席取り
何やっているのかな?
課長は女性社員を見て思った。
自撮りカメラもなく、変顔をしている。
口をすぼめたり、眉を寄せたり。
もう、昼休みに入っているので、彼女の自由だが。
でも、パソコンを私用に使うのは喜ばしい事ではなかった。
けれど、大目には見ている。
小うるさい上司と思われたくない。
でも、気になる。
課長は立ち上がった。
腕を後ろに組み、歩み出す。
一応、たしかめる義務があると言う名目で。
近づいて、後ろから覗き込むのは禁物だ。
「セクハラ~」と叫ばれるかもしれない。
だから、まず、咳払い。
彼女はちらりと振り向き、そしてまたパソコンに向かった。
やましいサイトではないようだ。
「どうしたの?」と言いつつ、近づいてモニタを覗く。
マス目がいつくもある。
濃い枠のマス、薄い枠のマスがある。
席取りのようだ。
「スマホだと、ちょっと見づらくて」
彼女は少し鼻にかかった甘い声を出した。
課長は一つ頷き、頭をモニタに近づける。
彼女は課長に避けるようし、課長がモニタを見えるようにした。
既に前の方は埋まっている。
マスの枠は薄い色になっていた。
映画の席取りか。
課長は大きく頷いた。
「いいよ続けて」
彼女はマウスをまた動かし始めた。
右後方の位置で迷っているようだ。
課長は小さく頷き、一つ決心をする。
「最近、映画の席取りも便利になったね」
最近、映画を見に行ってないが、
数年前からインターネットを使って席が取れることを知っていた。
ITオンチと思われたくないのが、おじさんのプライドだ。
すると、彼女は眉間にシワを寄せた。
「え~」と言うと今日一番の変顔をした。
「映画じゃないです」
課長はモニタに顔を近づけると、彼女は避けるようにのけ反った。
確かにマスは劇場にように整然と並んでいなかった。
「こうするとプロフィールが出るんです」
彼女は薄い枠のマスにカーソルを合わせ、
右クリックでメニューを選んだ。
すると男性の写真が現れた。
氏名と年齢それに〇〇大学時代の友人と書かれていた。
彼女は蔑むように変顔になった課長を見つめた。
「結婚式の席を選んでるんです。
今度、友達が結婚するんで」
だから、前の席は埋まっているのだ。
両家会社関係の主賓だろう。
「っせ、席、結婚式の席もインターネットなの?」
課長は上ずった声を出した。
「席決めって面倒でしょう。
変な席になると文句言われるし。
それにカッコいい男性がいれば、友人の出席率上がるでしょう。
みんな契約社員でお金が無くて、出席できないの。
新しい出会いがあれば、みんな行く気になるし」
彼女は、結婚式場の思惑もあると言った。
無料会員登録するとプロフィールが見れるのだと。
へ~、課長は大きな声を出した。
そして、頷く。
「そりゃあ、一石三鳥ならず、一席三鳥だな~」
課長は自慢げに高笑いを上げた。
彼女は思わず肩をすぼめた。
その寒いダジャレを聞いて。
そして、とどめの一言。
「もう~、邪魔だからあっち行ってください」
彼女は、これから真剣勝負があるかという目で、またモニタを見つめた。