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老老異世界  作者: かすた
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平穏か怠惰かについて。

なんとなく高齢化を思ったら書きたくなりました。

­­  ­ふ、と自分の皺だらけの手を見た。

景気が良かった時は肥えていた身体も、病院にかかるようになってからめっきりと痩せだした。

 きっと最期は皺だらけの痩せたままいくのだろう。

会社がやり直せればいいと何度も思った。


 魂が抜けていくように


 全てがなくなったように


 最後はあっけなかった。


 消費者金融も

得体の知れない金貸しに騙されても

詐欺に引っかかっても

何をしてもやり直したいと

思っていたのに。

 幕切れはあっけなく、全てを終わりにせざるおえなくなった。


「とーちゃん、チャンネル変えていいかね?」


「ああ」


 慣れたように向かいのばぁさんはテレビを違う番組に変える。

それでも真剣には見ていないのだろう。


 変わりもせず代わり映えのない平和、と言いかえてもいいし退屈と言い換えてもいい毎日にお迎えを待つだけの時をただ消費していくことを、今更何を思うでもなく昼寝をするべく横になった。




「おじいさん、おじいさん、どうしました?こんな所で」


「んん…?」


 目を開けると眩しい光が差し込んで来る。

暖かい土の匂いがした。

目の前には日に焼けた赤ら顔の娘が布っキレを首に巻いてこちらを怪訝そうに伺っている。


「うわっ」


 何がなにやら分からぬまま身体を起こすと、じゃりっとした土と緑の匂い、お日様はまだ高く真上にあって

娘は驚いたように後ろにとんだ。


 急に身体を起こして骨がきしんで目眩もする。


「ここは?ばあさんはどこに…」


 夢を見ているのだろうか。

左右を見渡すと木々が青々とした林の中で

目の前にはバァさんが居たはずだ。

ばあさんが娘っ子に化けたんだろうか


 まじまじと目の前の娘っ子をみるが

ばあさんは茶色い髪はしていないし、緑のめもしていない。

ましてやいくらなんでもボロボロに見える服を纏うわけもなく、顔を泥で薄汚れさせてもいないだろう。


「大丈夫ですか?おじいさん」


「あ、ああ。ここはどこだね?ばあさんは…」


 娘は訝しげに少しこちらを見てから周りをキョロキョロと見渡した。


「ここはホウレン村です。私が来た時はおじいさん1人だけでしたが…」


 しばらくは土の上で寝ていたのか固くなった身体をたちあげると、娘が手を貸して起こしてくれた。


しかし


「ホウレン村とは…聴いたことがない」



 少なくとも日本の、片田舎のリビングというのも烏滸がましい場所にばぁさんといたはずだ。


 きっと夢を見ているのだろうか。

娘は良く見たらかわいいし、初恋のお春さんに似ている気がする。


 老いてもまだ夢にまで色欲が尽きないとは、恥ずかしいものだ。

「ここは田舎ですから、ところでここへはどうして?村に来る人なんてとても少ないのに」


娘は少し恥ずかしそうに笑うと、手を離した。


夢の中のことなので深くも考えず夢の割には夢がない、と矛盾めいたことを思いながらなんとなくばあさんに悪い気もした。


「いや、よく分からないのだが、目が覚めたらここにいたようだ」


 我ながら不思議な夢を見る。と、自分の体を見てみると何も変わることがない老いたまま、着てる服も少し土で汚れてはいるがそのままだ。

 目についた汚れを簡単に払うととりあえず状況を話してみる。

娘はそれは困りました、といった顔をしながら


「ここではなんなので、私の家にどうぞ」


と誘ってくれた。


 若い娘っ子がいささか不用心に見えるが、まぁ人がいいんだろう。


 案内された村を見てまた驚いた。

狭い住んでるアパートが上等に見えるほど廃れている。


 村というよりも、この人気の無さはご近所付き合いが5歩程度で住んでしまうような現代日本において驚くほどの距離の離れがあり自分の小さい頃に見たような景色である。いや、もしかしたら高度経済期のあの頃よりも明らかに人気がない。

 こんな自然溢れる場所なら見渡す限り畑やらになっていてもおかしくはないはずだが


「ここです」


 離れている娘の家は一層、それこそ隙間風が入り込みそうな押したら倒れそうなくらいにボロく見えるが

中もそこまで広くなく木製の椅子に座るとギシギシと軋んだ。


「これは…」


 欠けた湯呑みのようなものに水瓶から水を汲んで出してくれたのでぐいっと飲み干すと不思議なことに

染み渡るような感覚があった。


 先ほどの娘の体温が伝わってきた時のように、よくできた夢である。


「おじいさんはどちらから?」


「群馬、の最近合併された町からだ」


「ぐんま、とゆうものを知りませんが町からいらしたのなら随分ここらは田舎でしょう?」


 町と言っても合併されてようやくなれたような片田舎で

なにより自分の夢に登場する人物が地名を知らないとは不思議なものだ。

 しかし、いくら田舎といってもここよりは栄えてはいるだろう。


「町と言っても片田舎だ。しかし帰る道もわからん」


「それは困りましたね。家も1人で住んではいますがそんなに上等なおもてなしが出来ないんです」


 確かに細々とした色々なものはあったがところどころ手を入れてないような雰囲気があって

申し訳なさそうにするのも頷ける。


 しかし古民家、とやらが流行ってはいるが

ここまでぼろくしてあるのも珍しい。


「まぁ時期に帰れるだろう」


 なんせ夢なのだから。


 自分が帰れないのはおかしな話だ。


 でも自然豊かな、ここには夢でもばぁさんときたいものだとおもう。

 足腰がよわりきって、物を忘れることも多くなった昨今、旅行なんていけない自分たちには

夢の中でさえ楽しめるだろう。


「ああ、あちらでばぁさんがいるだろうから、呼んでくれれば日が暮れる前には帰れるよ」



 ホッとした娘は邪魔だから早く帰ってほしい訳でもなく心配しているのだろう。


 良い娘だ。

あと60年ほど若かったなら…とどうしようもないことを思いつつも、思わず苦笑しそうになりまた汲んでくれた水を一口飲んだ。


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