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一子

「・・・なるほど、それが穴か。」


山頂にて一郎は妖怪達に囲まれた、その中心を見つめる。

黒い直径10cm程の小さな穴が地面に開いていた。


「ああ、こいつが穴だ。

・・・やはり時間はかかるな。」


答える黒蝋梅。少し疲れている。

隣に座る葵は目も虚ろだ。更に隣に続く桜花、蓮華、柊達は時折眠ってしまっている。



「・・・まあ、俺は大した助けにはなれないから、頑張ってくれとしか言えねえな・・・。

・・・少し用が出来た。俺は離れるぞ。すぐに戻るけど。」


一郎は遠くを見つめ、そして山を降りて行った。


「ああ、またな。」


黒蝋梅も特に言及する事は無く、穴の作成を続行する。





「(・・・妖怪達も体力を消耗している。

まあ昨日の説明の後、すぐに開始したから当然といえば当然だけどな。)」


一郎は山を下りながら頂上の妖怪達の事を考えていた。

この用が終わり次第、水と食料は届けた方が良いだろう。


「(俺がもう少し、しっかりした性格なら今頃蜘蛛の妖怪は・・・。)」


そして彼は表情が暗くなる。

彼には最初に見た妖怪である蜘蛛の彼女の事がどうしても忘れられないのだ。

彼はずっとずっと後悔しているのである。

助けられた命を見捨ててしまった。

その事が、元から暗い性格であった一郎を更に表情まで暗く変えてしまうのだ。


「(ああ、これは正しく『罰』だ。

俺は罰を与えられたのだ。

・・・親を嫌い、周りの人を嫌い、自分を理解してくれないとガキみたいに駄々をこね・・・自分から進んで人と関わろうとしなかった・・・困っている人を見ても、助けた後の俺を見る目が怖くて、それ以来、人を助ける事なく・・・逃げていた罰だ。

・・・ああ、でも、それでも俺は・・・。)」


彼は幼少期の歪んだ環境から、非常に否定的な性格になってしまったようだ。

桜花達と話す時は、なるべく表には出していないが彼の本性はこのような暗いものである。


「(・・・これ以上後悔したくないんだよ・・・。)」


いつの間にか俯いていた一郎は顔を上げ前を向く。

前方、山の登山口にはよく知った顔の少年が驚いた表情で立っていた。


「・・・へぇ。

やっぱり佐藤はお前だったか!

なあ、一郎!!!」


「・・・四季、やっぱりお前だったか・・・。」


嬉しそうな光次郎、それに対して一郎は全くの無表情だ。

しかし光次郎は気にする様子もなく、逆に一郎の頭に巻かれた包帯を見てゲラゲラと笑い始める。


「なになになにっ!?

お前! まさかお前怪我したのかよっ!!?

ギヒッ!ヒヒヒヒヒッ!!!

お前程の異常な奴が、怪我するって!

あ、頭! おかしいだろっ!!!

ヒヒッ! ケケッケケケケケ!!」


彼は笑いのあまり腹を抱えて蹲った。

バンバンと地面を叩く彼に、一郎は静かに告げる。


「・・・海岸でな、魔物にやられたんだよ。

いや、強かったぜ。

・・・で、用は何だ? 魔物は残念ながら此処にはいなかったぞ。

一緒に確かめるか?歓迎するぜ。」


彼は光次郎に妖怪はいないと嘘をついた。

・・・このような嘘で彼に効くのかと一郎は少し心配するが・・・。


「は? お前と一緒に行くわけねえだろ?

頭いかれてんのか?

俺はお前と違って忙しいんだよ。

魔物もいねえのに用なんてねえっつーの!!!

バーカ!!!死ね!!!」


彼は基本的に一郎をライバル視しているらしく、そして異常に彼を嫌っているのだ。

魔物のいないこの場所に興味を無くしたようで、後ろを向き去って行く。


「ああ、そう。」


一郎も適当に返事をして、山の中に戻ろうと思ったが・・・。


「なあ、魔物がいねえってのはよ。」


突如立ち止まり振り向く光次郎。

お互いに向き合う形となった。



「・・・。」



「・・・・・・。」




沈黙が続く。





「『母親』にも誓えるのか?」




光次郎はそこだけがどうしても聞きたかったらしく、彼に尋ねる。



「ああ、誓えるぞ。」


平然と答えた。



「・・・ああ、そうかよ。邪魔したな。」


再び振り向き、歩き去って行く光次郎。

もう聞きたい事は無いようだ。

一郎も山の頂上まで歩いて帰って行く。

その途中、登山道にて見つけた石を本気で蹴り飛ばした。

石ころは高く舞う。


「(・・・誓いたくもねえっ!!!!!

あんな奴!!あんな奴っ!!!!

クソクソクソクソクソッ!!!!!!!

ふざけるな!ふざけるなふざけるな!!!!

四季っ!!お前は大嫌いだっ!!!

テメエは人の嘘を確かめる為に(おぞ)ましい事を平気で考えやがる!!!

母親に誓えだと!? 妖怪がいなければ殴るじゃ済まさねえぞクソがッ!!!!!

あんな奴に誓えるわけねえだろうが!!!)」


平然と答えたが、どうにもキツかったようで彼は久しぶりに怒りの感情を爆発させた。

しかし顔はずっと無表情のままなので不気味である。

感情の発散が苦手な彼は、しかし決して表に出さぬよう気を使って山頂へ戻って行った。






「(・・・ありゃあ、多分本当だな。

一郎の性格を考えたら、虐待女に嘘を誓える筈は無い。)」


意外にも心は冷静な光次郎。

彼は帰り道で一郎に対する考えを進めていた。

一応一郎の家庭の事情も知っているらしい。


「(あの山には魔物はいねえ。

そんな事は態度で充分に分かっちまう。

・・・ああ、残念だなぁ一郎。

もし『お前が魔物を隠している』とかなら、大義名分でお前をブチ殺せたのに。)」


一郎の心を殺した嘘に気づかなかった彼は、がっかりしながら帰り道を歩く。

しかしそれでも、彼は随分と近い推理が出来ていたようだ。


「(お前と最初にやった魔狩り・・・あの時魔物の死体で遊んでいた俺を、お前は無意識に憎悪の目で睨みつけていた。

・・・最初は、俺とした事が、異常な奴を見たという目だと勘違いをしていたよ。

そうさ、お前は意外にも優しい性格をしている。

案外、人の言葉を話す気色の悪い魔物に、情でも移っちまったんじゃねえかと思ったんだけどなあ・・・。

ああ、ハズレ、か。残念。

結局、ただ学校サボって別荘に引きこもっていただけか。)」


川沿いを歩いて帰る光次郎。

折角学校をサボってきたのに、これでは意味が無い。


「(・・・あるいは・・・。

『心を殺してでも魔物を助けたかった。』

・・・考えすぎか。

幼馴染だが、仲は悪いからなあ・・・互いの事をあまり知らねえんだよなあ。

ああ、一郎を殺したかったなあ!!!!!!

魔物を殺したいなあ!!!!!)

・・・クククッ! ケケケケケッ!!!!!

ゲッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!!」


彼は大声で笑いながら、楽しそうに帰って行った。







「(・・・ああ、全く・・・。疲れたな。)」


別荘に戻った一郎は窓から山頂の方を見上げる。

もう少し休んでから行こう。彼は椅子に深く腰掛けた。



「・・・学校は、お休みなの?」


急に真後ろから話しかけられ、ほんの少し驚く一郎。

しかし、よく知った声だった為、すぐに落ち着きを取り戻した。


「・・・一子、お前学校はどうした。」


「お兄ちゃんが、それ、言う?

いつの間にか包帯なんて巻いちゃって。ふふっ。」


少女はくすくす笑う。

彼女は一郎の妹の一子(イチコ)

姉の一葉と見た目がそっくりである為、よく双子と間違えられるようだ。

恐らく、一郎が頂上にいた間に別荘に着き彼を待っていたのだろう。


「俺はあれだよ。創立記念日とか何かそういうやつ。

・・・怪我は派手に転けたんだよ。」


再び彼は窓の外を見る。晴れた空だ。


「転けるなんて、珍しい。

・・・にしても、四日も連続で創立記念日?

うっそだあ。」


一子は大袈裟な反応をして、またくすくす笑った。

一郎は面倒臭そうに窓から視線を外し後ろの妹へ振り返る。


「・・・ああ、嘘だ。

で、お前はどうしてこんな所に来たんだ?」


別に見る物も無いこのような山に、虫嫌いの彼女が来るとは思えない。

聞かれた彼女はまた楽しそうに笑う。


「ふふふ・・・そんなの、貴方がいるからに決まっているでしょ。」


そう答え、少し彼女の雰囲気が変わった。

熱のこもった目で彼を見つめると、少し前かがみになり椅子に腰掛けた彼の首筋に手を伸ばす。

愛おしそうにそれを撫でた後、今度は彼の胸板に手を這わせ、顔を彼の後頭部に近づけた。

丁度後ろから抱きつくような形になる。


「・・・ねえ、お兄ちゃん・・・。」


「痛え、首を噛むな首を。」


ガリ、と少し嫌な音と痛みを感じ、一郎は妹を注意する。

・・・頻繁にやられる為、この程度の忠告で止めてくれるとは思っていないが。


「・・・雪花と仲良くなれそうだな、お前。」


「・・・誰、その女。」


首筋を流れる血を舐めていた一子は、その行為を止める。


「・・・あー・・・知り合いだよ。

お前と似た性格してそうな子。

・・・まあ、お前ほどドロドロしていないけど。」


彼の脳裏に映る化け猫の兄妹。

その妹の雪花は、兄である水仙に異常なほど懐いていたのだ。


「・・・ふーん・・・知り合い。」


少し気になったようだが、それ以上彼女が言及する事は無かった。

絡めていた腕を解き、立ち上がる。


「・・・まあ、『印はつけた』し、今はいいかな。

・・・お兄ちゃん? あまり女の子を沢山側に置くのは駄目だよ?

お兄ちゃんの身体から、厭な雌の匂いが随分したから・・・ね。」


そう言い残し、手をひらひらと振って彼女は去って行った。

どうやらもう山に用は無いらしい。


「(・・・まあ、山頂へ行かねえなら何してくれようが良いけどさ。)」


一人だけになった部屋で、一郎は唾液と血に濡れた首筋を拭く。

彼は自分を妙に熱のこもった目で見てくる彼女に、少し複雑な気持ちであった。


「(そういや、姉さんも兄さんに似たような事よくしてるよな・・・。

何処で覚えたんだか。全く・・・。)」


そもそも、普段は幼く見える一葉もよく一波には年齢以上の女の顔をして何やらしている為、まあこんなものかと一郎は考える事を中断する。


「(・・・ 戻るか。)」


彼は立ち上がった。

ちょっと危ない人間が多いです。



佐藤一子 人間 (11歳)

一郎の妹。見た目は一葉とそっくり。

兄である一郎を異常な程愛している。



佐藤家

腹違いの兄妹が禁忌を犯し、一波達が産まれた。

その影響か、長女と次女は危険な考えを持っている。

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