プロローグ
嫌な夢を見た。
暗い闇の中、ここがどこなのか分からず泣きじゃくる幼い自分。
周りの闇が深くなり飲み込まれそうになったところで目が覚めた。
幼い頃の記憶、幼い頃のトラウマ。誘拐されて、暗くて狭い部屋に監禁されたあの頃の記憶。
あの事件から10年は経っているけど、未だに夢を見るし閉暗所恐怖症になった。
それでも、あの人が助けてくれたから死ななかった。今はあの人の為になることをするのが生きる目標だ。
嫌な汗でべたついた服を着替えて朝食を準備する。
あの人の朝食は決まって白米と味噌汁、あとは甘く味付けをした卵焼き。いつも朝食が完成する頃に起きてきて、食卓について二度寝をしてしまう。それが日常の光景だった。
けれど今日は違った。
朝食が完成しても起きてこない、少し待ってみても来る気配がない。珍しく寝坊してしまったのかな?そう考えてあの人の部屋へ向かった。
あの人の部屋は二階に上がってすぐの部屋、扉には名前の書かれた札がかかっている。部屋中から小さくあの人の声が聞こえる、着替えているのなら勝手に入るのはまずい。ノックをして声をかけた。
「朝食ができましたよ、冷めてしまう前に食べてください」
中から返事はなかった。さっき聞こえたのは寝言だろうか「入りますよ」と声をかけてから部屋の扉を開けた。
予想は的中していた、あの人はベッドで眠っていた。しかし、その顔は青白く精気が無かった。そして小さく呻き声聞こえる。
普通ではないその様子を見てすぐに119番に連絡した。