我が家侵入
「さて、」
自分ん家の前まで到着して明日香の方に振り返る。
「俺、家に着いたんだけど明日香はどうすんの?」
まぁ、家に着いたのでさっさと帰ってくれという意味を含ませての言葉だ。
「ここが孝太の家?」
俺の家に指を指して聞いてくる。正確に言うと、俺のお父さんが頑張って25年ローンで購入した2階建ての一軒屋である。当然まだローンの支払い途中ではあるが、(お父さんの)誇りと思い入れの詰まった家だ。
「小っさ。物置小屋かと思ったわ」
「やかましい!」
だが、所詮大富豪のお嬢様から見れば物置小屋レベルらしい。お父さん、ドンマイ!俺は感謝してるぜ。
「それじゃあアンタ達は車の中で待機。追って指示するわ」
「YES、お嬢様」
明日香が黒服に指示するといつの間にか家の向かいの電柱の方に停められてた黒い高級車に乗り込んで行った。
「じゃあ入るわよ」
そう言うと玄関の方へスタスタ歩いてインターホンを鳴らした。
「え?あれ?明日香さん?」
状況が飲み込めずボーゼンと固まってる所に扉が開いた。
「なんだ~孝太、家の鍵忘れたのか?...え?」
家の扉を開けた父は同じく帰宅したばっかのようで、背広を脱ぎネクタイを取った姿だった。時間的にも来客人が来るとは思わなかったらしく、俺だと思って扉をあけた所目の前に知らない美少女が立っていたのを見て固まってしまった。
「はじめまして、お父さん。私琴宮財閥、琴宮十郎太の次女の琴宮明日香と申します」
態度と言葉遣いがまったく別人のようになった明日香に我が父は突然の偉い所のお嬢様の訪問に「えっ!?えっ!?」と混乱していた。
「突然の訪問申し訳ありません。私、翁孝太様とは親しくさせて頂いておりまして、本日孝太様からとても大きなご恩を頂きましたのでお礼を兼ね挨拶をしに伺いさせて頂きました」
「えっ!?」
今度は俺の方が混乱した。
「そういう事でしたか。孝太、でかしたぞ!たいしたお持て成しも出来ませんが、どうぞお上がり下さい」
「ま、待てぇーーーいッ!」
ハッと我に返り明日香を呼び止め耳元に寄った。
『なんだよ!大きなご恩って!?それに親しくって今日初対面の上、会話したのついっさっきだろ!?』
「さっきの貸しの事よ」
『貸しったって、たかがお菓子1つだろっ!なんで命の恩人みたいなニュアンスになってんだよ!』
「こうでも言わないとアナタの家に入る口実が出来ないじゃない。もっと喜んで良いわよ」
『いや、喜ぶもなにも彼女居るし困るよ』
「知ってるわ。でもアナタの身辺調査は必要なのよ」
『…な、なんだよ身辺調査って』
「コラッ孝太!いつまでもお嬢さんを玄関先に置いとくものがあるか!さっさと居間へお通ししてお茶を注いで来なさい!明日香さん、どうぞ」
「はい。失礼いたします」
肝心な所で父に遮られ大事な事を聞きそびれた。
渋々俺も家の中へと続く。
◇ ◇ ◇
リビングから父と明日香の笑い声が聞こえる。すっかり打ち解けたみたいだ。俺はキッチンでお茶を淹れるお湯を沸かしてる。
「明日香ちゃん、よかったら晩御飯も食べて行きなさい。孝太が作ってくれるから」
「ありがとうございます。よろこんで頂きます」
「それは良かった!腕に縒りをかけて作るからね!孝太が」
「楽しみですわ」
なんで息子頼りなんだよッ!!
「ほら!孝太、明日香さんも夕食食べていくそうだから美味しい晩飯作りなさい!」
「孝太、美味しいのを作りなさいよ」
「こんにゃろう!食うならお前も手伝えよ!」
「バカ野郎ッ!明日香さんはお客様だぞ!お前1人で作りなさい!迅速にな」
「そういう事ですわ!」
「くっ、へいへ~~い」(にゃろう!いつか覚えてろよッ)
二人にお茶を出しつつ心の中で毒づきながら夕飯の支度を始める。
「はっはっはっ。明日香さんは本当に素晴らしい娘さんですな。流石お父上の教育は素晴らしい!孝太なんかにはもったいない」
「とんでもない!孝太さんはとっても思いやりのある立派な男性ですわ。これもお父上の教育の賜物です」
「まあ、孝太は俺の背中を見て育ったからな。男としてレディに思いやりを施すように育てて来たつもりだ。ウチの馬鹿息子で良かった是非もらってやってくれ」
「ありがとうございます。最有力候補に入れときますわ」
(なにが「俺の背中を見て育った」だよ!テメーのだらしない寝姿しか見てねーよ!)
「ってか、アホ親父!なにサラっととんでもない事言ってんだよッ。お前も心にも無い事言ってんじゃねーよ」
「嫌だわ。孝太がどうしても私に尽くしたいと言うのならお婿に迎えるのもやぶさかじゃないわ」
「よかったじゃないか孝太!今日は赤飯を炊きなさいッ!」
「じょ、冗談じゃねーよッ俺には美雪が居るんだかんな!」
「あ~、そう言えば生意気にも彼女なんか居たな~」
「大丈夫ですわお義父様、孝太は私に照れているだけなのです。時間の問題ですわ」
「そうだな!孝太はヘタレだしな!はっはっはっ!」
(くっ、2対1じゃとても勝てんッ。せめて玉ねぎを大量に切って泣かせてやろうか…)
「こらっ孝太!ちゃんと換気扇をつけなさい!」
(ちっ!)
こうなったらさっさと食って帰ってもらおう。そう思いながら玉ねぎを刻み始めた。
◇ ◇ ◇