覚えときな!
理科室の開いた風穴。
そこから、生徒達が呆然と中庭を見下ろしていた。騒ぎを聞きつけたのか、廊下の奥から足音が近づいてくる。
きっと学校関係者だ。
それでも、華は逃げなかった。
女子生徒を抱えたまま、教室を見下ろす生徒達を――睨み返した。
「いつもなら逃げるんだけど」
ぽつりと呟く。
「今日はまだ、ちょっとやることがあるんだ」
華は立ち上がった。腕の中には、気を失った女子生徒。
そして教室を見上げる。
「……付き合ってくれる?」
冷は一瞬だけ華を見て、
すぐに何をするつもりか察し、眉がふっと緩む。
「いいよ」
華が笑う。
「ありがとっ!」
そういって華は軽く屈み、飛び上がる。
フワっと空いた風穴から2階の理科室に再び入り、後に続いて冷もやってきた。
生徒達は驚いた様子で身を引く。
「さっきの続き、しよっか」
生徒達が固まる。
華の声には、圧があった。
「今私達が戦ったのは、影喰。憎しみを増幅させて、絶望の濃い人間に寄生して……姿を変えて暴れる。心を食って、壊して、最後は人ごと乗っ取る」
一歩、踏み出す。
「さっきのは、この子の中にあった絶望が形になった姿だよ。誰がそこまで追い込んだ?アンタ達だろ!」
華の眼には、怒りの色が籠っている。
「自分たちの小さな価値観で!誰かを傷つけていい理由にはならないんだよ!」
奥歯を食いしばり、一言添える。
「弱いから泣くんじゃない」
生徒達を睨む。
「泣かせる方が弱いんだよ!」
華が抱きかかえている女子生徒に視線を落とす。
「この子は、ちゃんと生きていい」
華は顔を上げる。
「覚えときな!」
拳を握る。
「誰かを壊す遊びは――”アイアンガール”が絶対に止めに来る!」
理科室の風穴から静かに風が吹き抜ける。
誰も言葉を発することができなかった。
誰も、もう笑っていなかった。
――その時、廊下から足音が響く。
「先生来たね」
「うん!」
華と冷が風穴の淵に立つ。
「またね」
ふわりと跳ぶ。
教師が理科室に飛び込んできたとき、
そこにはもう誰もいなかった。
残されたのは、机と椅子が散乱し、天井や床がボロボロになった理科室。
外の景色が見えるほどの大きな風穴。
そして――
気を失っている女子生徒だった。
その日、理科室で何が起きたのか。
生徒達は誰も、うまく説明することができなかったという。
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