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白いワスレナグサ  作者: リィナ
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ディナーの後で

彼はご機嫌なようだ。職場の同僚をからかって遊ぶのは、彼リヴァイにとって楽しいことのようだ。

一方その職場の同僚はご機嫌斜めである。リヴァイの助手席に座る彼女シェリルは隙を見計らって一発お見舞いしたかった。


などと、隣の男の顔色を窺う。鼻歌を歌いながら、車を走らせている。随分ご機嫌なようだ。そして信号により車は停車する。すると横から手が伸びてきて引き寄せられた。視界いっぱいに彼の顔が広がる。おでこを合わせながら、彼は甘い声を漏らした。

「あまりそう見ないでくれるかな。穴が開きそうだよ」

そして信号により車は発進する。距離を保たれた私は真っ赤な顔でリヴァイを睨みつける。その後、私は横を見た。窓にゆでだこが映っている。そうして深呼吸をし、冷静に考え始めた。

…リヴァイは、こういうことが得意なのだ。女性をいい気分にする天才なのだ。また近いうちにそういう仕事が入るのだろう。自分は練習台である。練習台にも成りえないかもしれないが。

頭ではちゃんと理解していても、初めてのことばかりされるので心臓がついてきてくれない。

でも、そう思うと熱も引いてきて冷静になれる。

…私にかけてきた甘い言葉の数々は、他の人に贈るための言葉。


窓に映った女は、切なく笑みをこぼしていた。


「さあ着いたよ」

外はもう薄暗くなっていた。私はリヴァイからエスコートを受け、エレベーターに乗り込む。すると隣から

「どうした?調子悪いのか?」

と控えめにのぞき込んできた。

「え?そんな風に見える?全然大丈夫だけど」

「大丈夫に見えない」

真剣なリヴァイの顔が近づく。今ここで顔を赤くしてはだめだ。冷静になれ。

「本当に大丈夫だから…」

少し距離を置こうと一歩下がった。ちょうどよいタイミングでエレベーターが止まった。

私は出ないのかと彼の顔色を窺う。リヴァイはすこし表情が暗いまま、私を奥まで完璧にエスコートした。

ここで、ディナーをとるのか、と圧倒されながら、夜景がよく見える特別席に案内された。ランチよりも格段にいい椅子に腰かけ、おしゃれな雰囲気の店内に目を向ける。

凄い、セレブの来るとこだ…

「そんな周りより僕をみてほしいな」

そうか。そうするんだ。それが女性に使える一種の技なんだ。

私はリヴァイの甘い声に表情を曇らせ、リヴァイと目を合わせず夜景を見る。

「リヴァイ、夜景もきれいだね」

「ねえ、シェリル」

「街中が宝石みたいでここアーバンクラプスが宝石箱みたい」

「…」

会話が途切れる。長い沈黙の後、口を開いたのは私だった。

「リヴァイ。今日はどうもありがとう。楽しい1日だったよ。食べたことない料理や、着たことのないようなドレス、ほかにもいろんな景色を見させてくれて」

夜景や、別の場所に目を向けながら、思い返すように。

「それはよかった」

短い返事だった。その後、リヴァイからの視線を感じたり感じなかったりしたが、うまくかわしていた。

ディナーも最高においしくて、ワインも頂戴した。自分は結構お酒は強いほうなのだが、あまり酔いたくはなかったので少量だけ飲んだ。さっぱりとさわやかな味付けの前菜や、口の中でとろける質のいいお肉や、優しく甘いシャーベットなどが今でも鮮明に思い出せる。再現は絶対できないが。

そうして、私はまたリヴァイにご馳走になった。「ごめんなさい。ありがとう」と言うと彼は「気にしないで」とさわやかに笑ったのだった。

エレベーターに乗り、1階へと降りる。2人だけの密室空間ではどちらも口を開かずただただエレベーターが止まるのを待っていた。

エレベーターは優雅に止まり、リヴァイのエスコートのもと車へと戻る。

いつも道理に扉を開けてもらい、助手席へと乗り込む。リヴァイはその隣の運転席に乗り込む。いつも道理。仕事の時も、遊びに行く時も、今日だってそうだった。私たちはいつもこの配置だった。だが、2人を取り巻く雰囲気は並ではない。重く、苦しい。

ゆっくりと車が発進した。私は外を眺めていた。

「シェリル。以上で仕事は終わりだ。付き合わせて悪かったな」

なんの会話もない空間にリヴァイが終わりを告げた。

「そっか。仕事だったんだよね。ははっ。楽しくて忘れてました。仕事だったのに楽しくって。浮かれてしまいすみません」

悟られないように。気づかれないように。あくまで自然に、取り繕って。

「今更、敬語だなんてくすぐったいじゃないか。同じ同僚だ。そういうのは止めておくれ」

「それと、シェリル。これからは仕事ではないがすこし付き合ってほしい」

私は目を合わさず即答した。

「嫌だ」

リヴァイは、何かに納得したようで、軽く目を伏せた。

「じゃあ、家まで送るよ」

「いらない」

リヴァイの顔色を窺うのが怖い。少しの沈黙の後にリヴァイが口を開いた。

「ねえ、シェリル。君はどうして…」

怖い。そのあとのリヴァイの言葉が怖い。

「そんなに、泣きそうな顔をしているんだい」

彼はそう言って近くの駐車場に車を停めて、私のほうに体を向けた。そして私の手に自分の手を重ねてきた。彼は理由を知っている。知っているのに聞いてくる。

「…これ以上こんな会話していると、リヴァイのことが、嫌いになりそう。だから…」

言葉を遮ったのは柔らかい感触だった。一瞬リヴァイの顔が視界いっぱいに広がったと思ったら、つかの間すぐに離された。数秒後に何が起きたのか理解する。そして私は本日最大のゆでだこになった。

「大丈夫さ。嫌いなんかさせない」

リヴァイは情熱的な目を私に向け、不敵に微笑んだのだった。その言葉とその行動にどれだけ傷ついたかわからない。

私は、その場で泣きじゃくれてしまった。一発お見舞いしようと思っていた拳は、弱弱しく彼の体に落ちる。リヴァイは分かっていたのだろう。うんうんと聞きながら背中をさすってきた。私の口からは次から次へと抱いた感情が吐き出されていく。時々リヴァイは驚きながら、また優し気に微笑みながら私の言葉に真剣に耳を傾ける。車の中で私は泣いて、泣いて、泣きすぎて。…疲れて眠ってしまった。

彼は泣き疲れて眠った私の髪を梳いて、椅子のシートを倒し、ブランケットをかけてくれた。そうして彼はゆっくりとアーバンクラプスの町を車で走らせたのだった。

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