ママチャりん
ママは今日も自転車をこいで近所のスーパーへ。
その間ぼくはお留守番。
パパはいないから、一人でお留守番。
ドンドンドン!
「坂口さぁん。いるんでしょう?」
ドンドンドン!
ドアがノックされるこのリズムが、ぼくは好き。ドアの向こうにいる人は、嫌い。ママに乱暴するから。
パパは家から旅立つ前にたくさんの〝お金を置いていってくれた〟らしくて、それで悪い人がそのお金目当てに家に来るんだって、ママが言ってた。だからドアは絶対に開けちゃいけないんだ。パパがぼくたちのために置いていってくれたお金を全部盗られちゃうから。
「いるんだろう!? 坂口ぃぃ!?」
あと返事もしちゃダメなんだ。悪い人に言葉を返すと、郵便受けが開いてドアの向こうから中を覗く悪い人の目ん玉の中に吸い込まれちゃうんだって。
ママは物知りなんだ。
悪い人がいなくなってしばらくすると、駐輪場の方で音がした。ママが帰ってきたんだ。
「ただいま」
「おかえり」
ぼくはママに駆け寄る。それから学校の帰りに自動販売機のおつりのところで見つけた100円玉を、「ママ」と呼びかけてから玄関脇の貯金箱にいれてみせる。
「へへ」
「ありがとう」
ママはぼくの頭を撫でてくれる。貯金箱にもっといっぱいお金を入れて、もっともっとママに喜んでもらうんだ。
でも……ぼく本当は知ってるんだ。パパはもう帰って来ないし、ママもすごく辛いんだってこと。悪い人たちはヤミ金ていう組織の人で、お金を盗りに来てるんじゃなくてお金を返してもらいに来てるってこと。
「ママ」
ぼくは今日もそう呼びかけてから貯金箱に拾った小銭を入れる。
「へへ」
「ありがとう」
ねぇママ。あといくらチャリンすればいいの?




