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休憩

息抜き回です。

お金の計算が間違っていたらすみません。

「・・・アレッ!?

別荘が消えてやがるぞ!?」


別荘に再び戻った一郎は思わず声が出た。

なぜか別荘が跡形も無く消え去っているのだ。

彼の目には真っ平らな地面が広がるのみである。

しかし、桜花達の気配はちゃんと感じられるので、それが彼を余計に困惑させていた。


「あ、一郎君。おかえりなさい。」


すると何事も無かったかのように目の前に現れる蓮華。先程まではいなかった筈である。


「れ、蓮華か。

これは一体どういうことなんだ?」


一郎は状況に戸惑いつつも、どうにか冷静さを失わずに済んだ。

彼女は少し楽しそうに答える。


「ふふふ・・・私のお母さんが昔教えてくれた、防衛の為の妖術ってやつなんだよ。

・・・こうやって、ね。」


そして手をパチンと叩いた。

すると目の前に元の広い別荘が現れる。


「お、おお・・・凄いな、本当に。」


関心する一郎。蓮華は嬉しそうにクスクス笑っていた。


「こんな古臭い術必要無いって、裏世界にいた時は練習を怠けていたんだけど・・・さっき出来るようになったんだ。」


廃屋にいた際にこれをしなかったのは、単に出来なかったかららしい。


「ああ、柊が蓮華は厠に居るとさっき言っていたが・・・この術の練習をしていたんだな。」


納得する一郎に対し彼女は顔を真っ赤にする。


「ン"ン"ッ!?

・・・そ、そうだね。うん。そうだよ。

(それは単にお腹を冷やして壊しちゃっただけなんだよね・・・。)」



「(ある種の幻覚のようなものか。

妖術・・・興味深い。

思えば黒蝋梅から受け取ったこの外套も、彼の妖術の力で不可思議な大移動が出来るのかもしれないな。)」


下痢を起こしていた蓮華はさておき、一郎は妖術に強い興味を持ったようだ。

しかし妖怪を作ったのが人間である以上、もしかしたら妖術を作ったのも人間なのかもしれない。


「(・・・だとしたら、人間によってあっさり滅ぼされたのも分かる。

妖術を知っている奴もいるかもしれないからな。

・・・その使い方も、弱点も。)」


そもそも、人間が作り出した妖怪とは何なのか。そして何故作ったのか。

神すら作った人間という存在に、一郎は同じ人間として興味が湧いてくる。

妖術と人間の魅力にとりつかれた彼は、更に深く考えようとしたが・・・


「い、一郎君?」


名前を呼ばれ彼はハッと顔を上げる。目の前には蓮華の顔があった。

心配そうに彼を見つめている。


「・・・いや、妖術って面白いなって・・・思ったのさ。悪い悪い。

・・・本当、大したものだよ。」


「・・・ふふふっ。でしょっ?」


とりあえず一郎は彼女を安心させることにした。

妖術を褒められ、彼女は嬉しそうに笑顔を見せる。人に褒められるというのは珍しいのだろう。


蓮華の可愛らしい笑顔を見つつも、彼は自身の目的のため別荘の扉を開ける。

ついでに彼女も後ろを付いてきた。



別荘の部屋の一つ、自身の部屋に入る一郎。

真っ直ぐ奥の机まで歩くと、鍵付きの引き出しを手に持った鍵を使い開け、ガサゴソと漁り始めた。


「・・・あった、これだ。」


そう言って取り出した物を詰襟の内ポケットに入れる。

続けて引き出しから何やら黒い小さな布袋を取り出し、これは反対側の内ポケットに入れていた。


「(・・・一郎君が持っていたアレ、なんだろう?

あんな変な形の物は見たことがないよ。)」


背後で首を傾げる蓮華。彼女は見た事が無いらしい。


「(コイツはきっと、使う事になるだろう。)

・・・よし、用は済んだ。」


一郎は小さく頷くと後ろへ振り返る。


「蓮華、俺はまた妖怪探しに出かけるよ。

・・・そこで頼みがあるんだが・・・。」


後頭部に手を当て、少し遠慮した様子で彼は蓮華に話しかける。


「またあの妖術を頼みたいんだ。出来るか?」


彼女は笑顔で頷いた。







「ああああああああああああああ!!!!!

殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいよぉ!!!!!!!!!

なあ!!!!そうだろ!?

何とか言えよ!!!!」


一方その頃、路地裏で野良猫を蹴り飛ばし、執拗に何度も何度も踏みつける光次郎。

最早野良猫は血に塗れた塊になっていた。

彼の後ろで取り巻き達が、その異常な行為に怯えている。




「あースッキリした。嘘だけど。」


急に静かになった光次郎はそう言うと、猫の死体へは見向きもせずに取り巻き達の元へ歩き出す。


「げっ、学校そろそろじゃん。行こうぜ。

今朝俺に刃向かった一郎をしばかねえといけねえし。」


光次郎は約四時間前のやり取りを思い出す。

あの殺意の籠った目つきで獲物を横取りした一郎。

あんな彼は初めて見た。

あの目にゾクゾクした光次郎は両手を広げ、空を見上げる。今日は快晴だ。


「ああぁぁぁ・・・。

楽しいなぁ・・・楽しいなぁ・・・!

早く会いてえよ、一郎・・・!!」


ウキウキとした足取りで歩く彼は、学校にて一郎が授業をサボった事を知り本気でキレるのだが、それはまだ先の話である。






「うわあ。何かゾクッとしたぞ・・・。」


そして、喫茶店で身震いする一郎。

どうにも寒気がした。



・・・何故彼がこんな所にいるのかというと、単純に早起きの所為で眠くなってきたのである。

妖怪の気配も感じられなかったので一旦休憩する事にしたのだ。

彼は先程から少しぼーっとする頭で外を眺めている。


しかしこんな朝から喫茶店は営業しているのものかと、彼はコーヒーを飲みながらぼんやり思った。

じわじわと苦味が口内に広がり目が覚めてくる。


それにしても12歳の少年が喫茶店にいるのは珍しいのか、少し周囲の客から見られていた。

(だが時間も時間なのでその客の数も少ない。)



「・・・こ、これ大丈夫よね・・・?

バレてないよね・・・?」


「き、きっと大丈夫だよ。桜花ちゃん。

耳と尻尾は妖術で見えない筈だよ。」


「蓮華ちゃんはいいよね・・・妖術使えるし、目以外人と変わらないし・・・あ、これ美味しい。」



そしてその視線に兎に角怯えながらコーヒーを飲むのが、彼と同じテーブルを囲む少女達だ。


桜花、蓮華、柊の三人が来ているのである。

彼女達は一郎に誘われ、彼のよく行くこの喫茶店に付いて行く事になったのだ。

(こんなに朝早くから行くのは彼も初めてらしい。)

因みに付いて来た理由として最も大きいのは、彼女達のいた裏世界は文明が発展していないようで、喫茶店というものを知りたかったからである。


最初こそ見られたが上手く目は隠した為、客も人間だと思っているらしくそれ以上の追求は無かった。

桜花の耳と尻尾が蓮華の妖術で見えなくなっているのも理由としては非常に大きい。

(目の色だけはどうしても変えられないようだ。)


「・・・この『けーき』という物は本当に美味しいですね・・・!

こんな物がこちらの世界にあるなんて・・・!

ありがとうございます、一郎!」


ケーキをフォークで食べ感激する桜花。

砂糖を使った菓子を食べるのは初めてなのかもしれない。


「この『かすてら』もとっても美味しいよ。

・・・本当に、こっちの世界は凄いね。

連れてきてくれてありがとう、一郎君。」


蓮華も美味しそうにカステラを食べる。

彼女も嬉しそうだ。


「・・・ていうか、この服もよ。一郎。

君って、もしかしなくても超お金持ちよね。

・・・別荘の時点で薄々思っていたけど。

何にせよありがとね。けーきもかすてらも美味しいわ。」


そう言って柊は自身の服と桜花達の服を見る。


桜花と柊は子供用の西洋のドレス、蓮華は華やかな子供用の着物だ。

三人とも目鼻立ちが良い為、よく似合っている。

特に桜花と柊は髪の色が外国人の様なので、服装も馴染んでいた。


「・・・どういたしまして。

三人とも良く似合ってるぜ。これなら大丈夫だ。

(行く前に風呂に入らせたのは正解だったな。

髪も顔も汚れがすっかり無くなって、服と馴染んでいる。)

・・・それから、金持ちなのは俺じゃなくて親だな。

まあ厄介払いでやたら小遣い渡されるから、金持っているのはある意味正しいけどさ。」


一郎は以前の生活を思い出す。

親からは嫌われ、家に居てほしくないからと金だけを渡され、外を歩けば近所からは窓を閉められ、周りの人間はひそひそと彼への陰口をたたく。


彼は生まれ持っての体質により、常に周囲からは怯えられていた。

家の中からでも外の様子が分かる不気味な子供。

周囲のその、気味の悪いモノを見る目は幼かった頃の彼の心をあっさりと傷つけたのだ。



「(・・・感謝されるのは、やっぱり嬉しいな。)

・・・その服はあげるよ。俺は男だから着ないし。」


その言葉を残し再び外を眺める一郎。

彼は今のこの時を確かに楽しんでいた。






「・・・黒蝋梅よ。その話は本当か?」


薄暗い橋の下で黒蝋梅と葵、そしてもう一人男の妖怪が話している。

周囲には川のせせらぎが聞こえるのみだ。


「・・・黒蝋梅様を疑うのですか?」


詰め寄る葵。明らかに怒っていた。


「よせ、葵。

・・・まあ疑うのも無理は無い。

信じるも信じないも貴公が決めよ。

・・・俺は行く。葵、ついて来い。」


歩き出す黒蝋梅と、すぐ後ろをついて行く葵。

二人の姿はすぐに消えてしまった。



「妖怪を助ける少年・・・か。」


残された男の妖怪は一人呟く。





「中々信じてもらえませんね、黒蝋梅様。

やはり彼の存在は異質過ぎるのでしょうか?」


どこかの道の端で、葵は黒蝋梅に話しかける。

彼は頷き言った。


「・・・かもな。

俺達妖怪は、自業自得とはいえ人間に滅ぼされかけた。

妖怪にとって人間はどうしても怖いのだろう。」


黒蝋梅はやれやれと溜息をつく。説得は難しそうだ。





「・・・ま、まさか全員分奢ってもらえるなんて・・・ありがとうございます。」


「元々奢る予定だったから気にすんな。

普段金は全然使わないからよ、こういう日ぐらい使ってみたかったのさ。

(・・・後、貨幣も違うだろうし。)」


喫茶店の外にて、礼を言う桜花。

一郎は気にしないように言う。

そもそも友人のいない彼にとって、こういった経験は初めてであり、そして何より楽しかったのだ。

礼を言いたいのはこちらである。

・・・彼はそう思っていた。



「何だか貰ってばかりで申し訳ないや。

一郎君、お財布は大丈夫なの?」


心配そうな蓮華。一郎は財布を確認する。


「・・・あと100円 (約20万円以上) ぐらいあるから大丈夫だろ。」


そう言って彼は財布を懐に仕舞った。

その隣で柊は冷や汗を流す。


「(ひええ・・・100円って事は裏世界では5両くらいね・・・貧乏貴族の私には到底持ち歩けない額だわ・・・。)」


どうやら彼女は貴族の娘で、裏世界に住んでいながらも表世界の貨幣の事を知っているようだ。

彼の持つ金額に圧倒されている。


((・・・100えん・・・?))


その一方で、その隣に並ぶ桜花と蓮華は首を傾げていた。

裏世界では未だに両が使われているらしい。

一郎はそんな彼女達を横目に再び妖怪を探すことにする。


「さて、時間も経ったし気配を・・・・・・っ!」


妖怪の気配を辿ろうとした彼は、驚いて閉じていた目を見開く。

桜花は心配そうに尋ねた。

蓮華と柊も彼を見つめている。


「・・・ど、どうしたのですか?一郎。」


一郎は暫し沈黙し、そして口を開いた。


「・・・誰かが山に、入って来た。」


妖術

攻撃や防御、移動に偽装など色々ある。

元は大昔の人間が作ったもの。

必要無いので創造した生物に与えた。



桜花達の服は一郎の姉が馬鹿みたいに大量に買った物を勝手に貰っています。

買いすぎて本人もどれが無くなったか気づかないようです。

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