地獄のオフ会!信長、御所の門前に現る
「パスワードを……パスワードを教えろと言っておるのだぁぁぁ!」
御所の門の外から、地鳴りのような怒号が響き渡る。
門を叩く音ではない。あれは、織田軍が最新の「物理デリート(丸太)」で門を破壊しようとしている音だ。
「ひぃっ! 駆! 駆はどこだ! ログインできないだけで人はあんなに狂うものなのか!?」
足利義明は、金屏風の裏に隠れながら、ガタガタと震える手でスマートフォンを握りしめていた。画面には、門の外で自撮り棒を振り回しながら「認証コードを吐け!」と叫ぶ信長のライブ配信映像(監視カメラ経由)が映し出されている。
「あー、将軍。信長さん、よっぽど中のデータが大事だったみたいっすね。さっき、美濃を攻略した時のスクショをクラウドに保存し忘れたらしくて、マジギレしてますよ」
天野駆は、相変わらず畳に転がり、義明の高級な羽織を枕にしながら、適当な操作で「信長のイライラを加速させるBGM」を外のスピーカーから流していた。
「そんなことはどうでもよい! 門が破られたら、予は確実に消去(物理)される! 駆、お前のあの『謎能力』で、信長を黙らせろ! もしくは、あ奴のフォロワーを全員アンフォローにしろ!」
「んー、じゃあ、ちょっとだけ僕の『隠しコマンド』使いますね」
駆がスマホの画面を複雑になぞると、門の外で暴れていた信長のスマホから、大音量で
「ログインに10回失敗しました。アカウントを一時凍結します」
という無慈悲なシステムボイスが響き渡った。
静寂。
門の外にいた数千の織田軍が、一瞬で凍りついた。
「……凍結……? この、織田信長のアカウントが……天下布武(笑)のアカウントが……凍結だと……?」
信長が膝をつく音が、マイク越しに聞こえてくる。
今だ。義明は、恐怖を「ドヤ顔」に変換し、駆に命じた。
「今だ駆! 予の声を、外の巨大モニターに繋げ! 威厳をもって、あ奴に『マウント』を取ってやるのだ!」
画面が切り替わり、御所の巨大ビジョンに、加工アプリで三倍増しに美白された義明の顔が映し出される。
「……ふふふ、信長よ。アカウントの復活を望むか? ならば、そこに跪け。予の公式チャンネルに登録し、通知設定を『すべて』にした上で、上洛の挨拶をするのだ。さすれば、副将軍のポストと共に、管理人の駆から認証コードを教えてやらんこともない!」
義明は、高鳴る血圧(185/110)を「将軍の威光」だと思い込み、鼻の穴を膨らませた。
門の外で、信長はじっと地面を見つめていた。その肩が、小刻みに震えている。
……怒りか? それとも、絶望か?
「……わかった。登録してやる。……通知もオンにしてやる……。だから、そのパスワードを……教えろ……ッ!」
「勝った……勝ったぞ駆! 天下の信長を、予のフォロワーにしてやったのだ!」
義明は狂喜乱舞し、血圧計を放り投げて踊り出した。
しかし、駆の目は笑っていなかった。彼は画面をスクロールしながら、ボソリと呟く。
「……あーあ。将軍、調子乗りすぎっすよ。信長さん、パスワードを手に入れた瞬間に『パスワード変更:【Shogun_Korosu_1059】』に変えてますよ。これ、確実に後でリアル凸(焼き討ち)来るやつっすね」
「……えっ?」
義明の踊りが、ピタリと止まる。
御所の門がゆっくりと開き、パスワードを手に入れて「超高速ログイン」を果たした信長が、血走った目でこちらを睨みながら歩いてくるのが見えた。
「さぁ……オフ会の続きをしようか、将軍……」
義明のスマホから、「心拍数が異常です」という警告音が鳴り響いた。




