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灰かぶりの魔法使い  作者: 山崎空
1.ひとりからふたり
14/21

王子様は誰?04



 了承の返事を送りなおしたら、すぐに手伝う仕事の予定が送られてきた。

 就業は朝八時半から夕方六時まで。奉仕内容は主にお守りやお札、おみくじなんかの授与で昼食がつくようだ。

 しっかりお給金ももらえるらしい。詳しい金額は知らないが、私の場合はバイトというより黒崎を助けてやる意識の方が強いので、その辺はどうでもいい。

 

 終わったら黒崎が色々おごってくれるらしいのでそれだけでいい気もする。

 何をおごってもらおうか今から考えておこう。

 一応二十九日に、もっと詳しい奉仕内容を教えてもらえるらしい。黒崎の実家は大学からは二時間、我が家からも同じく二時間ほど離れた街にあり、電車やバスを使った行き方を教えてもらいはしたが、当日は黒崎が駅まで迎えに来てくれるそうな。


 ってか奴は車に乗れたのか。今初めて知った。




 予定が確定した年末は、それこそ駆け足をするように過ぎた。

 

 今年のクリスマスも、去年と同じく幸と二人きり。そもそも私がクリスマスなんぞを祝ったのは去年が初めてだ。


 クリスマスというのは他人がプレゼントを貰うのを見ている日だと思った子供時代。

 大概プレゼントは三個ぐらいあって、姉が選ばなかった残り物が次の日私の元にきたが、数日後すぐに姉に取られてなくなるのが常だった。

 取られた残り物のプレゼントは人形だったり本だったり。母――魔女に言ったところで譲ってあげなさいと言われるのが落ちだ。父は二、三回程注意してくれたけど、姉はいう事を聞かないし、魔女が怒るのですぐに言わなくなった。

 そうして取られたプレゼントは、大抵数日で姉に忘れ去られた。けれど、もういらないのかと引き取りにいったら返してもらえなかったので、私が欲しがるとまた欲しくなるのだと理解してから、もうプレゼントの事は諦めるようになった。

 父が死んでからのクリスマスは、魔女が働きに出ていたので忙しく、特に祝うという事はなかった。

 でもクリスマスのたびに姉の小物が増えていたから何か買ってもらってたんだと思う。


 当時の我が家では姉が正義。それでクリスマスに思い出ができるわけがない。


 世間一般のまともなクリスマスを知らない私が、正直まともにクリスマスと祝えるとは思ってなかっが、スーパーのパートさんとかに聞いて、幸のために色々頑張った。そうしたら、なんだか頑張りすぎたらしい。初めて自分で用意したクリスマスは、二人で食べきれないほどの料理がテーブルの上にのって、冷蔵庫ではホールケーキがスタンバイ。結構安く売ってたミニツリーランプは部屋の隅に。プレゼントも二つ用意したら幸に笑われた。

 

 泣き笑い、だった。


 あの入学式の大泣きほどではないけれど、幸は私が行事を祝うたびにちょっと泣く。

 私はそのたびに失敗したかと焦るわけだが、幸曰く嬉し泣きらしいので問題ないらしい。けれどいきなり泣かれる側としては、そう言われても放っておけるわけがなく。結果、泣く幸を慰めることにすっかり慣れてしまった自分がいる。



 今年も去年と同じくミニツリーを部屋に飾って、料理の品数は少なめに、ケーキだけは去年より豪華にしてみた。

 サイズは一回りほど小さいのに値段は去年の二倍である。飾りつけもその分多い。ネットの口コミでおいしいと評判のお店でかなり前から予約しておいた一品で、もちろんその辺の話は幸には内緒だ。

 予め同じ店の他のケーキを買ってきて、幸と一緒に食べてみた結果、反応が良かったのでそこにしたのだ。


 ケーキは思惑通り幸に気に入られたらしく、大絶賛だった。私も食べてみたが美味しかった。クリームと冷たいスポンジが絶妙で、間の甘酸っぱいムースと果物が甘さをさっぱりと仕上げてついついフォークが進む。乙女にとっては魔のケーキだね、といいながら二人でふた切れずつ食べてしまった。


「来年も、その次も、ずっと先もこうして北斗ちゃんとクリスマスを祝えたら、いいな」


 幸のその呟きに、私はもちろんにっこり笑って答える。


「もちろん。幸がしわくちゃのおばあちゃんになっても祝ってあげる」


 可愛い幸の願い事は全て叶えてあげたい。

 私は、幸を幸せにする魔法使い。本当に魔法は使えないからできる事は少ないけど、幸の笑顔をずっと守る人間でありたい。


 彼女が望む限りずっと。

 幸がいつか私を必要としなくなる、その日まで。




 * * *




 そして十二月二十九日。

 黒崎の実家にて当日の仕事の段取りや袴の着付けの仕方などを一日で詰め込んだ。私は三日とも特設された授与所でお守りやお札を渡すだけでいいらしい。お守りやお札の値段を覚えるために、黒崎が一覧表を作ってくれたらしく帰りに貰って帰った。試験の内容を覚えるよりは楽そうな暗記だ。

 ちなみに、帰りは家まで黒崎が車で送ってくれた。

 急な欠員でよっぽど大変だったらしく、助っ人の私は黒崎の家の人にも大歓迎されてお土産も一杯もたされたので、正直ありがたかった。


 三十一日、大晦日は幸と二回目の年越し。

 テレビの中で除夜の鐘が鳴るのを聞きながら、今年初挑戦した年越しそばを二人で食べた。ちょっとつゆがしょっぱかったので、来年はもう少し味を研究してから作ろうと思う。うん、さっそく目標がひとつできた。


 そうこうしているうちに時計の針が零時になる。

 その瞬間はいつも何だか寂しいような気分になる。

 過去になってしまった一年の時間と、新しくくる一年の時間とが交差するからかもしれない。


 今年も幸が笑ってられる日常でありますように。

 黒崎の神社と後日幸と行く神社でも目一杯お願いするつもりではあるけれど、別に何回祈ったっていいだろう。


 ……黒崎との友情も続きますように。

 ついでにもう一つ、祈っておいた。



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