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大人な二人

「今回は結構ハッキリ頭に出てる!」

「何が、出てるの?」


華と冷は天上市内の大通りを走っている。


冷はスマートフォンを取り出し、ロック画面を解除する。すぐに検索できるように構えながら、華の言葉を待った。


「大きな建物……広い敷地……制服を着た人がいっぱいいる!」

「……制服。ってことは学校?」


華は少し考えるように眉をひそめたあと、ぱっと顔を上げた。


「うん!多分学校!なんか……グラウンドも見える!」

「グラウンド……」


冷はスマートフォンの検索画面を開き、素早く指を動かす。


『天上市 学校』


検索結果にはいくつもの学校名が並んだ。


「この街、学校結構あるね……」


走りながら画面をスクロールする。


「華、他に見えるものは?」

「えーっと……あっ!」


華が急に声を上げる。


「なんか、大きい門がある!鳥の像が左右にある!」

「鳥の像?門?」

「うん!なんか……ハトみたいな!」


冷の指が止まる。スマートフォンの画面に表示されている学校の写真の一つ。

そこには、立派な校門が写っていた。


「……ここかも!」


華が画面を覗き込む。

冷は頷く。


「天上市立天上中学校……ここが一番近い」


二人は顔を見合わせた。


「いこ!」


華はさらにスピードを上げて走り出す。

冷のスマートフォンの地図案内を頼りに、慣れない土地を駆け抜けていく。


知らない裏路地。慣れない街の空気。大通りから外れ、小道へと入ったとき――

目の前に、緑色のフェンスが現れた。


「ん?!」


華が急に立ち止まった。フェンスの奥に見える校舎を、じっと見つめる。

そして次の瞬間、ぱっと顔を上げた。


「ここだ!」

「……天上市立天上中学校。ここに影喰が?」

「うん、間違いない!」


冷はスマートフォンの時間表示を見る。


「今、8時50分。普通なら授業中なはずだけど……」

「黙って入る?意外とバレないよ!」

「それはダメっ。不法侵入になるよ」

「ブー」


華は頬を膨らませて不満そうな声を出した。


……もしかして。

今まで似たような状況のとき、この子は勝手に他所の敷地に入っていたのでは?


拗ねた顔の華を見ながら、冷は内心でそう思う。


そして、静かにため息をついた。

少しだけ呆れながら。


「とはいっても、この学校の中にいるんだよね…」


冷は顎に手を当てる。


「なんとかして入る方法……」

「透明になるとか!」

「そんな姿変える並みの難しいことなんて……」


言いかけて、冷の口が止まった。


「あ」


思い出したように、

冷は手に持っていたキャリーケースをアスファルトの上に寝かせる。

カチリ、とロックを外し蓋を開ける。

中から取り出したのは、小さな丸いケースだった。


パカッと開く。

中に収まっていたのは――二つの白い指輪。


「なにこれ?」


華が興味津々で覗き込む。


「この前クリスチャントから貰ったの。作ったのはお父さん」


冷は指輪を一つつまみ上げた。


「私たちが使ってるパワードスーツの拡張機能なんだって」

「へー。どういうことが出来るの?」

「姿を変えられる」

「えっ」


華の目がぱっと輝く。

冷はそのまま、自分の薬指に指輪をはめた。


「華もつけてみて」

「うん!」


華は嬉しそうに手を差し出す。冷がもう一つの指輪を取り、華の薬指にはめた。

指が触れ、華が少し照れたように笑う。


「な、なんかこういうの照れるなぁ……!」

「エモいよね」


二人は思わず笑った。


「で!で!次はどうするの!」


華は両手の握りこぶしを作り、ぶんぶんと小さく振る。


冷はスマートフォンを取り出し、画面を操作する。

専用アプリを開き、指でスクロールしていく。


「えーっと……専用アプリを開いて、モードを選択……」

「アプリで操作できるんだ?!」

「そうそう。クリスチャントに言われて、この前落としたんだよね。何て名前だったかな……」


親指で画面をスクロールする。

そのとき、冷の指が止まった。


「あ、これだ」


画面にはリングメモリの管理アプリが表示されていた。


「えーっと……」


冷は項目を一つ選び、華の方を見た。


「これ、良さそう」


操作を終える。

画面が一瞬だけ光り、リングが小さく振動した。


「変身するときは“ドレスコネクト”。だけど――」


冷は少しだけ楽しそうに笑う。


「変装するときは——…”ディスガイズコネクト”」


その瞬間。


二人の指にはまったリングが、淡く白い光を放った。

背負っていた六角形の白い箱と黒い箱が、粒子のような光へと分解される。


その光が空中に広がり、二人の体を包み込んだ。


体の輪郭がぼやける。

その上から、別のシルエットが重なっていく。身長が少し高くなり、雰囲気が変わる。

髪型も、服装も――全く別の姿へと書き換えられていく。


数秒後。


そこに立っていたのは少女ではなく――

落ち着いた雰囲気の、大人の女性が二人だった。


二人とも、きちんとしたビジネススーツ姿に変わっている。


冷は、落ち着いたネイビーのジャケットに白いブラウス。

細身のパンツスーツで、動きやすさを重視した実務的な服装だった。

肩まで伸びた金髪は後ろでまとめられ、知的で少し厳しそうな雰囲気を作っている。


胸元には、小さなホルダーに入った職員証のようなカード。

そこには淡く光るホログラムで、「教育委員会 調査担当」と表示されていた。


一方、華の方は明るめのグレーのスーツ。

柔らかなジャケットに膝丈のスカートを合わせた、少し親しみやすい印象の服装だ。


肩まである髪型もゆるくまとめられ、さっきまでの元気な少女の面影はほとんどない。

肩からは書類用のタブレットケースが下がっている。


二人とも足元は低めのヒール。どこからどう見ても、学校に来る教育委員会の職員だった。

華は自分の手を見て、ぱっと顔を輝かせる。


「おおおお!!」


くるっとその場で一回転する。


「すごい!ホントに変わってる!髪も伸びてる!」

「変装者の顔や容姿を見て、未来の自分の姿をAIで予測して変換してくれるらしいよ」


冷もスマートフォンの画面を鏡代わりに確認する。


「AR投影だから、実際の体はそのままだけどね」

「でもバレないんでしょ?」

「普通に見ればね」

「なんか…めちゃ仕事できそうな人になってるよね!」

「見た目だけね」


冷はスマートフォンをポケットにしまう。

そして校門の方を見た。


「じゃあ行こう」

「よーし!潜入ミッションだ!」


華がにやっと笑う。


「普通に来客として入るだけだからね」


冷は楽しそうに苦笑し、歩き出す。




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