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四季光次郎

あの光次郎の襲来から、五日が経った。

包帯がとれた一郎は一日だけ学校に通う事になったが、それでも山頂の警戒を怠ってはいない。

彼は常に山へ意識を向けていた。



「(今日も異常は無し・・・後、一日。

・・・それで、お終いだ。)」


「あらあら、因果人様?

随分と思いつめた表情ね。自害なさるのかしら?」


放課後の廊下にて妖怪達の身の心配をする一郎を見て、鈴はくすくす笑い、彼に話しかけて来た。


「・・・ああ、鳴鐘か。

自害はしねえよ。残念だったな。」


彼女と視線を合わせ答える。

鈴は少し驚いた様子であった。


「え・・・あ、そう・・・。

(何だか、態度が丸くなって不気味ね・・・。

関わらないでおきましょう。)」


以前なら売女売女と連呼していた彼だったが、ここまで変わると不気味である。

鈴は、これ以上この異常者と関わりたく無いと離れて行った。


「(・・・入学式に喧嘩を売ってきて、返り討ちにした不良二人にも謝っていたし・・・本当に不気味ね。気持ち悪いわ・・・。

いつの間にか顔に大きな傷が付いているし・・・。)」






「(・・・明日でお別れか。

長いようで、短かったな。)」


一郎は夕日に照らされる登山道を歩き、山頂に向かう。

二週間にも満たない短い出来事であったが、それでも彼を少し変えたようだ。


山頂に立つ一郎。

妖怪達に囲まれた穴は、大きく、そして真っ黒になっていた。


「・・・あ、一郎君。

学校から帰ったんだね。どうだった?」


座ったまま彼に話しかける蓮華。

少ししんどそうだ。一週間も同じ場所にいるというのは非常に疲れるのである。

一郎は彼女達の近くに座った。


「・・・そうだなあ・・・地理の勉強が面白かったかな。

屋上から、色々見るんだよ。

今いるこの山も見えたぜ。」


空を見上げて語る彼に、嬉しそうに微笑む。


「ふふふっ。そっか!

・・・一郎君が楽しそうだと、私達も嬉しいよ。」


「ええ、その通りです。

私も、貴方が楽しそうだと、とても嬉しい。」


桜花も笑顔を見せる。

一郎はそんな彼女達に言った。


「・・・ありがとう。

・・・今日と明日は、俺も此処に残るよ。

見送りたいんだ。」







早朝、豪雨の中一郎は傘をさし、穴の完成を見守る。

渦巻く真っ黒な穴は直径2m程までに広がっていた。


「・・・こいつの渦が止まるまで妖力を込めたら、それで終わりだ。」


左手に傘を持ち、地面に敷かれたシートの上に座る黒蝋梅はやれやれと溜息をつく。

そんな彼に一郎は尋ねた。


「・・・後どれくらいで完成しそうなんだ?」


今度は黒蝋梅の代わりに葵が答える。


「ふふ・・・ヒヒヒ・・・あと30分も無いですよぉ・・・一郎様ぁ・・・。」


・・・疲れのピークか、彼女は随分と変わってしまったようだ。


「そ、そうですか・・・。

・・・済まない、桜花、蓮華。」


葵の言葉を聞き終えた彼は後ろに振り向き、暫く誰もいない方向を見つめていたが、顔を戻すと今度は桜花と蓮華に謝罪する。


「・・・ど、どうしたのですか?一郎。」


「う、うん・・・何かあったの、一郎君?」


当然、気になる二人。


「・・・時間稼ぎに、行ってくるよ。

遅れたら、ごめん。」


一郎はそれだけを言い、目の前から消えた。






登山道の中腹にて、頂上に向かい歩く少年が一人。

ギラついた目に、大雨に濡れた黒い髪。

爛々と目を光らせ、ただ無言で山を登るその少年は、四季光次郎であった。


そして立ち塞がるはもう一人の少年、静かに坂の下の光次郎を見つめている。

・・・一郎は、こちらに気づき立ち止まった光次郎に話しかけた。


「・・・よう、四季。

こんな大雨の日に山に登るのは感心しないな。

怪我するぞ。」


光次郎は無言で彼を睨みつけ、静かに答える。


「・・・お前もな、佐藤一郎。」


そして一歩踏み出した。


「・・・なあ、幼馴染としてよぉ、頼みがあるんだよ。」


彼は両手を広げ、大袈裟な身振りで話を続ける。

その腰には、二振りの短い刀が差されていた。





「・・・山頂、見せてくれねえか?」



「・・・へえ、どうして?」




一歩踏み出す一郎。彼のベルトには、木製の四角い鞘に入ったボロボロの剣鉈がぶら下がっている。



「いやさあ?

昨日の地理で見ちまったんだよ。

・・・お前の山、山頂に妙な奴いるよなあ?

夜に行っても良かったんだけど、つい準備してたら遅れちまって。」


嗚呼、随分と目の良い奴だ。

学校から山までどれだけ距離があると思っているんだ。


「妙な奴? 心あたりはねえよ。」


山頂には妖怪達がいる。ただ、妙な奴ではない。


「ああ、そうかよ。

・・・で、山頂行っていい?」


光次郎は更に一歩踏み出す。両手が腰の刀に触れた。


一郎はふむ、と考える。


「俺が『死ぬ』か『参った』って言えばいいぜ。」


腰の剣鉈の鞘に触れた。




「上等だこの魔物がああアアッ!!!!!!」


「・・・!!!」


大雨の中、二人は走り、武器を引き抜く。




「死ねェアアアッッ!!!!!」


二刀流で一気に距離を詰める光次郎。

そのまま両腕を突き出した。


「っ!」


だが、一郎は読んでいたようで、素早く彼の右側に回り込む。

そして剣鉈の峰を振りかぶった。


「あ"あ"あ"あ"あ"っ!!!!!!!」


光次郎は叫び、左手の刀で受け止めようとする。

しかし、衝撃は抑えきれずあっさりと彼の頭に直撃した。


「(分かってる! 分かってんだよ!!

こいつが異常に強い事ぐらい!!

俺じゃあ普通にやっても殺せる訳ねえって事ぐらい!!!

クソガキの頃から何度も何度も殺そうとして、失敗ばかりだったんだ!!!)」


痛みを堪え、気絶を堪え、光次郎は右脚を振り上げる。

ぬかるんだ地面を蹴り、泥が一郎の顔を掠めた。


「テメッ!」


目を塞ぐ一郎。

どうやら運良く目を潰したようだ。暫くは目を開けられないだろう。

光次郎は右手の刀を突き出す。


「死んじまえっ!!!!

このゴミ野郎がっ!!!!」


しかし、一郎は目を開けずに手ぶらの左手で光次郎の右手首を外側へ強く押す。

あっさりと彼の刀は空を刺した。


「(見えているのかっ!? 嘘だろう!?

目が見えていないんだろ!?)」


驚き、そして渾身の突きを外してしまったが為に彼は体制を崩してしまう。

その彼の顎に、綺麗に一郎の左膝が入った。


「おブぇっ。」


クラクラと倒れそうになる光次郎。

堪らず距離をとった。

それを『見て』すぐさま距離を詰める一郎。

再び剣鉈を振りかぶった。


「お、オオオオオアアアッ!!!!」


光次郎は叫びながら両手の刀で応戦する。

激しい斬り合いが始まった。

否、それは一方的な戦いである。

両手の小太刀では捌ききれず、彼の肉体には幾つもの打撲による傷がつき始めていた。


「(ふ、ふざけるなよ!!!

何でだっ!何で見えているんだよオイ!!!

お前の目には泥が入って、目を開けられないんだよなあ!!?)」


心中で叫ぶ光次郎は徐々に、徐々に山の入り口へと押されつつある。

しかし、これも一応予想していた展開の一つだ。

・・・一番嫌な展開だったが。






「・・・『殺れ』ッ!!!」


遂に入り口まで追い詰められた彼は大声で叫ぶ。

すぐさま山には三人の取り巻きの少年が入ってきた。

三人共、手には小型の斧を持っている。

錆びている訳ではないが、切れ味は悪そうだ。



「!」


しかし取り巻きが来る事を読んでいたのか、一郎は不意に距離を詰めると光次郎を蹴り飛ばす。

彼は背中から一人の少年にぶつかり、二人まとめてびしょ濡れの地に倒れた。


「し、四季さんっ!」


二人の少年が彼を心配する。

しかし光次郎は構うなと叫んだ。


「四対一か、卑怯だとは言わねえ。」


一郎は見えぬ目で冷静に二人を捉え、そのうちの一人の顔を殴り片手で捕まえる。

そしてもう一人の少年が振りかぶった斧を彼の背を盾にする事で受け止めた。


「うギぎゃアあぁァッ!!!!!!」


浅く少年の背に刺さる斧。

もう一人が必死に謝っているが、その謝る少年の首に回し蹴りを当て気絶させる。

これで二人が倒れた。


「斧持って襲ってきたんだ。悪く思うなよ。」


一郎はそう言い残し、光次郎の元へ走る。


「(ああそうかよっ!!! 多人数でもテメエを殺せないか!!!

やっぱり天才だなこのクソ野郎が!!!!)」


心の中で叫び、起き上がる。

泥だらけの刀を構えた。


「お前っ!!!よくもっ!!!」


しかしその時、彼の下に倒れていた最後の取り巻きが、手に持った何かを一郎にぶつける。

その瞬間、凄まじい轟音が一郎を直撃した。


「ーッ!!!」


彼は立ち止まり、苦しそうに耳を塞ぐ。

取り巻きの投げた特製の爆竹は、彼の『良すぎる』耳を一時的にだが、聞こえなくしたようだ。


「でかしたぁッ!!!!」


光次郎は嬉しそうに叫び、取り巻きと共に駆け出す。


「(このっ!野郎がっ!)」


しかし目も耳も使えなくなった筈の一郎は、取り巻きに向け走り、彼の顎を蹴り上げると再び先程と同じように少年を盾にして光次郎の小太刀に、その手に持っていた斧を腕ごと操り受け止める。


「ひっ!!!

た、助けて下さい!!!四季さぁん!!!」


叫ぶ少年。光次郎は無視して再び斬りかかろうと刀を振り上げた。


「!」


一郎はすかさず少年を突き飛ばし、彼にぶつける。

結果、斬撃を少年の両肩で受け止めさせた。


「イッギャアアアアアッ!!!!!」


血液を服に染み込ませ、叫ぶ取り巻きの少年。

光次郎は五月蝿いとばかりに殴りつけ、気絶させた。


「おいおいおいおいおい! 一郎ちゃんよお!

学校での丸くなった性格がすっかり変わっちまったなあ!!

やっぱお前は化け物だ! 怪物だ! 暴力に魅了された哀れな獣だ!

・・・あ、聞こえてねえな!」


彼は大声で挑発する。

しかし一郎は耳が潰れていて、更に大雨故に自分自身の声も碌に聞こえていないのだ。

声が届くはず無いと、彼は反省する。





「・・・化け物、怪物、好きなだけ言え。

・・・案外、それで正解かもしれねえからな。」


「っ!?」


返事をする一郎に、思わず飛び退いた。

やけに良く聞こえた気がする。


「(・・・嘘だろ!?

聞こえるわけねえだろ!?なあ!!)」


何だ、コイツは。

この人間擬きは、何だ。


「・・・振動だよ。

お前の口から出る、音の振動を身体で受け取っているんだ。

・・・心拍数が、上がったな。」


一郎は剣鉈を構える。再び彼は駆け出した。


「お前は俺に恐怖している。

・・・そうだろ?」


そう言って彼は今度は少し離れた所から泥を蹴り上げる。

先程、光次郎が彼にやったようにだ。

だがそう来るとは彼も分かっていたようで、恐怖を心の底に封じ込め、大きく横に逸れ泥を避ける。

再び激しい斬り合いが始まった。


「おいおいおいおい一郎ちゃんよお!!

(ああ、くそっ! ふざけんなよオイ!)

魔物に情でも湧いたかぁ!?

(隙を、隙を作らねえと。)

優しくされて勘違いしちゃったかあ!?

(効くわけねえ、魔物の事情知らねえし。)

頼りにされて嬉しいかあ!?

(駄目だ。俺の知る事で攻めねえと。)」


鉈の峰を喰らい、弾き、挑発しながらも、脳内を回転させる光次郎。

そして、彼の脳裏に一つの場面が浮かんだ。



「(・・・これしかない!!)

・・・お前、気にしてんのか!! そうだろ!

(そうさ、あいつは本質的には優しい。)

俺が殺した! あの蜘蛛女を!!

(心の底の性格は、変わらない!!)」



「ッ!

・・・ああ、そうさ。ずっと後悔しているよ。

・・・で、何が言いたい!」


僅かに眉が動く一郎。

彼にとって、深いトラウマとなっているようだ。

その証拠に斬り合いの中、明らかに動きが雑になる。

光次郎は息を大きく吸い込んだ。


「殺した時、気持ち良かった!!!!!

止めてくれなくてありがとう!!!!!!」


「・・・クソ野郎がっ!!!」


挑発には成功したようだ。

勝てると確信した彼は、怒り冷静さを失った一郎を刺し殺そうとしたが・・・。




「!!

(は? 消え・・・!)」



目の前から、先程斬り合っていた彼が消える。

そして、後頭部から鈍い音が鳴った。



「がっ・・・。」



両膝が地に着く光次郎。



気がつくと、彼の耳には雨の音以外何も聞こえなくなっていた。

一郎は去ったのだろうか。


「(あいつ・・・何処へ・・・どうして・・・。

こんなにやっても・・・相手にすら・・・。)」


だんだんと暗くなる視界に、やはり一郎はいない。

彼は悔しそうに唇を噛むと前のめりに倒れた。

四季光次郎 人間 (12歳)

通り魔の家の生まれ。生き物を殺害する事に興奮する。

作中一番の努力家。目が良い。一郎が嫌いで好き。


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