ざけんな!
「えっ、ちょ!」
冷が慌てて腕を伸ばす。
だが、その手が届くより先に。
ガラッ!
華は引き戸のドアを思い切り開け、理科室へ踏み込んだ。
「なにやってんだよ!」
怒鳴り声が教室に響く。
一瞬で――理科室が静まり返った。
さっきまで騒いでいた生徒たちの声が止まり、全員の視線が一斉に華へ向く。
突然現れた見知らぬ大人。
教室の空気が、ぴたりと止まった。
その後ろで。
冷は額に手を当てた。
「はぁ……」
小さくため息をつき、呆れたようにうなだれる。
(やっぱりこうなるよね……)
急に知らない大人が怒鳴り込んできたことで、理科室の空気は完全におかしくなっていた。
華は真ん中で倒れている女子生徒を指差す。
「今、外から見てたけど!」
教室中を睨み回す。
「この子に椅子投げてたよな!なんでそんなことしてるんだよ!」
怒りの声が響く。
「は?別にいじめじゃないですけど?」
「遊んでただけだし、なんなの」
「誰か知んねーけど勝手に入ってくんなよ!」
生徒達の反応は、何処か強かった。
冷も後から理科室に入ると、黒板に書かれた自由学習の文字が目に入る。
(実習……先生がいないから、こんなことやってるんだ。この子達……)
何となく状況を理解し、冷は息を顰める。
次に華がどう出るか、黙って見ていた。
華は倒れている女子生徒を一度見てから、生徒達の方へ視線を向ける。
「悪いけど」
一歩、強く踏み出した。
「どんなに相手の数が多くても、私は――」
少しだけ間を置く。
「イジメられている一人の子を見捨てることも、見て見ぬふりもできない!」
教室の空気がピリっと張り詰める。
華は真っ直ぐな目で生徒達を睨みつけた。
「下手な言い訳でごまかすアンタ達と違って」
拳をぎゅっと握る。
「私は弱っちくないからね!」
「やめてください!」
女子生徒が叫んだ。
振り向くと、弱弱しく起き上がる女子生徒の制服は暴力に寄りは引き裂かれ原形をとどめておらず、
鼻血を出し顔にも大きな痣が刻まれている。
昨日見たかわいらしい顔は、いじめにより歪んでいた。
「もう、やめて…」
呼吸が乱れ、女子生徒は話すことすら辛そうだった。
「イジメじゃないから。アタシなら、大丈—」
「じゃあなんで泣いてるの!」
華の言葉に、女子生徒は目を見開く。
自分でも気づいていなかったが、頬を伝って流れ落ちる熱いしずくは彼女の意思だった。
「誰か知んねーけどさ」
男子生徒の一人が話に割り込んでくる。
「そいつの親は人殺しなんだよ」
「市長やってた自分の親父が子供跳ねて殺したんだ、ならその罰は当然娘も背負うべきだろ」
「そうそう!本人がイジメじゃねーって否定してるんだ。これは罰というなの遊び、いじめごっこっていう冗談みたいな—」
「ざけんな!!!」
華の怒りの声が、教室の空気を揺らす。
話していた男子やざわついていた他の生徒達も一瞬で黙り込んだ。
「それが冗談でも軽口でも傷ついた側がそう思ったなら、それは暴力なんだよ!泣いてるのがその証拠だろ!」
更に華は続ける。
「親の罪を子供に背負わせるなんて、どこの時代の話してんだよ!」
華は座り込んでいる女子生徒へ向き直る。
「もう、我慢しなくていいよ!」
優しい声だった。
その奥には強い怒りが込められている。
「『いじめじゃない』なんて言わなくていい。嫌なら嫌って言っていいんだよ」
華ははっきりと言った。女子生徒の肩が小さく震える。
「怖かったんだろ、もう大丈夫だ」
そして教室の生徒達を睨んだ。
「この状況、私が全部止めるから」
「……やめてよ」
女子生徒の声は、小さく、震えていた。
「そんな優しくしないでよ……」
その瞬間だった。
女子生徒の足元の影が――ぐにゃりと歪む。
まるで生き物のように膨れ上がり、床の上を這うように広がっていく。
華の目付きが変わった。
「来る!!」




