃの顔もばあさんの着てる服も朝のまま。何も変わらない。
「不思議な夢を見たぞ、ばあさんがいなくて困ったよ」
「まぁ、どこか行くんなら、ちゃんと連れて行ってもらわないと困りますよ」
ばあさんは今日初めて笑い声をあげた。
それもそうだな、といいながら簡単に用意された夕飯をたべる。
すっかり冷え込んで夜になったここは変わらない我が家で
土の上でもない。自然豊かなあそこでもない。
またテレビを見出して
しょうもない話をしながらなんとなく、会社を辞めてしまって、ただ毎日を何もなく過ごすようになってからあまり笑わなくなったばぁさんと今度はあそこに2人で行きたいな、となんとなく思った。
「とーちゃん、とーちゃん」
「ん?」
ばあさんの声がする。
「なんか変なところにいるよ、とーちゃん」
まだまだ明るい、明るい?
いつも通りに寝たはずだが、ぁあまたか
これは焦がれたあの夢なのか。
「おお、バァさんお前も来たのか」
「あたしゃ、何が何だかわからんけど、ここはどこさね?家はどこいった?」
ばあさんは夢だと気づいていないのか
何やら焦って周りを見渡している。
「ここは、夢の世界だ、ばあさんも来て欲しいと思ったらくるなんて調子の良い夢だな」
「夢とはいえ、こんな日照りの中寝ころんでたら干からびちまうよ」
たしかに夜の筈が昼間で
お日様に遮るものさえなく照らされている今は困ってしまう。
土に汚れる寝間着を軽くはたきながらばあさんをおこしてやる、
「おお!そうだ!この前娘っ子にお世話になったからそこで聞いてみよう」
「まぁず、いい年して娘の夢みるだなんて、とーちゃんもまだまだ現役だねぇ」
なんて話をしながら2度目の道をゆっくり歩む。林から娘の家まで最近はあまり歩かなくなった老体には厳しいものがあるが二人で歩くのは久しぶりで、声を弾ませながら歩いて行く。
一層ボロい家はすぐそこにあった。
「おーい、いるか?」
何度か、ボロい、力を入れるとそれだけで壊れそうな扉を壊さないようにノックするが返事がない。
試しに扉を開けてみると人気もない。
「あらー、お出かけかね?」
おじゃましますよっと、
入っていくと前には入らなかった部屋を開けてみる。
娘がベットに倒れかかっているのが見えた。「あら?大丈夫??どうしたの!熱があるじゃない」
ばあさんはすっかり曲がった腰で、些かいつもよりも早足で娘っ子に駆け寄るとペタペタと手を額に当てた。
「あれ?どなた…」
娘の薄ぼんやり開いた目は力なく、息も荒い、こりゃ大変!と駆け寄るが、
台所や実の娘たちが病気をした時だってばあさんに任せてたので、如何せんどうしたらいいかもわからない。
「とーちゃん!突っ立ってるだけなら邪魔だ、そっちいってて」
ばあさんは、今より少し若い頃のように張りのある声を出すと
あっという間に追い出された。
しかし、それで落ち着くわけもなく
オロオロしてると扉から婆さんがでてきた。
「どうだい?」
「いんやー、ベットに移動して貰って薬があるか聞いたんだがないってゆうからとりあえず頭冷やそうと思ってね。」
ゆっくりと、それでもばあさんにしたら早足で水道を探すが
見当たらないのに気づいたようで
探しあてた水瓶から水をすくった。
「布はあたしのハンカチでいいかね」
一旦、外に出て言って水に濡らしたらしい
それをまた娘のところにもっていくと
看病のためにしばらくはここにお邪魔すると言い出す。
「あの子の許可はとった」
と、言い張っていたが、具合が悪いので訳も分からず、あやふやだろうに。
しかし、ここだと医者もいないし最寄りの医者もわからない。
一度お世話になったし夢の住人と言えどほっておくのは気分が悪い。
「しかし薬がないのは困ったねぇ、夢なら融通をきかせてくれてもいいのにねぇ」
ばあさんは呆れたように口を開く、
そうだなー、なんていいながら
家に帰ってまたここへ来れる時があったら
薬を持ってきてこなけりゃあな、とまた思った。
読んでくださりありがとうございます。
しばらく夢の世界は続きます。