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灰かぶりの魔法使い  作者: 山崎空
1.ひとりからふたり
3/21

魔法使いになるまで03



 アルバイト三昧な高校生活ともおさらばする頃――つまり私が大学に合格し一人暮らしもめでたく決定して密かに浮かれていた頃。


 本当に久しぶりに見た幸は、最初に会った時の愛され美少女ぶりが信じられないほど、地味で暗くなっていた。

 

 別人かと思った。でも違った。本人だった。


 改めて母と姉を恐ろしいと思った。いや、彼女達はもう私の中では赤の他人。あの人達と呼ぼう。


 私服もとにかく地味で、全然似合ってない服を無理矢理着てるみたい。

 まさにシンデレラ。

 まあ、あの人達ばかりを悪く言えないだろう。苛められていると知っていながらまったく無関心だった私も同罪だ。


 実の娘がこんなに変わっても、まだ彼女の父親は気がつかないのだろうか?

 最近役職が上がったらしい幸の父親は、出張続きでろくに家にいない。私と同じで彼女にまともに会っていないだろう事は想像がついた。


 お陰で幸の家だった場所は魔女とその娘にすっかり掌握されている。


 まあ本当に彼女がシンデレラなら、この先魔法使いが現れて助けてくれるはず。

 そう思った後、私はまた幸の存在を忘れた。

 

 

 そして大学に進学して一年。

 

 煩わしい存在がいない生活と言うのは本当に素晴らしかった。

 何ていうか初めて呼吸ができた気分だ。

 高校時代ほどバイト漬けになる事もなく、私は程ほどにバイトしつつ日常を楽しんだ。

 多分何かを楽しむというのは初めてだと思う。


 蓋をしめられた段ボール箱の中からようやく出て外を見たような、そんな新鮮さがあった。


 一人暮らしにもすっかり慣れたある日、ふと幸の事を思い出した。


 果たして彼女を助けてくれる魔法使いは現れたのだろうか?


 一度気になりだすと収拾がつかなくなってきた。

 本当に魔法使い的な人間が現れていた場合、見に行けば確実に何らかの火の粉が飛んでくるだろう。

 それでもやっぱり気になる。

 一人暮らしで少し心に余裕ができたからかもしれない。


 私は次の休みの日に、二度と帰る気のなかった家の敷居を踏んだ。






 ――結論から言うと、魔法使いはまだ現れていなかった。


 幸は高校に入学する手前で、家から遠くの学校を受験したため、一人暮らしをするか寮に入るか云々の話で少しあの人達ともめていたらしい。

 合格した後、本来ならちゃくちゃくと進んでいなければならない幸の入学準備は、中学を卒業してもまったく進まず、すっかり滞ってるようだった。

 一人暮らしは父親が心配だから反対していて、限られた部屋数の寮に入るには別途お金を納めなければならないらしく、あの人達が色々渋ってるそうだ。もちろん、一人暮らしも寮よりお金がかかるので結局ダメらしいが。

 つまり、そんな遠い高校になんて入学は認めない、という事らしい。


 そこにひょっこり現れた私である。

 正直間が悪かった。

 幸の受けた私立学校が、私の一人暮らしをしている部屋から比較的近いのも悪かった。

 幸の存在はあっさり私に押し付けられた。

 つまり私の部屋から通え、と魔女は言ってきた。逆らうと後で本格的に縁を切るときに面倒そうなのでさっさと頷いておいた。

 

 幸はその話の間、何にもしゃべらなかった。

 ただ決定した事に一つ頷いただけ。

 一度もこちらを見ることもなく、話が終わると部屋に戻ってしまった。


 ――魔法使いが、もしくは助けてくれるものが現れなかったら、シンデレラの結末はどうなっていたのだろう?


 幸の事を思い出した時のように、また、ふと気になった。


 ――このままだと幸はどうなるのだろう?


 心の問いかけに答える声はない。


 昔は笑っていたのに、全然笑わなくなった少女の姿を思い返す。

 

 この状態から逃げることを考えているならまだいい。もしもそれすら考えるのを放棄していたら、幸の未来は完全に蓋を閉められたダンボールの中だ。

 ――私のように。


 幸が私の身代わりになった、とは思わないが、少なからず幸のおかげで自由になった部分あるのでなんともいえない。


 心に少しだけ余裕ができた私は、本当に少しだけ幸の事を考えてみた。

 ほとんど話したこともない、ぶっちゃけ赤の他人の幸の事を。


 嫌いではないけど、好きでもない。

 でもこれから一緒に暮らさなければならない。だったら関係は良好なものを築いたほうがいいだろう。魔女とその娘みたいに苛めて優越感に浸れるわけでもないし、苛める趣味もない。


 なにより幸がこの先、シンデレラのエンディングを迎えられるのかも、気になるし。


 つらつらと考えて、うん、決めた。と一つ頷く。


 ――魔法使いが現れないなら私が魔法使いになってしまえばいい。


 

 出した結論は、そう悪いものでもないような気がした。 



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