目指すはグリーンブリッジ
よく晴れた冬の朝、小さな島の港から一艘の漁船が出港した。
「アシロにぃー!いってらっしゃぁーい!!」
港から、アシロの妹が寒さに耐えながら親と一緒に手を振っている。
アシロは軽く手をあげて、港が見えなくなるまで甲板で島を眺めていた。
船の上ではカモメが飛び交い、船員から餌をもらっている。
アシロ・ルドル、18歳。
アシロは、世界で唯一6つの国にも所属していない、アルドリアール島に生まれた、“異能者”だ。
いや、“異能に覚醒した人間”の方が正しいのだろうか。
14歳まで普通の男子として育ったアシロは、15歳の誕生日に異能に目覚めた。
異能者はこの世界に6人しかいないとされていて、まさか自分が異能者になるなんて思いもしなかった。
正直怖かった。
異能者なんて遙か彼方の存在だったのだから。
アシロの異能は定まっておらず、日によって違ったり、時によって違ったり、意識せずとも勝手に力が出ることもあった。
こんな力何に使うのかもわからないまま、2年の年月が経つ。
ある日、ほんの一瞬だった。
目の前で幼馴染の足が焼けた。
たき火をしようと、異能で火をつけようと試みると、力が思い通りにいかず、思ったよりも広い範囲に火が燃え上がった。
砂浜だったので周りに被害はなかったが、アシロの近くにいた幼馴染は大火傷。急いで医療院に連れて行き、診断結果は最悪だった。
幼馴染はアシロのせいで歩けなくなり、手術で義足になった。
大丈夫、お前は悪くない、幼馴染はそう言ってくれたが、アシロは罪悪感でいっぱいになり、異能を使わなくなった。
しかし簡単に異能は収まらない。
意識せずとも、使いたくなくても、異能は勝手に外に出る。
そんな時、引きこもりがちになったアシロに、父が持ちかけた話が、“異能者に会いに行き、情報を得て異能を消滅させるか、コントロールができるように修行に行くか”だった。
どうやら、異能の情報は、6人の異能者のうち一人一人が違う情報を管理していて、消す方法もその中にあるとの話。
アシロは決心をし、6つの国を訪れることにした。
荷造りをして、アシロはアルドリアール島から一番近い「グリーンブリッジ」を目指して島を出た。
それがただ今、よく晴れた冬の朝のことだった。