二人の戦士
次の瞬間。
「うわあああああああああああああ!!!」
女子生徒が絶叫する。体が大きく反り返り、制服の内側から何かが膨れ上がる。
――バキッ。嫌な音と共に、胸元から黒い触手が突き破った。
血飛沫が散る。生徒達の悲鳴が理科室に響く。
「な、なんだよこれ!?」
「バケモノ……!?」
女子生徒の体内から、ゆっくりと浮かび上がる。
黒紫の水晶。それを中心に、無数の黒い触手が蠢き始める。
触手は女子生徒の体を包み込むように絡みつき――飲み込んだ。
更に膨張を重ね肥大化。
ドゴォン!っと理科室の天井を突き破り、コンクリートが砕け散る。
床のタイルは沈み込み、机や椅子が弾き飛ばされる。黒い触手の塊は、さらに巨大化しながら形を変えていく。
女子生徒の姿は、もうどこにもない。
そこに立っていたのは――巨大な影喰だった。
「この子……!」
「華!」
後ろから冷の声が聞こえ、振り向く。お互い、深く頷いた。
「全員教室から出ろ!」
華は大声で避難を促す。
しかし生徒達は――動かない。
いや、動けないでいた。
影喰の圧倒的な迫力に足がすくみ、悲鳴すら出ないまま立ち尽くしている。
触手が床を叩き、理科室の机を弾き飛ばす。
ガンッ!とガラス器具が割れ、破片が散る。
「まずい、冷!」
「なにー!」
「あの煙玉みたいなのある!?」
冷は一瞬きょとんとした後、すぐ理解し。ポケットを探りながら答える。
「あるけど、ここで使うの!?」
影喰の触手が天井を薙ぎ払う。
ドゴン!!コンクリートの破片が落ちてくる。
華は歯を食いしばった。
「このままだと全員やられる!あれやろう!」
「お、おっけぇ…!」
冷は小さくため息をついた。そしてポケットから小さな金属球を取り出す。
「いくよっ」
パキンっと弾ける音。
次の瞬間——ボンッ!!
白煙が爆発的に広がり理科室内の視界は一瞬で塗り潰される。
影喰の動きが鈍くなったのと視界が完全に煙で覆われたのを確認し、華と冷は寄り添うように背中合わせに集合。
互いに白い指輪を外すとディスガイズコネクトが解除され、元の姿に戻る。
いつもの白いブレスレットを装着すると、二人は構えた。
「”変異!”」
「”武装!!”」
背負っている箱から放たれた白い光と黒い光が、まるで生命を得たかのように爆ぜた。
瞬く間に周囲の空間を純白と漆黒が入り混じり、染め上げる。
無数に舞っていた白い粒子と黒い粒子が、まるで意思を持った精霊のように彼女達の元へ吸い寄せられていく。
粒子は華と冷の服へ吸い付くように張りつき、
瞬く間に形を変え、しなやかな装甲ドレスへと変化していく。
同時に―温かな桃色の光が、華のダークブラウンの髪に絡みついた。
光はその色をみるみるうちに染め上げ、やがて淡い桃色の髪へと変えていく。
一方。
冷の髪留めが弾け飛んだ。
金色の髪が解き放たれ、弾けるように背中へ広がる。
耳元で光の欠片がパチンと弾け、それはそのまま煌めくピアスとなって装着された。
粒子の帯が編み込まれるように絡み合い、艶やかな長い髪となって膝まで伸びる。
頭上には純白の二輪の花が咲き誇る。
足元では粒子が収束し、純白と漆黒のブーツがぴたりと形を成した。
装甲ドレスは肌に吸い付くように優しく、
それでいてあらゆる攻撃を弾き返すかのような強固さで、二人の体を包み込む。
最後に。
腰へ集まった光が――ふわり、と広がる。
それはやがて大きなリボンとなり、風を受けて静かにたなびいた。
次の瞬間、バチンッ!!
耳をつんざく音と共に白と黒の光膜が弾け飛ぶ。
煙の中に、
ピンクの髪を靡かせ、
純白のドレスを纏う少女――華。
そして。
金色の長髪を揺らし、
黒のドレスを纏って静かに佇む少女――冷。
二人の戦士、
”アイアンガール”がそこに立っていた。
「被害が大きくなる前に場所を変えないと!」
華が影喰を睨む。
「どうするの?」
冷が短く聞く。
「こうする!」
華はにやりと笑った。
次の瞬間、華は勢いよく走り出した。
迫りくる触手を――横凪に飛び込み、回避。
そのまま床を滑るようにスライディングし、影喰の背後へ回り込む。
振り向くより早く。
華は伸びてきた触手を両腕で掴んだ。
「よっと!!」
そのまま全力で跳躍。
理科室の窓へ体ごと突っ込む。
ガシャァン!!
ガラスが砕け散り、華は触手を掴んだまま外へ飛び出した。
そして。
「出てこーーいッ!!」
思い切り引っ張る。
ズゴォォン!!
窓枠が歪み、外壁が濁流のように砕け散る。
巨大な影喰が校舎の中から無理やり引きずり出された。
「ギャァァァアアア!!」
影喰が悲鳴のような咆哮を上げる。
空中へ引きずり出されたその巨体を――華は触手ごと振り回した。
ぐるり。ぐるり。遠心力が膨れ上がる。
そして。
「はあああああっ!!」
真下の中庭へ――ドォォン!!
叩きつけた。
地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。
「そこならっ」
理科室の壁に開いた風穴から外へ飛び出した冷が、
中庭に着地する。
指を銃のような形にして構えた。
その瞬間。
肉眼で捉えるよりも早く、正面から触手がうねりを上げ迫る。
だが。
目の前に――白いドレスと桃色の髪が舞い降りた。
ゴスンッ!鈍い音が響く。
華が触手を片手で受け止めたのだ。
「押さえてるから今のうちに!」
「おっけぇ!」
冷は横に飛び、位置をずらす。
両手の平を前に向け、狙いを定めた。
「ライトバレット!レイン!」
次の瞬間。パパパパパッ!!
連続で放たれた光の弾丸が、空気を裂く。
触手を――三本。正確に撃ち抜いた。
ズバンッ!
黒い触手が地面へ落ちる。
痛みに暴れ出す影喰。触手の締め付けが緩み、華は解放された。
「よしっ!」
振り向きざまに――裏拳。
バギィン!!
触手を弾き飛ばす。
そして華は、拳を強く握り締めた。
「言い忘れたけど……」
影喰を真っ直ぐ睨む。
「私は、お前を――」
地面を蹴る。
アスファルトがめくれ上がり、衝撃波が後方の木々を激しく揺らした。
「ぶん殴りにきた女だッ!!」
助走から一気に加速。
拳を振りかぶる。
「怪力!!」
その速度の圧は、影喰に移動の合間すら与えない。
「インパクト!!」
拳に光が集中する。
「ミサイルッ!!!」
ゴゥ――重い轟音。空気が押し潰される。
次の瞬間。
影喰の体に――大きな風穴が空いていた。吹き抜けた衝撃が、周囲の空気を震わせる。
その真後ろ。
拳を振り抜いた姿勢のまま、静止する華の姿。
黒紫の水晶に――ピシリ、小さな亀裂が走る。
もう一度。ピシッ。
蜘蛛の巣のようにヒビが広がり――パリンッ!!
水晶は砕け散った。
黒い粒子が霧のように舞い上がる。
その中から――人影が飛び出した。芝生へと叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。
やがて、ぴたりと動きが止まった。
華が振り返る。
見覚えのある制服。
芝生の上に横たわっているのは――先ほどの女子生徒だった。
「冷」
華は歩み寄り、気を失っている女子生徒のそばで屈む。
そして優しく抱き起こした。
「ナイスアシスト!」
振り向き、ニカッと笑う。
その表情に、冷の背筋がぴんと伸びた。
両肩が自然と上がる。
顔が赤く染まり、今は内心舞い上がっているのもあって、自分がキョトンとした顔になっていることすら気づいていない。
「……」
そして華の視線が別の方向へ向く。




